
メンズエステとは、マッサージを中心とした施術で心身の癒やしを提供する男性向けのお店のこと。「メンエス嬢加恋・職業は恋愛です」は、そんなメンズエステを舞台にした創作漫画。肌に触れるだけで人の心の奥底までも理解してしまうメンエス嬢の加恋が、店にやって来た“訳アリ”な客の心身を癒やしそっと背中を押してくれる人間ドラマだ。描くのは漫画家の蒼乃シュウ(@pinokodoaonoshu)さん。
今回は、「メンエス嬢 加恋」。これまで謎に包まれていた加恋の過去や秘めた思いが、はじめて描かれる。
■加恋はたくさんの生きづらさを経験したからこそ、多くの客のトラウマや悩みに共感できる人物
まずは蒼乃シュウさんに、今回の話のテーマを聞いてみた。
「1話から9話までは加恋が客たちの心の問題を明らかにして癒やす、という形で物語を進めてきましたが、最終話は客ではなく主人公の加恋の心の問題が明らかになる、という話で締めました。人を癒やすことによって自分も癒やされていくという加恋の生き方に、少しでも共感していただけたら幸いです」
肌に触れただけで人の心を理解してしまう、神秘的な雰囲気の加恋。このキャラクターはどのようにつくられたのだろう。
「加恋は客たちのトラウマや悩みに深く共感することができる、類いまれなる能力を持ったメンエス嬢です。マンガだから成立するようなキャラクターですが、もしも現実に加恋のような女性がいたら?と想像したところ、客たち以上にたくさんの生きづらさを経験してきたのではないか?との考えにいたりました」
■生まれながらの美しさは、それに見合う心の強さを持ち合わせていないと扱えないのでは?
「美しさ」が原因で女性からは疎まれ、男性からは言い寄られ、さらには幼少期に母の交際相手からも勘違いされたことから「私の中にはきっと人を不快にさせる何かがある」と思うようになった加恋。現在でも店のメンエス嬢に靴を隠されるなどの嫌がらせを受けていて、集団に馴染むことができない。見た目の美しさについて、蒼乃シュウさんの考えを聞いてみた。
「単純に考えると美しさは、みんなが努力して手に入れたいもので、それが生まれながらに備わっているのは恵まれていることです。でも、嫉妬の対象にもなりやすい。そのせいで孤立したり、利用されたりする場合もあるだろうし、誰もが羨む美しさを持っていても、それに見合うだけの心の強さも持ち合わせていないと、扱うのは難しいのではないかな…と感じます」
■幸せになるには、「嫉妬されても孤立してもいい」と開き直ることも大切
顔を隠して背中を丸め、なるべく目立たないように生きてきた加恋は、自身の持つ美しさという才能をうまく使えずにいた。しかし幸せになるには、「多少の開き直り」も必要だと蒼乃シュウさんは語る。
「どんな人でもそうですが、生まれ持った自分の能力や才能を信じて伸ばそうとする努力を怠っていると、いつまでも自分に自信が持てないのではないでしょうか。加恋は幼いころの家庭環境が悪かったことも影響し、自分の美しさを才能として使うことができませんでした。家庭環境ももちろん大切ですが、大人になってからは自分の幸せは自分で責任をもたなければいけません。自意識過剰でもいい、嫉妬されてもいい、孤立してもいい、と開き直ることも大事ではないでしょうか」
■現実の悩みにも通じるものがある、加恋の「言葉」
連載を終えた現在の気持ちや、連載中の苦労についても聞いてみた。
「『謎のメンエス嬢が客を癒やす一話完結の物語』という全体を通してのスタイルが決まった時は、ワクワクと同時に不安もありました。ずっと描いてみたいタイプの連載でしたが、事件を解決…とまではいかなくても、一話ごとにきちんと納得のいく形でラストまで描ききらないといけません。好きだし描きたいけど、『自分に描けるかな…』という不安もあったんです。でも一話描くたびに加恋のキャラクターが自分の中で定まってきて、『どんな問題のある客が来ても大丈夫!』と自信がついてきました。ネタに困ることは一度も無く、最後まで楽しく描けました」
店を訪れた客が抱える心の傷は加恋自身にも身に覚えがあり、客の心を癒やしてきた彼女の言葉は、本当は彼女自身が欲しい言葉だった。この「言葉」こそが、本作の一番の見どころだ。
「加恋を含め登場する10人の悩みは、立場は違ってもきっと読者の方の悩みとも共通するものがあるのではないかと思います。作者の勝手な願いですが繰り返し読んでいただき、そのたびに加恋に何度も癒やされるような気持ちになってもらえるとうれしいです」
店を訪れる客を癒やすことで、自身も癒やされていたと気づいた加恋。最後には自分を愛していると胸をはって言えるようになった、彼女の笑顔が清々しい。現実を生きる私たちの悩みにも何かしらのヒントをくれる本作は、「あの店のメンエス嬢は僕の心が読めるらしい」にタイトルを変更して電子書籍化することが決定。こちらも楽しみにしてほしい。
取材・文=石川知京

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