「パートナーの風俗店通いは不倫になるのでしょうか?」。SNSや実際の法律相談でも、そんな質問が寄せられることは珍しくありません。中には話し合いでは解決せず、裁判に至ることもあります。

では、裁判所はどのように判断するのでしょうか。

昨年(2024年)にあった裁判をもとに、

・既婚者が風俗を利用することが、どのような場合に不貞行為にあたるのか
・どういう場合に、妻が夫ではなく、風俗店の女性店員に損害賠償を請求することが認められるのか          

この2点について検討してみようと思います。

●本記事のまとめ

・風俗の利用も不貞にあたりうる
・不貞の相手方(店員)への請求も認められる場合がある
・学説や諸外国は、損害賠償請求に否定的

●JKリフレとは?

東京地判令和5年7月12日は、夫がいわゆる「JKリフレ」で従業員と性交渉に及び、妻が女性店員に損害賠償を請求した、というものです。

JKリフレとは、女子高生の制服を着た従業員(※本当に女子高生かどうかは不明)が、個室で男性客にマッサージを施す、という業態です。

「リフレ」とは「リフレクソロジー」のことで、本来は体のツボを指圧する健康法ですが、いわゆるJKリフレでは、表向きはマッサージといいつつ、若い従業員女性と密着するなどの性的欲求を満たすことが目的とされていることが多く、さらに「裏オプション」として性交渉を行うケースがあることも問題視されています。

このケースでは、夫は従業員と性交渉に及んでしまったわけですが、こういった場合に、妻から従業員に対する慰謝料請求が認められるのでしょうか。順に検討します。

●風俗の利用も「不貞」にあたる

風俗を利用しても、不貞とはいえないのでは?と考える人もいるかもしれません。

しかし、配偶者以外の者と、自由な意思に基づいて性交渉を行うことは、不貞にあたると考えられています。この考えから、判例は風俗で性交渉を行った場合も、不貞にあたると考えています。

不貞行為の相手方に対する慰謝料請求

次に、妻が、夫ではなく、夫の不倫相手(本件なら女性店員)に対しても、慰謝料請求できるのか、が問題となります。

判例(最判昭和54年3月30日等)は、不倫相手も妻に対して不法行為責任を負い、慰謝料を支払わなければならないとしています。

不倫相手が、夫と共同して「夫婦の婚姻共同生活の平和を害した」以上、不倫の相手方も不法行為責任を負うと考えているものと思われます。

●本件裁判の争点

東京地判令和5年7月12日では、妻から風俗店従業員に対する不法行為に基づく慰謝料請求権を認めています。

本件裁判では何が争点となっていたのか、主な争点と裁判所の判断を簡単に整理してみます。

原告(妻)からの損害賠償請求に対する、被告(女性店員側)の反論の内容を簡単にまとめると、以下のようになります。

1) JKリフレは性行為をすることが当然の前提であり、実質的には性風俗店である。
2) 女性店員は夫に対する恋愛感情はなく、営業としてメッセージのやりとりをしていたにすぎない

以上より、両者の関係は従業員と利用客でしかなく、その性交渉は夫婦の婚姻共同生活の平和を害しない。

●裁判所の判断

この反論に対し、裁判所は、以下のように判断しました。

1) 性交渉が当然の前提なのか

JKリフレは性交渉を行うことを当然の前提としているわけではない。最終的には利用客と従業員との交渉によって、「裏オプション」としての性交渉を行うかが決まる。

2) メッセージのやりとりについて

女性店員は、夫が既婚者であることを知った上で性交渉に応じている。

店員は夫とのやりとりの中で、「パートナーもいて私もいて愛せる人がたくさんいるのってうらやましい」と送信したり、夫から「彼氏ヅラしても良さそうだね」と言われたのに対して「勝手にもお彼氏だとおもってるけどわたしは」と返信したり、「嫁のこと考えたら手を引くべきなんだよなあー」と送信したりしたことがあった。

たしかに、夫と店員の性交渉(※4カ月の間に10回が認定)は、JKリフレの利用を介してのものでしかないが、このような恋愛感情を示すようなやりとりをしていることなども含めて考えると、夫婦の婚姻共同生活の平和を害する。

ただし、婚姻共同生活の平和が害されているとしつつも、その程度は一般的な不貞行為に比べると相対的に低い。

以上のように判断し、合計66万円(慰謝料60万円、弁護士費用6万円)の損害賠償請求を認めました。

このように、裁判所は、店員が妻に対して不法行為責任を負うかについて、具体的に事案に即して判断し、今回のケースでは夫婦共同生活の平和を害する、として、不法行為責任を負うとしています。

夫が風俗店で不貞行為に及んだ場合に、「常に」店員が妻に対して不法行為責任を負うと判断しているわけではないということに注意が必要です。

●学説では反対意見が多い

学説では、不貞行為の相手方に対する慰謝料請求を否定する見解が多くあります。

その理由はいくつかありますが、代表的な考え方として、配偶者間でのみ責任を認めるべきである、というものがあります。

婚姻関係にある配偶者同士では貞操義務があります。この義務は、配偶者間でのみ強い拘束力を持つというべきであって、慰謝料請求は不貞をした配偶者に対してだけ認めるべきだ、という考え方です。

なお、欧米では不貞行為の相手方に対する慰謝料請求は認められないようです。

また、原則として不貞の相手方に対する慰謝料請求は認めないが、不貞の相手方に害意があったり、策略的に不貞が行われた場合だけ、不貞行為の相手方に対する慰謝料請求が認められる、という考え方もあります。

(弁護士ドットコムニュース編集部・弁護士・小倉匡洋)

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