image credit:Pixabay[https://pixabay.com/photos/oyster-oysters-shell-mussel-989182/]

  抗生物質に耐性を持つ強力な細菌は、スーパーバグと呼ばれ、現代医療が直面する大問題だ。世界では毎年500万人が抗菌剤耐性菌の感染症で死亡しており、その数は今後ますます増えると予測されている。

 この危機的な状況の救世主は意外なものかもしれない。それは牡蠣(かき)だ。

 オーストラリアの研究チームがカキの血液ともいえる体液(ヘモリンパ)からタンパク質を採取し、その抗菌作用を確かめてみたところ、さまざまな感染症の原因となる細菌を殺菌できることがわかったのだ。

 しかも既存の抗生物質に混ぜれば、その効果を2~32倍にまでアップしてくれることも判明したという。

関連記事:牡蠣(カキ)の殻とコンクリートで作ったブロックで、海岸の侵食を食い止め海洋生態系を守る

現代医療の大問題、薬剤耐性菌をどう克服するか

 抗生物質の登場によって、人類は一時は細菌による感染症との戦いに勝利したかに思えた。ところが、細菌たちもやれてばかりではない。過剰に抗生物質が使用されたことで、これに耐性を持つ細菌がますます増えている。

 こうした薬剤耐性菌(スーパーバグ)の出現は、現代医療が直面する最大の問題の1つだ。薬剤耐性菌は国際宇宙ステーションでも発見されている。

 これをさらに厄介な問題にしているのは、細菌が形成するバイオフィルムだ。これはネバネバとくっつく分泌物によって無数の細菌が集まってできる膜のようなものだ。

 これは細菌にとってバリアのような役目を果たし、その内部では抗生物質への抵抗力が大幅にアップするだけでなく、それ自体が頑丈であることから細菌を物理的に取り除くことも難しくなる。

関連記事:空に浮かぶ雲の中から薬剤耐性菌の遺伝子を大量に発見

 ほぼあらゆる細菌感染症バイオフィルムを伴うため、この形成を抑制したり、破壊したりする方法があれば、感染症対策は楽になるはずだ。

Photo by:iStock[https://www.istockphoto.com/jp/%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%88/%E8%80%90%E6%80%A7%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9-gm944106856-257916075]

強力な免疫を持つ牡蠣が救世主に

 オーストラリアサザンクロス大学のケイトサマー氏らの解説[https://theconversation.com/oyster-blood-holds-promise-for-combating-drug-resistant-superbugs-new-research-226823]によれば、現在使用されている抗生物質の90%以上は天然由来のものであるという。また開発中の抗生物質の65%以上も同様だ。

 その理由は、新たに抗生物質を開発する際、まず生物の免疫を調べ、利用できるものがないか探るのが常套手段だからだ。

関連記事:濁った水がこんなにきれいに!カキ(牡蠣)の驚くべき浄化作用がわかるタイムラプス動画

 その点、海で暮らす牡蠣は、普段からさまざまな微生物に大量にさらされている。そのおかげで、強力な免疫系を進化させることができた。

 牡蠣の血液ともいえる体液(ヘモリンパ)には、抗菌作用のあるタンパク質やペプチドが含まれており、彼らはこれで感染から身を守っている。

 サマー氏らによれば、牡蠣には実際、漢方として呼吸器の感染症や炎症の治療に使われてきた長い歴史があるという。

 またオーストラリア先住民たちも治療に牡蠣を利用してきた。こうした事実が、牡蠣の抗生物質としての有望性を伝えている。

オーストラリアを流れるリッチモンド川で養殖されるシドニー岩牡蠣 image credit:Kirsten Benkendorf

関連記事:スーパーバグキラー。薬物耐性菌を破壊するナノコーティング素材が開発される

驚きの殺菌力、抗生物質と合わせた相乗効果も

 そこで今回サマー氏らは、シドニー岩牡蠣Saccostrea glomerata)のヘモリンパに含まれる抗菌タンパク質の効果を実際に確かめてみることにした。

 すると肺炎などを引き起こすレンサ球菌をよく殺菌してくれることが判明したという。さらにレンサ球菌のバイオフィルム形成を阻害するだけでなく、すでに形成されたバイオフィルムにまで浸透することがわかったのだ。

牡蠣の血液に相当する体液(ヘモリンパ)に将来有望な抗菌タンパク質が含まれている image credit:Kate Summer

 それだけでなく、既存の抗生物質と組み合わせて使うと、ほんの少量でも殺菌効果を2倍~32倍にアップさせることまで確認されたそうだ。

関連記事:そのダンベルやバーベルは大丈夫? アメリカで公共ジムのトレーニング器具から薬剤耐性菌が大量に発見される

 その効果は、レンサ球菌だけでなく、黄色ブドウ球菌や緑膿菌にも有効だったとのこと。それでいて人間の細胞に対する毒性は認められなかったそうだ。

牡蠣抗菌タンパク質はバイオフィルムを形成したレンサ球菌でも殺せることが判明。しかも既存の抗生物質と混ぜれば最大32倍も効果をアップしてくれる image credit:Kate Summer

製薬業界と水産業界の異例のタッグ

 このように牡蠣のヘモリンパ・タンパク質は、新しい抗生物質として非常に有望だ。バイオフィルムを破壊し、既存の抗生物質の効果を高め、また人間の細胞を攻撃することもない。

 とは言え、医療の現場で使えるようにするには、動物実験や臨床試験など、まだまだクリアせねばならない関門がある。

 幸いなことにシドニー岩牡蠣は普通に手に入る食材だ。実験材料に事欠くことはない。今後は製薬業界と水産業界が協力して、新しい抗生物質の開発に取り組んでいくことだろう。

 この研究は『PLOS ONE[https://doi.org/10.1371/journal.pone.0312305]』(2025年1月21日付)に掲載された。

References: Oyster ‘blood’ holds promise for combating drug-resistant superbugs: new research[https://theconversation.com/oyster-blood-holds-promise-for-combating-drug-resistant-superbugs-new-research-226823]

画像・動画、SNSが見られない場合はこちら

image credit:<a href="https://pixabay.com/photos/oyster-oysters-shell-mussel-989182/">Pixabay</a>