タレントの中居正広さんが1月23日、自身のファンクラブのサイトで芸能活動からの引退を発表し、ネット上ではさまざまな声が上がっています。

中居さんをめぐっては昨年12月に『女性セブン』『週刊文春』が、女性との間に深刻なトラブルが発生し、示談が成立していたと報じました。

その後、トラブルの場をフジテレビ幹部が設定したという疑惑も浮上し、社長記者会見が開かれたものの、フジテレビへのCM出稿を差し止める企業が相次いでいました。

中居さんの引退発表後、SNSでは被害女性に対する誹謗中傷も活発化しています。「女性との間に示談が成立していたのに、なぜ中居さんは引退しなければいけないのか?」という声もあります。

「示談」とは、どのようなものなのか。検討してみます。

●示談とは

「示談」とは、当事者が民事上の争いについて、話し合いによって、基本的には当事者の譲り合いにより紛争を解決することをいいます。

示談の内容は、当事者間の話し合いで決められます。損害賠償をいくら払うとか、これ以降はお互いに債権債務がないといった条項のほか、謝罪を求めたり、事件のことを口外しないように約束したりもできます(「守秘義務」などといわれます)。

「民事上の争い」と書きましたが、刑事事件でもよく「示談」が問題となります。この場合の「示談」は、たとえば刑事事件の加害者が、損害賠償を支払う代わりに被害者に許してもらう、などという形でおこなわれます。

損害賠償の請求自体は民事上の争いですが、示談書の中に、被害者が損害賠償を受けたことのほか、加害者を「処罰することを望みません」といった文を入れることで、罪が軽くなったり、そもそも起訴されなくなったりするものです。

●守秘義務とその限界

中居さんのケースでは、相手方とトラブルがあったことと、トラブルにつき示談が成立したことには争いはないようです。しかし、トラブルの具体的な内容や、示談の内容がどういうものだったかは、はっきりとはわかりません。

ただ、有名芸能人のトラブルであることから、おそらく、トラブルの内容を第三者に漏らさないという守秘義務が設けられているでしょう。

注意すべきなのは、この「示談」は、あくまで当事者同士での約束にすぎない、ということです。たとえば、事件の内容を知っている第三者(たとえば被害者の友人)が、事件のことを雑誌社などに告げることが禁じられるわけではありません。

示談が成立し、お互いに守秘義務を負ったあとであれば、被害者がその友人に対して、事件の内容を相談することも、守秘義務違反となるでしょう。

しかし、たとえば示談成立前に被害者がトラブルのことを友人に相談していた場合に、その内容を友人がほかの人(雑誌社など)に漏らしたとしても、被害者に対して守秘義務違反の責任を追及することはできません。

●示談の限界

今回、中居さんが芸能活動からの引退を発表したことに対して、「示談したのに」という声が多く聞かれます。

しかし、示談、とは、あくまでも当事者同士の紛争を話し合いによって解決するものです。第三者が事件のことをどう考えるかとは関係がありません。

示談したからといって、被害女性とのトラブルがなかったことになるわけではありませんし、それによる社会的な影響がなくなるわけでもありません。

たとえば、刑事事件でも、示談していることは被疑者・被告人にとって有利になることはたしかですが、だからといって必ず不起訴になったり、執行猶予がついたりするわけではありません。ニュースになるような事件であれば、事件や示談とは無関係なさまざまな影響があります。

今回の中居さんの件では、示談があるかないかというところではなく、トラブルの当事者が中居正広さんという超有名芸能人であったことや、謝罪の内容やトラブル後のフジテレビの対応など、示談とは関係がないところで、これほどまでの話題になり、結果として中居さんが引退を発表した、ということだと思います。

●被害女性とされる女性への誹謗中傷

SNSやニュースサイトのコメント欄では、同社の社員だった女性に関する誹謗中傷コメントが数多く書き込まれているようです。

しかし、このようなSNSへの書き込みは、刑事上、民事上の名誉毀損として、書き込んだ人の法的責任が問われる可能性もあります。

今回のケースでは、被害者が誰なのかは明らかになっていません。ネット上ではさまざまな噂が飛び交っていますが、被害者自身が「私が被害者です」と言っているわけではありません。

また、被害者自身がトラブルの内容を語ったことが明らかになっているわけでもありません。

ネット上に書き込む際には、「本当にこの書き込みで問題がないか?」と、いったん立ち止まって考えてみてほしいと思います。

(弁護士ドットコムニュース編集部・弁護士/小倉匡洋)

中居さん引退めぐり誹謗中傷、SNSで「示談が成立していたのになぜ?」の声も…法的解説