
カスピ海に突如現れ、まるで幻のように姿を消す謎の島がある。「ゴースト島」と呼ばれるこの島は数世紀にわたり、現れては消え、科学者たちを翻弄してきた。
2023年初頭、再びその姿を見せたものの、現在は消滅寸前の状態だ。
20km沖合に浮かぶこの島は、一体どのようにして生まれ、なぜ毎回姿を消してしまうのか?その謎に迫ってみよう。
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現れては消えるを繰り返すカスピ海「ゴースト島」の正体は?
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カスピ海は海と名まえが付くものの、ユーラシア大陸の中央部に位置する世界最大の湖であり塩湖である。面積は約37万平方kmで日本列島とほぼ同じだ。
沿岸はロシア、アゼルバイジャン、カザフスタン、トルクメニスタン、イランの5カ国に囲まれており、各国の領海問題が複雑に絡みあうため海とも湖とも呼ばれている。
そんなカスピ海に現れては消える「ゴースト島」が存在する。ゴースト島は愛称のようなもので、NASAでは「ダシュリ島(Dashli Island)」と表記している。
ゴースト島の正体は、アゼルバイジャン沖の海岸から約20kmに位置する海底で活動する「クマニバンク泥火山」によって生みだされた自然現象だ。
泥火山は、名前に「火山」とついているけれど、実際は火山などではなく、火山学的地形や現象の一つだという。
普通の火山は、地中の熱で溶けた「溶岩」が噴き出すが、泥火山では海中深くにたまった「泥(堆積物)」と「ガス(メタン)」が地中の圧力で一気に噴き出す。その泥が積もっていくことで陸地を形成する。
クマニバンク泥火山が生んだ「ゴースト島」の存在が初めて記録されたのは1861年。しかし翌年には跡形もなく消滅した。
その後、20世紀には少なくとも6回の出現が記録[https://link.springer.com/book/10.1007/978-3-319-27395-2]されており、いずれも1~2年で姿を消している。噴火による地形の変化とカスピ海の波に浸食され、またたく間に海に沈んでしまうようだ。

NASAの衛星画像が記録したゴースト島
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2023年初頭、NASAの衛星が再びゴースト島の再出現を捉えた。
1月から2月にかけて島が突然海面に浮かび上がっていったのだが、2024年にはその姿を徐々に消していった。
2023年1月30日から2月4日の間に突然現れる〜幅400mの島

興味深いことに、この現れては消える幽霊のような島は地元ですらほとんど話題にならなかった。
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地球物理学者で泥火山研究者のマーク・ティンゲイ氏は2023年、衛星写真を分析する中でこの現象に気づいたが、アゼルバイジャンや国際的なニュースメディアではその存在が全く報じられていなかったという。
「こんなにも人々がつながっている現代で、たった20km沖合で島が現れても誰も気づかないなんて信じられない」とティンゲイ氏は語る。この静かな出現には、泥火山の独特な性質が関係していると見られている。

静かな噴火で人知れず島が形成されていた
泥火山の噴火といえば、通常は激しい火柱を伴う。巨大な炎が空高く舞い上がり、遠くからもその威力が確認できるほどだ。
しかし、2023年の「ゴースト島」の出現は、火柱を伴わない静かな噴火だった。この静かなプロセスの詳細はまだ科学的に解明されていないが、1993年にも同様のケースがあったことが記録されている。
まるで幽霊のように現れ、消えていく「ゴースト島」。泥火山のメカニズムは、地質学者たちにとっても多くの謎を残している分野だ。
今後の研究が進めば、この不思議な島がどのように形成され、なぜ短期間で消えてしまうのかが解明されるかもしれない。
References: Satellites Spot a “Ghost” Island[https://www.bluemarble.nasa.gov/images/153799/satellites-spot-a-ghost-island] / 'Ghost' Island Emerges From Ocean – And It's About to Vanish Again : ScienceAlert[https://www.sciencealert.com/ghost-island-emerges-from-ocean-and-its-about-to-vanish-again]

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