
富裕層が税制上の優遇を受けるために利用する「タックスヘイブン」。一昔前までは網の目を潜って租税回避することができたかもしれませんが、税務当局が各国に協力を仰いだことで、租税回避・脱税対策も以前よりも難しくなりました。税務当局の国外に隠匿された財産情報の取得法について詳しくみていきましょう。本連載では、国際税務の専門家が解説します。
国税庁等に集まる税務情報の種類
所得税法、相続税法、租税特別措置法および「内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律」(以下「国外送金調書法」とします)の規定により税務署に提出が義務づけられている資料を「法定調書」といいます。
この法定調書の範囲はより広く、給与所得や退職所得の源泉徴収票、「報酬、料金、契約金および賞金」の支払調書、「不動産の使用料等」の支払調書など、多くのものが含まれます。これらはすでに実務上でも定着しているものもあります。
最近は、国外送金調書法に基づく調書の範囲の拡大や富裕層の租税回避防止の施策として平成27年度に導入された出国税などのほかに、外国から各種の税務情報が届く制度が拡充されています。
調書制度の種類は以下のとおりです。
① 国外送金等調書(平成9年度に成立)② 国外証券移管等調書(平成26年度に成立)
③ 国外財産調書(平成24年度に成立)は、合計額が5,000万円を超える国外財産を保有する居住者(非永住者を除く)が対象。
④ 財産債務調書(平成27年度に成立)
上記の③は、該当する者が自ら作成提出するもので、国外からの金融口座情報を確認して、国外財産の隠蔽などがわかる仕組みになっています。
租税条約に基づく情報交換
日本は多くの国と租税条約を締結しています。この租税条約には、所得税の租税条約と近年進展しているタックスヘイブンなどの国または地域と締結している情報交換協定、それに多国間の条約である税務行政執行共助条約があります。
このうち注目されているのは情報交換協定です。主たるタックスヘイブンであるバミューダ、バハマ、ケイマン諸島、マン島、ジャージー、ガーンジー、リヒテンシュタイン、サモア、マカオ、英領バージン諸島、パナマとは情報交換協定が締結されています。
情報交換協定は最近の協定ですが、租税条約に基づく情報交換は古くからあるものです。しかし、これまで大きな成果をあげたという話はありません。
AEOIに基づく自動的情報交換
これまでの国外から提供される税務情報は租税条約に基づくものであったことはすでに述べていますが、これによる情報にはいくつかの問題がありました。
1つ目は租税条約が締結されていない国等からの情報が提供されてこないということ、2つ目は最も情報量の多い自動的情報交換の情報は所得に関する情報であり、財産に関する情報ではないこと、ということです。
この欠陥ともいえる領域を埋めるのが金融口座情報自動的交換報告制度(AEOI)に基づくもので、その目的は脱税および租税回避の防止です。
さらに、OECDはAEOIの執行のための共通報告基準(Common Reporting Standard:以下「CRS」とします)を作成しました。
このCRSに基づく情報交換は、外国の金融機関等を利用した国際的な脱税および租税回避を防止する観点から、OECDが非居住者の金融口座情報を税務当局間で自動的に交換するための国際基準であるCRSを公表して、多くの国が実施を約束したのです。
CRSの情報交換は銀行などの預金機関、生命保険会社などの特定保険会社、証券会社などの保管機関および信託などの投資事業体である金融機関と連携を取っています。
普通預金口座などの預金口座、キャッシュバリュー保険契約・年金保険契約、証券口座などの保管口座および信託受益権などの投資持ち分に関して、口座保有者の氏名・住所(名称・所在地)、居住地国、外国の納税者番号、口座残高、利子・配当等の年間受取総額などを報告するものです。
このCRSに基づく非居住者の情報は、居住地国の課税当局に対し情報を提供されることになります。
これまで、外国の金融機関等に預金をすることで、税務当局への申告等を隠蔽していた時代がありました。このAEOIが適用されたあとは、昔の手法は通用しません。
矢内一好
国際課税研究所首席研究員

コメント