
神奈川県川崎市で1月11日未明、16~17歳の男女4人が乗っていた乗用車が電柱に衝突し、2人が死亡する事故が発生した。
報道によると、車はカーブを曲がりきれずに横転し、電柱に衝突した。ドライバーだった16歳の少年は無免許で運転していたようで、車もこの少年の親の会社名義だったという。
この少年と助手席にいた女子生徒が死亡。17歳の少女が左腕骨折などの重傷、16歳の男子生徒が全身を打ち軽傷を負った。4人は知人同士だったという。
少年が車を運転していた経緯などは不明だが、事故を起こした車が親の会社名義だったことについて、親や会社が事故に関して何らかの責任を負うことはあるのだろうか。交通問題に詳しい平岡将人弁護士に聞いた。
●会社→責任負うことになる 親→原則として責任負わない──事故車が親の会社名義だった点、親や会社が事故の責任を負うことはあるのでしょうか。
本件において、被害者に対して賠償をすべき者は誰かというと、まずは事故を起こした運転手である少年が加害者として責任を負います。未成年ですが、16歳であり責任を認識できる年齢ですから、責任を免れることはできません。
さらに、我が国の交通事故賠償は交通被害者保護のために、直接の運転者以外にも責任を拡張している制度を採用しています。自動車損害賠償保障法3条にいうところの「運行供用者」と呼ばれる者がそれにあたります。
「運行供用者」の典型例は車両の所有者で、他人に自動車を貸した人や、社用車を所有する法人が該当します。そのため、会社も責任を負うことになるでしょう。
一方で、運転もしておらず、車両所有者でない少年の親は、基本的には責任は負わないと考えられます。未成年者である少年に対する監督責任はありますが、16歳の少年が、許可を得ずに車を勝手に運転した場合にまで責任を負うことはないと考えられます。
ただし、無免許運転に積極的に加担しているような事情、たとえば、少年が友達とドライブにいくから車を貸してくれと言われて、鍵を貸したような事情がある場合には責任を負うことになるでしょう。
なお、責任主体が何名いても、損害賠償の金額は同じですから、損害賠償としては、誰か1人が責任を負えば被害者はすべての損害賠償を請求できることになります。
●無免許運転でも保険適用はあるのか?──死亡していますが、運転していた少年の責任はどうなるのでしょうか。
当該少年の負っていた被害者に対する賠償債務は、少年の死亡によって相続が開始されます。その結果、法定相続人に賠償債務が承継されます。
少年はまだ16歳とのことで、配偶者も子もいないでしょうから、少年の親に賠償債務が相続されることになります。
親は、相続放棄という手続きをすることで、少年の負っていた賠償債務を相続しないことが可能です。その場合、被害者は、ご両親に対しては請求できなくなります。
しかし、相続放棄があった場合でも、保険会社に対して、保険金を直接請求することが可能ですから、被害者には保険金が支払われることになります。
──車に保険がかかっていた場合、今回のような事故でも保険適用はあるのでしょうか。
まず、無免許運転と保険適用についてですが、自動車保険の通常の約款で、保険金を「支払わない場合」として定められているのは、わざと事故を起こした場合とか、地震や台風といった人間の力ではどうにもならない原因による事故の場合に限られています。
そのため、運転者が無免許であっても、それを理由に保険金請求を拒否されることはなく、被害者に保険金は支払われることになります。
次に、本件では車両が会社名義ですから、保険も会社名義の契約だと考えられます。会社の役員でも従業員でもない当該少年が事故を起こした場合でも、会社名義の保険が使えるのかが問題となります。
この点、通常の約款ですと、会社名義の契約の場合、「理事、取締役または法人の業務を執行するその他の機関」の「同居の親族」や「別居の未婚の子」が起こした事故については、会社名義の保険が適用されると規定されています。
通常社用車を自由に使えるのは取締役などでしょうが、少年の親が取締役などに該当するかは不明ですので、該当するのであれば本件でも保険を使えることになり、被害者に対して保険を適用して賠償金が払われるものと考えます。
【取材協力弁護士】
平岡 将人(ひらおか・まさと)弁護士
中央大学法学部卒。全国で10事務所を展開する弁護士法人サリュの前代表弁護士。主な取り扱い分野は交通事故損害賠償請求事件、保険金請求事件など。著書に「交通事故案件対応のベストプラクティス」ほか。実務家向けDVDとして「後遺障害等級14級9号マスター講座」「後遺障害等級12級13号マスター講座」など。
事務所名:弁護士法人サリュ銀座事務所
事務所URL:http://legalpro.jp/

コメント