
ダンテはマサチューセッツ州警察K9部隊(警察犬部隊)で勤続9年になるベテラン犬だ。2014年1月、肺高血圧症と診断され、激しい発作を何度も起こした。
治る見込みはまったくなく、苦しむだけの日々が続く場合、アメリカでは文化的に、安楽死を選択する場合が多い。
だが常に一緒に寄り添っていたハンドラーにとって、それはあまりにも辛い苦渋の決断だ。
以下で紹介するのは、ダンテの相棒でありハンドラーだった、クリストファー・コッシャが相棒の死に立ち会うまでの葛藤を、Facebookに綴った文章である。
彼のあふれ出る感情とその絆の強さが伝わってきて、涙なしには読むことができない。
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最後の旅路(One last ride)
マサチューセッツ州警察K9部隊 クリストファー・コッシャ[https://www.facebook.com/photo/?fbid=574743112609676&set=a.580429268707727]
寒い雪の日だった。吹雪で訓練が中止されたが、私には9年を連れ添った相棒を眠らせねばならないという気の重い役目が残された。
ダンテは素晴らしい犬だった。威風堂々としたブラック&タンのシェパード犬だ。
ある程度年を取った人には、テレビドラマの『ラン・ジョー・ラン』に登場した犬に似ていると話してきた。大きな頭にピンと立った耳、がっしりとした体躯の持ち主で、その姿には風格があった。また個性もあった。
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犬の中にはやたらと人間臭い奴もいる。A型性格(マイヤー・フリードマン博士らが提唱した性格の区分。攻撃的傾向がある)の犬は、近しい仲間にしか触れることを許さないし、ときにはそうした人の手すら拒否する。
ダンテには孤高の犬という表現がぴったりで、慣れない人は近寄り難かったろう。だが、私たちは固い絆で結ばれていた。
毎朝、犬舎の扉を開けると、私に駆け寄ってきては、腰の周りをハグして朝の挨拶をしてくれた。しばらく撫でてやると、階段をすごい勢いで駆け上り、ドアを押し開け、準備万端で仕事に出かける。

ダンテの在職中、西はリー、ノースアダムズ、シューツベリー、東はブリントンまで受け持ち、何度かサウスショアまで出動したこともあった。
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恋人を殺した犯人の居場所を突き止めたり、それまで州史上最大だった現金強奪事件の数倍の額を強奪した犯人を見つけ出したこともあった。
麻薬売買の撲滅にも役立っている。ヘロイン1,000g、コカイン8,600g、マリファナ450kg、現金1400万ドル(訳16.9億円)の摘発に貢献してきた。
ダンテは非常に賢かった。ある日、私が彼を伴って外出したとき、パトカーのドアの開け方を間違って教えたことがあった。
開け方を示すのに5分もかかっていた。しかし、そこからダンテはハンドルでドアが開くことを察して、口でハンドルを咥えて引くか、捻ればいいということを理解した。
この知識をパトカーの仕切りについたスライドドアにも応用して、常に私の側にいようとした。
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パトロールの最中は、ときどき頭をケージから突き出して耳を掻くこともあった。こんなに強く賢い犬のどうにもならない姿を見るのは辛いことだ。
それはある日、ダンテを犬舎から出したときに始まった。彼は身体が動かなくなって、まるで岩が転がり落ちるかのように私に倒れこんできた。
獣医で何度か検査を受けた結果、明らかに肺高血圧の兆候が見えるとのことだった。肺から酸素をうまく取り入れることができなくなる原因不明の病気だ。
ダンテが倒れたのはこのせいだった。心臓の右側が拡大しており、血液の循環が悪くなっていた。数週間後、脳が酸欠なったことで発作を起こすようになった。
ある日、家の庭でまたもや発作を起こした。雪の上に座ってダンテを撫でながら落ち着くのを待って、家の中に戻った。重い気分で家の中に入ろうとしたとき、妻と2人の子供が私たちをじっと見つめていたことに気がついた。 きっと大丈夫だ、と。だが、そうはではなかった。
ドアから中に入ると、妻と子供たちは泣いていた。おそらく心の準備などできぬ間にその時が来ることを分かっていたのだろう。息子はしょんぼりと座って、くよくよしなければダンテは良くなるだろうかと考えていた。
ダンテが家にやって来たとき、息子と娘はそれぞれ3歳と1歳だった。ほぼ生まれてからずっとを一緒に過ごしてきたのだ。

避けられない運命を迎えるため獣医に行く日がやってきた。
これまで2,300回以上も一緒にドライブに行ったが、その最後は、ダンテは自力で庭に出ることもできなくなっており、車の中ではまっすぐ座っていた。
そのドライブでは8時間ももたもた運転していた。それまで何度もしたように辺りを流しながら、安楽死させるべきか煩悶していた。
ダンテはまっすぐ座って、いつも以上に油断なく周囲に目を配っていた。かろうじてしか呼吸のできない犬が、こんなにも長い間まっすぐ座って、警戒していられるものだろうか?
私は、最後の決断を下す前に、3kmも離れていない駐車場でこれを書いている。私の話はここに綴った通りで、纏まりがないかもしれないが、本心から書いた。
書きながらも、涙が溢れ、頰を伝ってくる。これを書いている間も、ダンテはまっすぐ座って私を見つめている。
ケージから頭を突き出すたびに、きっと大丈夫さと伝えてくる。だが、その度に私は間違っているのではないかとの思いが浮かぶ。
ダンテが休日を乗り切ってくれたので嬉しい。昨日は妻の誕生日だったのだ。その日、これをしたくはなかった。誕生日がダンテを安楽死させたという彼女にとって悲しい日になってしまうから。私にとっても同じことだ。
これを書きながらも新たな思いと相棒の思い出が浮かんでくる。どの段落からも新たな思いと苦しみがこみ上げてくる。

警察官と警察犬は深い絆で結ばれている。K9の警察官は専属の犬と共に暮らす。それだけに別離は耐えられない思いだろう。
重病になった警察犬に対し、自らが死の判断を下さなければならないのだ。悲しいことに犬の寿命は短い。警察犬のような過酷な任務をする犬はなおさらだ。
犬は全力で飼い主を守ろうとするし、与えられた職務を全うすることを喜びとする。それ故に安楽死の決断は辛いものがあっただろう。
これ以上苦しめたくはないという思いと、もしかしたら奇跡の回復をするかも、という思いが交差する。21世紀の現代ですら、人類は犬の力が必要なのだ。
犬は人類にとって永遠のパートナーであり親友でもある。犬の寿命を人間と同じだけ伸ばす技術が確立されることを心より願うばかりだ。

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