政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏が、兵庫県議会の百条委員会の委員だった竹内英明元県議の死去について、自身のSNSや動画サイトで発信していた内容が事実でなかったとして謝罪に追い込まれた問題は、今なお波紋を呼んでいる。

立花氏は、竹内元県議について、「兵庫県警からの継続的な任意の取り調べを受けていた」「近く逮捕される予定だった」「逮捕を苦に命を絶ったという情報が入っている」などと発信。この情報がネット上で拡散されたことに対し、兵庫県本部長が「全くの事実無根」「明白な虚偽」と完全否定した。

立花氏は、「警察の捜査妨害になる可能性がある」などとして竹内元県議に関する書き込みや動画を削除したものの、「謝罪すれば済む話なのか」「元県議の名誉を毀損しているのでは」といった批判の声が相次いでいる。

立花氏自身も「私は竹内県議【死者】の名誉を毀損した」とSNSに投稿するなど異例の事態となっているが、本当に死者に対する名誉毀損は成立しているのだろうか。刑事事件に詳しい澤井康生弁護士に聞いた。

●“通常の”名誉毀損罪との違いとは?

──死者に対する名誉毀損とはどのような犯罪でしょうか。

刑法は「死者に対する名誉毀損罪」の規定を設けており、公然と死者に対する社会的名誉を害する虚偽の事実を摘示した場合には「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」となります(刑法230条2項)。

生存する人に対する名誉毀損の場合には、摘示する事実が真実であろうが虚偽であろうがとにかく社会的名誉を侵害する場合には名誉毀損罪が成立しますが、死者の場合にはそこまで保護する必要はないということで、虚偽の事実を摘示した場合のみ名誉毀損罪が成立します。

──真実か虚偽かわからずに毀損しているケースもありそうです。

学説上の通説では虚偽であることについて確定的に認識していることが必要とされています。

本件において立花氏がどこからの情報を基にSNS等で発信したのか不明ですが、情報源の有無、内容、信用性の程度、裏付け取材の有無、投稿に至った経緯等の客観的な状況証拠から、虚偽性の認識の有無や程度を判断することになろうかと思います。

──立花氏は投稿や動画などをすでに削除しています。

SNSでの投稿や動画サイトでの発信によって死者に対する名誉毀損罪が成立した場合、その後に削除してもいったん犯罪が成立している以上、成否には影響しません。

──被害者が亡くなっている場合、告訴はできないのでしょうか。

死者に対する名誉毀損罪親告罪であり、告訴がなければ起訴できません(刑法232条1項)。死者本人は刑事告訴ができないので、死者の親族または子孫が告訴をすることができると規定されています(刑事訴訟法233条1項)。

【取材協力弁護士】
澤井 康生(さわい・やすお)弁護士
警察官僚出身で警視庁刑事としての経験も有する。ファイナンスMBAを取得し、企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も歴任、公認不正検査士試験や金融コンプライアンスオフィサー1級試験にも合格、企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他各新聞での有識者コメント、テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。陸上自衛隊予備自衛官(2等陸佐、中佐相当官)の資格も有する。現在、早稲田大学法学研究科博士後期課程在学中(刑事法専攻)。朝日新聞社ウェブサイトtelling「HELP ME 弁護士センセイ」連載。楽天証券ウェブサイト「トウシル」連載。毎月ラジオNIKKEIにもゲスト出演中。新宿区西早稲田の秋法律事務所のパートナー弁護士。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。
事務所名:秋法律事務所
事務所URL:https://www.bengo4.com/tokyo/a_13104/l_127519/

N党・立花氏、死亡した元県議に関する発信「事実でなかった」と謝罪 “デマ発信”は名誉毀損か?