
被害が収まらず、風俗営業法の改正に向けた動きが進む「悪質ホスト」問題。震源地となっている新宿・歌舞伎町では、いまだ「カケ」(売掛)と呼ばれるツケ払いが店ぐるみ(店グル)でおこなわれていると20代前半の女性が証言する。
歌舞伎町では2024年4月からホストクラブの多くでカケ全廃方針が掲げられたが、被害者支援団体は「守られていない」と指摘してきた。女性にカケを背負わせた後、海外売春に行かせるルートもできあがっている。(ジャーナリスト・富岡悠希)
●酔っ払ったタイミングでカケが発生する「酔っぱらったタイミングで『カケいい?』と担当が言ってきて……。判断しにくい状況で、30(万円)とか50(万円)とかのカケがなし崩し的にできていきました」
西日本出身で20代前半のアヤさん(仮名)は、2024年秋まで通っていた歌舞伎町のホストクラブX(仮名)であったカケの実態をこう話した。
彼女がXに出入りするようになったのは、2023年夏ごろ。それ以前は、地元から大阪のホストクラブに通っていた。そして、知り合いになった中国系の女性エージェントに案内され、東京に遊びに来たタイミングでXに行った。
初入店時から、Xの社長と担当となったハヤト(仮名)とエージェント、アヤさんの4人で飲んだ。今となっては、「最初から私を取り込もうと仕組まれた席だった」。アヤさんの好みを把握していたエージェントの狙い通りに、彼女はすぐにハヤトに夢中になる。
●世間的に「普通」とされる家庭を望んだが・・・そんなアヤさんの生い立ちは、こうだ。全寮制の高校に進むも、4人部屋の窮屈さに耐えきれず中退。2年間はコンビニバイトをしていたが、18歳から夜職と呼ばれる風俗関係で稼いできた。
頼れる両親や親類、帰省できるような実家はない。お金を払えば自分のありのままを認めてくれるホストクラブに次第にはまった。
しかし、一方で、ホスト依存になっている自分を否定し、世間的に「普通」とされる家庭を持つことを望んだ。実は一時期、年上の男性と結婚していた。
「結婚したら生き方が変わるかなと思ったし、子どももほしかった」
アヤさんが積極的に動いて成就した結婚だったが、甘い時期はすぐに終わった。日々の生活での価値観の相違に加え、元夫が子どもを望まなかったことが大きかった。そして、アヤさんは結婚していながら、大阪のホストクラブに通った。
●2024年4月以降もカケは続いたほどなく捻じれた生活に、心が悲鳴を上げることになる。
2023年の半ば、とある建物から飛び降りた。日中だったことから、異音に気づいた人たちがすぐに救急車を呼んでくれた。骨盤骨折や外傷性くも膜下出血などの大ケガを負ったが、一命は取り留めた。目立った後遺症が出ることもなく、2カ月半の入院を終えた。
こんな経験があった矢先、出会ったのがハヤトだった。死地をしのいだ反動からだろうか。アヤさんはハヤトにのめり込む。
知り合って2カ月もすると、地元を離れ上京したくなった。ハヤトに話すと、「俺の家で一緒に住もうといってくれて」。その言葉通りに、歌舞伎町からほど近い彼の住まいに2023年秋に転がり込んだ。
ハヤトがいるホストクラブXは、比較的低料金で遊べるという。そのため週3回ほどのペースで通った。アヤさんは夜職で稼ぎも多かったが、ハヤトはそれ以上使うことを求めた。常にカケを負わされる状態は、歌舞伎町の多くの店がカケ禁止を打ち出した2024年4月以降も続いた。
「Xの社長もカケのことは知っていたけど、何も言うことはなかったです」
●海外売春をすすめられて渡米することに150万円のカケが溜まると、Xの社長やハヤトは海外売春をすすめてきた。2024年夏、中国人系女性エージェントの手引きで米国に出向いた。
昨今、アヤさんのような日本人女性の海外売春に対して、米当局は厳しい目を向けている。
案の定、入国審査で別室に連れて行かれたが、アヤさんは手を打っていた。渡米前からサンフランシスコにいる知り合いの経営者と連絡を取っていた。そこを訪問する予定だと電話口で話してもらい、虎口を脱した。
そして2カ月の米国滞在中、アヤさんはサンフランシスコ、ニューヨーク、ボストン、ロサンゼルスと回り、最後の1カ月を再度ニューヨークで過ごした。
各地を転々とするのは、エージェントと連絡を取り合い、最も効率良く稼ぐためだ。「各店は常連で成り立っているから、1カ所にいると目新しさがなくなり徐々に指名されなくなる」。だったら交通費がかかっても移動したほうがいい。
●2カ月で1000万円を手にしたアヤさんは2カ月で、エージェントや店への支払いを除き、約1200万円を稼いだ。振り込みはエージェントからホストクラブXの社長を経由した。このとき、社長はカケ代金として、しっかり150万円を引いた。その他、経費を含め手にしたのは1000万円ほどとなった。
すると、今度はハヤトが、間髪入れず500万円のシャンパンタワーを求めてきた。帰国からほどないタイミングで、その求めに応じる。さらに下旬の月締め日には追加で150万円を使った。米国での稼ぎはあっという間に、半分以上がなくなった。
なお、「ゼクシィ 結婚トレンド調査2024調べ」によると、結婚式(挙式・披露宴)の全国平均総額は343.9円、平均招待客数は52人。結婚式では、新郎と新婦共にお金を負担するだろうが、もちろんハヤトがシャンパンタワーのお金を負担することはない。
●「こんなに尽くして来たのに、もう一瞬でポイです」ハヤトはその後もとめどなく「自分に金を使え」と求めてきた。アヤさんは将来の仕事のために、現在、学校に通っている。その学費もあるし、先々のためにも稼ぎの一部を貯金したかったが、ハヤトが理解を示すことはなかった。
2024年秋、酔ったときにハヤトに無理やり作らされた150万円のカケをめぐり、口論となった。それまで貢いできた金額からすると、数パーセントに過ぎない。ハヤトの中にアヤさんから別の太客へと乗り換えようとする魂胆もあったに違いない。
「払えないなら出ていけと、家を追い出されました。こんなに尽くして来たのに、もう一瞬でポイです」
ハヤトに対する強い敵意を抱いたアヤさんは、一時期、彼に危害を加えたくなるほど憎んだ。実行こそしなかったが、「担当ホストと女性のトラブルが消えないのは、ホストが女性をモノ扱いしているからです」。
飛び降りたときのように、アヤさんの心はいまだ不安定な状態だ。それでも、今はホスト被害者を支援する「青少年を守る父母の連絡協議会」に相談しながら、やり直しに向けて踏み出そうとしている。

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