
タレント中居正広さんと女性とのトラブルや、フジテレビの幹部社員が関連していた問題を『女性セブン』や『週刊文春』が報じてから1カ月。問題が収束する兆しは見えていない。
フジテレビの港浩一社長が1月17日に開いた記者会見では、参加を記者クラブに限定したり、映像撮影を禁止したりするなどの対応をとったことから批判を集めた。
これらを受け、記者会見のやり直しやフジテレビで放送する自社CMの出稿を差し止める動きも広がっている。
そんな中で、被害者や騒動に関わった人物を明らかにしようとする書き込みや心無いコメント、当事者だけでなく関係ないフジテレビ関係者への誹謗中傷もSNSにはあふれている。すでに退職した元女性アナウンサーのSNSには誹謗中傷ともとれるコメントが続く。
また、フジテレビの小室瑛莉子アナウンサーは1月20日に放送した『めざまし8』内で「SNSなどでまったくの憶測が広がっていて、もう毎日本当に悔しい気持ちでいっぱいです。」と思いを吐露した。
被害者や週刊誌の情報源が明らかになっていない中での特定行為や批判コメントがもたらす問題点について、ネット上での誹謗中傷に詳しい清水陽平弁護士に聞いた。
●批判コメントは名誉毀損の可能性大ーー「被害者」が明らかになっていない中、批判が一部の人に集中しています。
本件ではそもそもどのような経緯で情報が漏れたのか分かっていません。被害者が誰かは明らかになっておらず、示談の中身についても正確なところは不明です。そのような中で、一方的に批判コメントを書いた場合、名誉毀損などの問題が生じる可能性があります。
社会的評価の低下を招く投稿等が名誉毀損になり得ますが、実際に被害者であろうがなかろうが、守秘義務違反をしたとか、事実上中居さんへの加害をしているという指摘は、社会的評価を下げることになります。
そして、実際に被害者でないとすれば、事件と無関係な以上、批判を受ける理由がなく、指摘は虚偽であるといえます。また、被害者だったとしても、情報が漏れた経緯が不明であり、守秘義務違反や中居さんに対して加害をしているという指摘が真実ということも立証できないと思われます。
したがって、どちらにしても批判をするコメントは名誉毀損になる可能性が高いように思います。
●誤った特定は名誉毀損につながることもーー被害者を含めた騒動の関係者を特定する行為がネットで横行しています。法的な問題はないのですか?
いわゆる「特定班」の行動は、あくまでもすでにある情報を集約して、誰のことを指しているかを検討しているものにとどまり、そのような行動は一般的に許されるものといえます。したがって、基本的にはそれ自体を問題にすることは難しいといえます。
しかし、結果として、間違った人物を特定したとして公表した場合は、上記のように名誉毀損の問題が生じることになります。
また、仮に当該人物が被害者本人であったとしても、性加害を受けたという現在の報道状況を踏まえると、そのような被害を受けたということは一般的に他者に知られたくないものであるため、プライバシー侵害の問題が生じることになります。
現状、確定的な情報は限定的です。しかし一方で、SNSを中心に真偽不明な情報がたくさん発信されています。注目を集めること自体で経済的メリットを得る「アテンションエコノミー」の問題も関係していると思われ、情報に踊らされないという意識を個々人が持つことも大切なのではないかと思います。
【取材協力弁護士】
清水 陽平(しみず・ようへい)弁護士
インターネット上で行われる誹謗中傷の削除、投稿者の特定について注力しており、総務省の「発信者情報開示の在り方に関する研究会」(2020年)、「誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループ」(2022~2023年) の構成員となった。主要著書として、「サイト別ネット中傷・炎上対応マニュアル第4版(弘文堂)」などがあり、マンガ・ドラマ「しょせん他人事ですから~とある弁護士の本音の仕事~」の法律監修を行っている。
事務所名:法律事務所アルシエン
事務所URL:https://www.alcien.jp

コメント