
米アカデミー賞長編アニメ映画賞の最有力候補ともいわれている『野生の島のロズ』が、2月7日(金) に日本公開される。『シュレック』などで知られるドリームズワークスのこの作品、昨年9月27日に全米で封切られ、興行ランキング初登場1位、世界43カ国でもNo.1の大ヒット作。無人島に流れ着いた「最新型アシストロボット」が、鳥の子育てに挑戦するという、おとなが見ても心温まり、前向きになれるアニメーションの傑作だ。
『野生の島のロズ』
主人公は型番ROZZUM7134、人間の生活を快適にするために開発されたアシスト・ロボット。通称「ロズ」。性別は女性のようである。ふたつのレンズが特徴的なシンプルな顔、球体型の胴体、そこから伸びる長い腕と脚。『天空の城ラピュタ』に登場するロボット兵や、最近でいうと『ロボット・ドリームズ』の友達ロボットにも似た形状で、自分ひとりで考え、行動できる最新型だ。
そのロズが、搬送される途中に嵐にあい、動物だけが生きる島に流れ着く。かわいい偶然で起動ボタンが押され、目覚める。セットされたプログラム通り、まず、クライアント(注文主)を探し、何カ国語かで接触を試みるのだが、もちろん動物たちの反応はゼロ。それでもお役にたちたいと、ロズは必死で島のなかを動き回る。
あくまで、都市生活者が便利なようにプログラムされ、通販で売られているロボット。島でも、何かサービスめいたことをすると、その相手によかったかどうか評価を求めたり、クーポンをばらまいたり、余計なリコメンドをしたりする。未来型サービスに対応したハイテクマシーンが動物だけの野生の島に投げ込まれた、そのギャップがときにギャグとして炸裂するあたり、かなりおかしい。
さらに、なぜ動物の言葉が理解できるようになったかとか、突拍子もないなりに、納得できるシーンもしっかりあり、細やかな工夫がみられる。

事故や返品の対応がプログラムされているので、その機能を自分で作動させると、もちろん無人島にも回収部隊がやってくる仕組みなのだが、お役にたちたい一心のロズは、そう簡単に音を上げない。学習機能をフル活用して動物たちのなかへ少しずつ入り込み、ついに、「彼女」なりのミッションをみつける。それは、なんと子育て!なのだ。

多くの鳥類には、生まれて初めて見た動くものを親と認識する「インプリンティング(刷り込み)」という能力がある。たしか、映画『グース』はその能力を活かして少女がガンの親代わりをしていた。ロズも、森のなかで、うろうろしているうちに、偶然見つけた雁(ガン)の卵を孵化させることになり、雛から母親と思われてしまう。「キラリ」と名付けられた子雁が渡り鳥として生きていくために必要な「食べる」「泳ぐ」「飛ぶ」を手探りで教えていく。この子育てによって、ロズのなかに、プログラムされていない「母性」らしきものが芽生えてくる、ような……!?

ロボットに「こころ」はあるのか? これはもう『鉄腕アトム』以来のテーマだけれど、AI時代に完全突入した今日、ひょっとしたら、学習能力が発達するとあるのかも、なんて気にさせるストーリー展開だ。
キラリの旅立ちを見送ったあとも、島の動物たちのために尽力するロズだが、やがて、回収ロボットが彼女を探しにやってくる。さらに戦闘型ロボットが舞い降りてきて……。侵入者対ロズと動物たちとの戦いが始まってしまう。

監督・脚本はCGアニメ映画の名作『ヒックとドラゴン』のクリス・サンダース。娘の宿題を通じて、原作であるピーター・ブラウンの児童小説『THE WILD ROBOT(野性のロボット)』と出会い、すぐに映画化を模索した。
「この本で最も心を打たれたのは、一見するとシンプルな物語に秘められた奥深さだ。 いわゆるヒーローもヴィランも出てこないけれど、 とても深みがある 」と監督は語っている。

もちろん擬人化されているものの、動物たちの姿は本物を忠実に再現している。キャラクターを担当するチームは博物館で体の構造を調べ、動物の映像も研究し、リアルな動きを追求したそうだ。劇中に登場する動物は合計で47種類にのぼる。鳥たちが海を渡るシーンでは28,710羽の雁を描き、ロズが無人島の森をさまよう場面では8万もの蝶が群舞する。
森や自然の描写はジブリや、印象派モネの世界からインスパイアされているというが、地球の神秘さえ感じる美しさだ。

日本語吹き替え版ではロズ役を綾瀬はるかが透き通るような声で演じている。相棒ともいえるキツネのチャッカリ役は柄本佑、雁の雛キラリを鈴木福、オポッサムのピンクシッポがいとうまい子というキャスティング。
予告編などには、スペシャルソングとして、NiziUの感情豊かに歌い上げる新曲「AlwayS」が使われている。Mrs. GREEN APPLEの大森元貴が作詞・作曲・プロデュースを手掛けた珠玉の1曲だ。
『野生の島のロズ』予告編ショート スペシャルソング NiziU「AlwayS」バージョン
人型ロボットが登場するアニメはたくさんあるけれど、なんとも和む姿をしたケア・ロボットが活躍する『ベイマックス』とか、ゴミの星と化した未来の地球に残されてたった独りでがんばるお掃除ロボットの『ウォーリー』の系列。老若男女を問わず、ぐぐっとくる作品かと思います。
文=坂口英明(ぴあ編集部)

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