タレントの中居正広さんと女性との「トラブル」をめぐり、週刊誌に社員の関与を報じられたフジテレビは1月17日、港浩一社長らによる臨時の定例会見を開いた。

ようやく開かれた会見への参加は、記者クラブ加盟の新聞社などに限られ、生中継や生配信も認めず。そのような閉鎖的な空間における港社長の受け答えには「逃げ」の姿勢が感じられた。

どれだけ言葉を取りつくろっても、女性より大物タレントの中居さんと自社の番組を優先したように見えた。メディア企業として「失格」と指摘するほかない。(テレビプロデューサー・鎮目博道)

●テレビ映像の力を知る「港社長」だからこその「逃げ会見」ではないか

映像がないので、会見内容を伝える記事を読んだ。テレビ局の報道番組に関わっていた人間として到底納得のいく形の会見ではなかった。

これまで問題を率先して報じてきた女性セブンや週刊文春など雑誌媒体をはじめ、ウェブメディア、フリーランスの記者に参加を認めず、「オブザーバー参加」のテレビ各局は質問ができなかった。

疑惑の追及を進めた雑誌記者からの「鋭い質問」を避け、逃げたのではないかと疑われても仕方がない。生中継や映像での撮影を認めなかったのも「逃げ」だと思う。

映像が人に与える「印象のチカラ」はとても強い。映像は「誤魔化しや逃げ、言い淀みや焦り」などをすべて晒してしまう。テレビマンの港社長は十分すぎるほどわかっているはずで、だからこそ逃げたのではないかと私は感じた。

テレビ局の社長の会見が静止画で伝えられるのはシュールだった。

●どれだけ釈明しても…中居さんの番組を継続させたのは事実

それでもわかった大切なポイントがある。

・フジテレビは2023年6月に起きた女性と中居さんとの間のトラブル直後に、問題を把握していた。女性の様子がおかしいことに気づいた社員が「極めてセンシティブな問題」と認識した。

・港社長も、この事案を知っていた。

被害者がフジテレビの社員であることを尋ねる質問もあったようだが、個人の特定になるとして明言を避けたという。

これらの事実から、長年テレビ業界に身を置く私の立場から見えてくるのは、「港社長をはじめとするフジテレビは、報道機関として人権侵害に真摯に対応するよりも、大物タレントである中居さんとの関係性と、その番組を継続する方向性を最も重視した」ということだ。

港社長は会見で「被害者である女性の心身の健康に配慮した」などと、女性に配慮したことを最大限に強調した印象がある。しかし、残念ながら私にはそうは見えない。

一番大きな問題は、「中居さんが女性に何らかの加害をおこなった」ということを1年半も前に社長も含めて把握していたにも関わらず、何もなかったかのように中居さんの起用を堂々と継続していたことである。

港社長は「突然番組が終了したら、あらぬ憶測を生むから終了時期を慎重に検討していた」などと述べたようだ。そのような判断はメディア企業の社長としてありうるものだろうか。

●中居さんのトラブル発生はジャニーズ人権問題の渦中だった

2023年といえば、まさにジャニー喜多川氏による性加害が大きな問題となっていた時期である。テレビ各局が問題を報じず、旧ジャニーズ事務所に対してもこれといった対応をしなかったことが問題になった時期だ。

批判されたテレビ各局は「人権侵害に対して今後は真摯に対応する」と誓ったはずではないか。その裏側でフジテレビは、そして港社長は、性加害も疑われるトラブルを起こした状況であるのを知りつつ、中居さんの出演をしれっと継続したのだ。

たとえ確定的な事実とまで認められなかったとしても、「人権侵害の疑い」がある人物の出演は事実関係が明らかになるまでは見合わせるのがテレビ業界の常識というものだ。

フジテレビがやったことは視聴者やスポンサー企業、そして社会全体に対する大きな裏切り行為ではないのか。

そして、被害女性からすれば「自分に加害に及んだ男性が何らの咎めもなしにテレビに出続けている」という許し難い状況が継続していたことになるのではないだろうか。

フジ側の理屈としては「いきなり終了すれば憶測を生む」「示談が済んでいた」からだというが、いくらでも出演を一時的に取りやめる口実など作れたはずだ。

2023年12月にはダウンタウンの松本人志氏に関する疑惑が報じられ、2024年1月に松本氏は活動自粛をしているのだから、少なくともそのタイミングで「まつもtoなかい」を休止することは比較的容易にできたはずで、それをわざわざ「だれかtoなかい」にタイトル変更して継続したことを考えると「終了時期を慎重に考えていた」とはとても思えない。

中居さんの今後の起用を尋ねられると、起用を否定すると答えるのではなく、回答を差し控えたそうだ。いかなる理由でこの対応を導いたのか。

●立ち上げられる「第三者の弁護士による調査委員会」と「第三者委員会」は別物

結局は週刊誌に書かれて世間に明るみになるまで、フジテレビは中居さんに行動を起こさなかったのだ。これは言い逃れのできない事実だろう。

1年半近くも世間に対してダンマリを決め込んだ。そして、報道した週刊誌などに向けて「会合の設定に社員が関与していない」と抗議をしただけだった。

フジが把握する「中居さんに関する疑惑」や「女性が受けた人権侵害」について、そして「自社がタレントによる人権侵害について、事実を把握しつつも何らの対応も取らなかったこと」について何も発表しなかった。外国株主による外圧がかかるまで何も対応しなかったわけだ。

フジテレビは、喜多川氏の性加害問題から何も学ばず、何も反省していなかった。それが今回の社長会見で明らかになった。フジテレビは、オールドメディア全般やテレビ局に対して不信感が募っている現在の状況をさらに悪化させた。

メディア企業として失格と言えよう。せめてこれから、公正な第三者委員会を設置して、その調査に基づいて問題と責任を明らかにし、生まれ変わってほしい。

ただ、フジテレビがこれから立ち上げようとする「第三者の弁護士による調査委委員会」は、日弁連が定める「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」に沿ったものではないという。客観性に乏しい調査に終わりかねない。

中居さんと女性とのトラブルへの社員の関与をすでに否定しているが、改めて調査するという。

テレビ業界に身を置くものとして、フジテレビには本当にそろそろお願いしたい。そうでなければ、現場で今日も身を粉にして働く多くのフジテレビ関係のテレビマンたちが浮かばれない。私にもフジテレビで頑張っている知り合いがたくさんいる。彼らがかわいそうで仕方がないのだ。

フジテレビは「視聴者を裏切った」「メディア企業として失格」、中居さん女性トラブルめぐる社長会見をテレビマンが一刀両断