Text:長谷川誠 Photo:尾形隆夫

ついにこの日がやってきてしまった。
2024年11月からスタートした『TRICERATOPS 無期活動休止TOUR '24-'25“DEMOLITION&ELEVATION”』のファイナル公演となる2025年1月10日LINE CUBE SHIBUYA渋谷公会堂)。この日のステージはチケットの発売直後1分で完売になっており、生配信も実施されている。貴重な瞬間を映像を通して刻みつけるファンも数多くいるのだ。いつもならば待ち遠しい彼らのコンサートだが、開演前の気持ちは少々複雑だった。寂しさやせつなさ、そして時の流れの早さを感じてしまったからだ。TRICERATOPSメジャーデビューしたのは1997年7月。彼らは28年近くにわたって、3人のみでの活動にこだわり続けてきたバンドである。ロック、ポップス、ファンクソウル、ダンスミュージックなどのエッセンスを昇華し、スリーピースのバンドサウンドとして構築していくセンスと才能は、まぶしいほどに輝いていた。スリーピースでどこまで表現できるか、挑み続けてきたバンドなのだ。そしてその挑戦は休止の瞬間まで続いている。ならば、こちらも感傷に浸っている場合ではない。彼らの歌と演奏をしっかり耳と目と全身とで刻みつけよう。

ステージ上のセットは極めてシンプルだ。背後にはTRICERATOPSのロゴがあり、床にはそれぞれの機材やスピーカーが設置されている。3人がステージに登場すると、悲鳴にも似た声から野太い声まで、カラフルな歓声と盛大な拍手が起こった。客席の反応からもファン層の幅広さが分かる。老いも若きも踊らせるロックなのだ。上手に和田唱(vo&g)、下手に林幸治(b)、そしてセンター奥には吉田佳史(ds)がスタンバイしている。

オープニングナンバーは「ROCK MUSIC」だ。吉田の刻むタイトリズムに合わせてハンドクラップが起こり、さらに林の深みのあるベース、和田のソリッドなギターが加わっていく。“恐竜の目覚め”と表現したくなるスリリングな始まり方によって、いきなり大音量のシンガロングが起こった。観客も最初から歌う気満々だ。自分たちの喉にもTRICERATOPSの音楽を刻みつけているのだろう。バンドの3人だけでなく、会場内の全員で奏でる2025年の最新の「ROCK MUSIC」だ。この曲の歌詞の<僕はやめないってね>というフレーズは、これから先も彼ら3人が音楽を追求し続けていく宣言のように響いてきた。

和田唱(vo&g)

林の骨太なベースで始まったのは「あのね Baby」。疾走感溢れるロックンロールであると同時に、ピュアラブソング。タフであることとスイートであることを兼備した和田の歌声が真っ直ぐ届いてくる。吉田がシャウトしながら、ドラムを叩いている。林のジェントリーなコーラスがこの曲のラブ度をアップしている。和田と林とが吉田に近づき、三角形を形成しての息の合ったフィニッシュに、ウォーッというどよめき声が起こった。

スリーピースの形成する三角形が大きくなったり小さくなったりする様子も、彼らのステージを観る楽しみのひとつだ。このトライアングルは3人の以心伝心のコミュニケーションが可視化されたものでもあるからだ。筆者はツアー初日の川崎CLUB CITTA’のステージも観たのだが、グルーヴ、アンサンブル、音色、すべてにおいてブラッシュアップされていることを実感した。

吉田佳史(ds)

「明けましておめでとう! “DEMOLITION&ELEVATION”ツアー、最終日へようこそ。“DEMOLITION”には破壊、解体という意味があります。僕らの音楽に身を委ねて、日頃のモヤモヤを解体していってください。“ELEVATION”は上昇という意味です。みんなを上昇、昇天させるべく演奏します」と和田。MCに続いて、現時点での最新アルバム『Unite/Divide』(2022年発表)の「マトリクスガール」はシーケンサーありの演奏。クールな質感がありながらも、哀愁が滲む演奏となり、彼らの表現力の豊かさを堪能した。

MILK & SUGAR」は吉田のドラムでの始まり。ブルージーかつファンキーな演奏に体が揺れた。フェイクやブレイクを自在に繰り出しながら、それぞれが瞬時に反応している。セッションも彼らのライブの醍醐味のひとつだ。「シラフの月」では憂いを帯びた歌声とコーラス、叙情的なギター、研ぎ澄まされたリズムに聴き惚れた。エフェクターを駆使したジェット感溢れる和田のギターで始まったのは「Warp」。キレ味抜群のファンキーなグルーヴとワープ感の共存はTRICERATOPSだからこそ。林のスラップ奏法によるベースもフィーチャー。林と吉田のソウルフルなファルセットのコーラスが聴き手を異次元へと誘っていくかのようだ。

林幸治(b)

前半のハイライトとなったのは「スターライト スターライト」だ。3人の奏でる音が有機的な化学変化を起こし、ホール全体が巨大なディスコティックへと化していく。スリーピースの三角形は、冬の夜空の大三角(シリウスプロキオンベテルギウス)にも負けない、まばゆい光を放っていた。彼らの音楽がリスナーの胸の奥を照らしてくれるのは、歌詞・メロディ・リズム・歌声・楽器の音から希望の匂いがするからだ。<僕らはやれる気がするのさ>という歌詞の<僕ら>とはメンバー3人だけではなく、TRICERATOPSの音楽を愛するすべての人を含んだ言葉だろう。和田と林と吉田がとびきりロックを奏でると、ラブ&ピースの空間が広がっていく。

MCでは3人それぞれがデビュー当時の思い出を語る場面もあった。彼らにとって、渋谷はバンド発祥の地とも言える街である。3人が初めてライブを行ったのは1996年8月の渋谷La.mamaだった。1999年2月13日・14日には渋谷公会堂2DAYS公演も開催している。その同じ場所で節目のステージが行われるのは感慨深いものがある。

「次の曲は2002年に2020年の未来を歌った曲です。27、8年もやっていると、その未来も過去になってしまいました」と和田。「2020」は、アコースティックギターアコースティックベース、カホンという編成で、座って演奏された。2002年に作られ、2025年に演奏される「2020」からは、過去と現在と未来とが墨流しのように混ざりあった世界が立ち昇った。穏やかな曲調だが、歌と演奏からは確かな意志のようなものも伝わってきた。この曲の中の<進まなきゃ意味がないのさ>というフレーズは、今の彼らにも当てはまるものだろう。いつの日か、どこかの未来で、この曲をライブで聴く機会があったら最高なのだがと夢想してしまった。

続いての「エメラルド」もアコースティック編成での演奏。冬の歌はこの日のステージにぴったりだ。憂いを帯びた歌がせつなく響く。吉田は右手でシェイカーを振りつつ、左手でカホンを叩いてのプレイ。会場内に漂った感傷的な空気を一瞬で払拭したのは「1000 LOVE」。吉田が定位置ドラムに戻り、躍動感溢れるリズムを刻んでいく。和田と林はそのままの楽器だが、アコースティックであっても超ファンキー。彼らのノリのいい演奏で、体を動かさないのは不可能だ。和田の自在なコールに観客が応えている。

吉田がドラムソロをしている間に、和田がエレキギター、林がエレキベースに持ち替えての演奏に。1曲の中でアコースティックエレクトリックの魅力を堪能できる構成が心憎い。彼らを“観客を楽しませる天才”と形容したくなった。和田の深遠なリフで始まり、吉田の繊細なマレットの音が入って始まったのは「Fly Away」。頭上に広がる大空が見えてきそうな林のベースが気持ちいい。和田の伸びやかなボーカルに林のファルセットを交えたコーラスが加わっていく。この声の音色のミックスも彼らの持ち味だ。

彼らのデビューシングル曲である「Raspberry」はトリッキーな始まり方で観客を魅了した。和田がアカペラでフェイクを歌い、観客がレスポンスを返すやりとりの中で、和田のフェイクが徐々に聞き覚えのあるものとなり、曲の正体が少しずつ明らかになっていったからだ。そしてあの印象的なギターによるイントロが鳴り響くと、会場内に熱狂と興奮と感動とが渦巻いた。この曲を初めて聴いたときの衝撃は、今も鮮明に覚えている。強靱さと甘酸っぱさとが混在した踊れるロック。この曲の持っているみずみずしさは今も少しも損なわれていない。和田が「みんな~!」と呼びかけると、観客が大きな歌声で応えている。この麗しき光景ももうすぐ見納めなのだろうか。だが、踊れるロックのグルーヴは止まらない。続いての「Groove Walk」でも会場内が激しく揺れ、<Oh Yeah! Oh Yeah!>というコール&レスポンスがホール内に響き渡った。

和田がいったんステージから去り、彼らのライブでおなじみの「Hayashi&Yoshifuni Groove」へ。林と吉田の生み出す強力なグルーヴを堪能できるコーナーだ。林のディストーションの効いたベースと吉田がソリッドドラムスの生み出すグルーヴが気持ちいい。ロック、ファンクソウル、ブルース、ジャズなど、多様な音楽のリズムを自分たちのビートとして吸収した自在なセッションによって、会場内に熱気が充満していく。和田が再び登場して、ブルースフィーリング溢れるギターソロで始まったのは「MIRROR」だった。1998年発表曲だが、即興演奏もふんだんに交えて、緊迫感溢れる演奏を展開。さらに「GOING TO THE MOON」へ。特徴的な音色のギターリフが鳴り響き、ハンドクラップが起こった。豪快かつ痛快な演奏によって、会場内が一体となって月に向かってELEVATION(上昇)していくかのようだ。

「それぞれのタイミングで、オレらのファンになってくれて、全員に感謝しています。TRICERATOPSをこれからも輝かせていくためには、これからのオレたちが輝いていることが必要です。ここから先の林幸治、吉田佳史、和田唱の今後の活動を応援してください」との和田のMCもあった。さらに、「ロックンロールで締めるのもいいんだけど、オレたちはもう大人だからバラードで締めます。でも、オレたちのバラードは体が動いてしまうようにできています」とのMC。本編のラストナンバーは「if」だ。スイートラブソングだが、とてもグルーヴィー。この日の「if」は、これまで応援してきた人々への感謝の思いの詰まった歌として響いてきた。ソウルフルでハートウォーミングな演奏での本編のフィニッシュは今の彼らだからこそだ。

3人が再び登場して、林が両手を広げながら、「どうもありがとう」と挨拶。「みなさんにカバー曲でラブを捧げます」との和田の言葉に続いてのアンコール1曲目は、フランキー・バリやボーイズ・タウン・ギャングでおなじみの「CAN'T TAKE MY EYES OFF OF YOU」。スリーピースでここまで完成度の高いカバーをできるのは、彼らのアレンジ力と演奏力が突出しているから。愛の詰まった演奏の終わりに、「I Love You,Baby」と和田。「みんなに伝えることはいっぱいある気がしますが、とりあえずロックンロールしましょう」という和田の言葉に続いては、「赤いゴーカート」。疾走感溢れるナンバーだが、途中で一瞬、レゲエリズムへとシフトチェンジ。遊び心溢れるアレンジがさりげなく入ってくるところにも、彼らのセンスの良さと発想の柔軟さが表れている。<走る道は変わってしまったけれど><追い続けんだ>という歌詞は、今の3人の状況を象徴するかのようだ。「ありがとう! 渋谷!」と和田。3人がステージを去っても、アンコールを求める拍手は鳴り止まない。

再度、3人が登場して、和田からこんな言葉。「うまくいかないこと、壁にぶちあたること、日々いろいろあると思います。やってられないぜと思ったときに、TRICERATOPSの曲の数々がみんなの背中を押せたら、めっちゃうれしいです。そのためにやってきたようなもんだからさ。これからもTRICERATOPSの曲をいろんな局面で使ってやってください。また会いましょう!」とのMCに続いて、「Fever」が演奏された。和田が目をつぶって歌い、胸に手をあてて、「Say」とコールしている。林が客席の様子を刻みつけるように見渡している。吉田が一音一音かみしめるように、リズムを刻んでいる。万感の思いの詰まった「Fever」だ。曲が終わると、3人が手を振りながら挨拶したが、観客の拍手は鳴り止まない。名残惜しいのはメンバー3人も同じだろう。まだ終演の時は来ていない。

「次の曲はみなさんの声量が問われます。出し切るぞ~。最高のシーンを刻みつけるぞ~!」との和田の言葉に続いて、「トランスフォーマー」が演奏されて、この日の最大音量の歓声とシンガロングが起こった。この曲の<前にひたすら進んでいこう><辿り着きたいとこがあるんだ>といったフレーズが、このファイナル公演で特別な意味を持って響いてきた。これは過去への決別の歌であると同時に、未来に向かって進んでいく覚悟を表明する歌であるかもしれない。バンド活動が個々の活動へとトランスフォームしても、変わらないものがあるに違いない。観客のシンガロングに、3人がいとおしげに耳を澄ましている。「いいぜ、いいぜ!」と和田。会場内がひとつになって歌っている光景からは、TRICERATOPSの音楽が、“みんなの歌”であることも見えてきた。演奏が終わると、吉田が投げキッスし、「ありがとう」と挨拶。林が大きく手をあげて拍手に応えている。「渋谷、最高でした!」と和田。3人が手をつないでお辞儀をして、ファイナル公演は終わった。最後に和田が「またね~!」と挨拶して、3人はステージを去っていった。

ひたすら楽しくてハッピーなステージでの活動休止は、TRICERATOPSらしいと感じた。彼らはいつだって、陽気で無邪気でフレンドリーでオープンで温かいからだ。せつなさがこみあげる瞬間がなかったわけではない。だが、完全燃焼する渾身のステージからは清々しさすら漂っていた。彼らが今も進化し続けていること、そして唯一無二の存在であることを再確認した夜でもあった。バンドという枠を取り払うことによって、音楽表現の可能性が広がるかもしれない。3人の未来がさらに楽しみになるステージでもあった。彼らの歌と演奏はしっかり胸の中に刻まれた。だが、彼らの曲たちは演奏されたくて、そしてさらに進化したくて、ウズウズしているに違いない。未来は誰にも分からない。彼らの作った楽曲たちが、3人を同じステージに立たせる日がくるかもしれない。こちらとしても、身も心も踊らせる準備だけは怠らないようにしたい。レポートの締めとして「Raspberry」の一節を引用しよう。きっと、<それで全てうまくいく>。

<公演情報>
TRICERATOPS 無期活動休止TOUR '24-'25“DEMOLITION&ELEVATION”』

1月10日(金) 東京・LINE CUBE SHIBUYA渋谷公会堂

セットリスト

1. ROCK MUSIC
2. あのね Baby
3. マトリクスガール
4. MILK & SUGAR
5. シラフの月
6. Warp
7. スターライト スターライト
8. 2020
9. エメラルド
10. 1000 LOVE
11. Fly Away
12. Raspberry
13. Groove Walk
14. Hayashi&Yoshifuni Groove
15. MIRROR
16. GOING TO THE MOON
17. if
En1. CAN'T TAKE MY EYES OFF OF YOU
En2. 赤いゴーカート
En3. Fever
En4. トランスフォーマー

■ぴあメモリアルカード受付中
https://memorial.pia.jp/shop/pages/2025triceratops.aspx

TRICERATOPS 公式サイト:
https://triceratops.net/

TRICERATOPS 左から)吉田佳史(ds)、和田唱(vo&g)、林幸治(b)