家電メーカーのツインバード(新潟県燕市)が手がける「匠ブランジェトースター」(2万5800円、公式サイト価格)の売れ行きが好調だ。

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 海外で高く評価されたパン職人と共同で開発した同製品は、パンの「焼きたて」の味をボタンひとつで再現するトースターとして人気を集め、2023年11月の発売から累計2万5000台以上を販売している。

 職人が持つ「匠」の技術をいかにして製品に落とし込んだのか。3年を要した開発の舞台裏に迫った。

●独自の温度管理技術で「焼きたて」を再現

 開発には、パンの世界大会「iba cup」で、2015年に日本人で初めて総合優勝した浅井一浩氏が参画。「中に火を通すには下火が大事」という同氏のアドバイスから、ヒーターの選定を一から見直した。また「パンのおいしいコンディションは種類によって異なる」という指摘を受け、パンごとに最適な温度制御プログラムの開発に着手した。

 浅井氏の経験則を数値化するため、サーモグラフィや温度分布の分析を繰り返し実施。パンの外側と中身の温度バランスを徹底的に検証し、職人の暗黙知を製品に落とし込んでいった。

 パンの「焼きたてのおいしさ」を再現するため、従来にはない火力調整プログラムを採用。庫内の温度を秒単位でセンシング(定量的な情報を取得する技術)し、精密な温度管理を実現した。トースト、クロワッサン、フランスパンカレーパンの4つのモードを搭載し、パンの種類ごとに異なる焼き加減を自動で再現できるようにした。

 しかし、製品化までには3年以上を要した。特に難航したのはカレーパンで、表面を焦がさずに中まで温めることが難しく、時間を費やした。

●「2種のヒーター」で温度を最適化

 この課題を解決するため、ツインバードは2種類のヒーターを組み合わせた独自の加熱方式を開発した。上部に配置した遠赤外線カーボンヒーターがパンの表面を加熱してパリッと仕上げ、下部の近赤外線ハロゲンヒーターが内部まで温める。

 パンの外側と内部それぞれに最適なアプローチを実現することで、理想的な温度バランスを生み出した。さらに、断面が丸いパンでもムラなく焼けるよう、ヒーターの位置や熱を拡散する反射板のレイアウトにもこだわった。

 クロワッサンは外側をカリッと焼き、内部のバターの香りを引き出す。フランスパンは高温で一気に焼き上げ、外側はパリパリ、中はもっちりとした食感を実現する。

 匠ブランジェトースターの最大の特徴は、パンの種類に応じた焼き加減を自動で制御する点にある。従来のように、ユーザーが時間や火力を設定する必要はない。特に、家庭での調理が難しかった冷凍パンも、解凍と加熱を同時に行うことで、焼きたての状態に近づけることに成功した。冷凍状態のままボタンひとつでリベイク(再加熱)できる。

●さらなる販売拡大へ

 匠ブランジェトースターを利用するユーザーからも、「モードを選ぶだけで、これまで体験したことのないおいしい仕上がりになった」 「設定に失敗して焦げる心配とは無縁で、絶品の焼き上がりを味わえる」など、評価する声が寄せられている。

 同製品の価格は2万5800円。一般的なトースターと比べ高価格帯に位置するが、パンの種類に応じた温度制御技術や、世界一のパン職人との共同開発による独自性が、価格以上の価値として支持を集めているようだ。

 2024年11月には、ユーザーからの要望に応える形でホワイトカラーを追加。「インテリアを白でそろえているので、トースターも白がほしい」といった声に応えた新色だ。

 デザイナーが実際に店頭に立ち、利用者の声を直接聞く中で寄せられた要望を形にした。試作段階では100通り以上の「白」を検討するなど、生活空間に自然に溶け込むカラーリングを追求している。

 同社は今後、SNSを活用した情報発信を強化するとともに、店頭実演も定期的に実施する計画だ。ユーザーが実際に製品の良さを体感できる機会を増やし、さらなる販売拡大を目指す。

 海外展開も視野に入っている。課題は、各国の食文化の違いやパンの消費習慣を理解することだ。現在は、製品の持つ魅力やブランドの信頼感を高め、匠ブランジェトースターならではの感動体験ができるよう開発を進めている。

 「焼きたて」へのこだわりは、さらに深化していきそうだ。

(カワブチカズキ

累計2万5000台以上も売れた「匠ブランジェトースター」