タレントの中居正広さんが1月23日、自身のファンクラブのサイトで芸能活動からの引退を発表した。昨年12月末、『女性セブン』や『週刊文春』が報じた中居さんの女性トラブルは、社員の関与が報じられたフジテレビの対応への疑問の声も強まり、広範囲に影響が広がっている。

親会社のフジ・メディア・ホールディングスは、日本弁護士連合会(日弁連)のガイドラインに基づく第三者委員会の設置を決定したと発表した。今後、事態はどのように収束するのだろうか。中居さんのこれまでの対応にどのような問題があったのか。河西邦剛弁護士に聞いた。

●中居さんの対応に問題は?

——女性との間にトラブルが発生したのは2023年ですが、昨年12月に初めて報道されてから1カ月で引退発表にまで至りました。初期対応に問題はなかったのでしょうか。

中居さんが、昨年末の週刊誌報道直後から活動自粛を積極的に行っていたら、話は変わっていた可能性はあります。

今回、問題が明らかになったのは週刊誌報道がきっかけでした。昨年12月19日発売の『女性セブン』や、25日発売の『週刊文春』が女性との間にトラブルが発生し解決金を支払ったこと、フジテレビの幹部社員が関わった疑いがあることなどを相次いで報じました。

そして中居さんは、1月9日、自身のサイトで、詳細は不明ながらもトラブルを認めるとともに、女性との間に示談が成立しており「解決していることも事実」とするコメントを発表しました。

ポイントは、中居さんの女性トラブルは刑事事件になっていないこと、周辺情報によると刑事事件になる可能性も低い状況だったことです。何より当初出ていた情報は全て週刊誌報道ベースであり、トラブルの詳細は不明、しかも週刊誌記事の中でも既に示談が成立しているという内容でした。

そうであれば、週刊誌報道直後に、トラブルを起こしたことについてのペナルティとして一定期間の活動自粛をすれば世間の反応は変わっていた可能性はあると考えています。

また、中居さんがコメントを発表した時期も遅かったと思います。

自身のサイトで発表したのは、最初の報道から約3週間後の1月9日。この時点ですでに中居さんが出演したCMや番組の休止も相次いでいました。テレビや新聞は裏取りがないと報道しませんし、週刊誌報道のみの状況では報道として扱わないこともあります。

しかし、スポンサー企業は、顧客との関係で例え週刊誌報道ベースであってもSNSの動向は無視することができないのが現状です。

だからこそ、スポンサー企業もSNSの動向を受けてCMを削除したと思われます。時期との関係でも週刊誌報道直後、スポンサーのCM削除前に中居さんが昨年12月の週刊誌報道直後に芸能活動自粛を発表していれば芸能活動引退までは回避できた可能性はあるかと思います。

●守秘義務がむしろ足かせになった可能性は?

——対応が後手に回った背景に、口外禁止条項は関係しているのでしょうか?

守秘義務が足かせになり、対応できなかった可能性はあると考えています。

一般的に、示談には口外禁止条項(守秘義務条項)を入れます。典型的なのは「甲と乙は、正当な理由のない限り、本件について第三者に口外してはならない」という条項です。

ただ、ここには芸能人特有の問題があります。この一般的な守秘義務条項は芸能人ではない人を対象としたもので、週刊誌報道があった場合のリスクなどを基本的に想定していません。

今回、中居さんは「具体的にあったことを話し、事実関係を訂正した上で自粛したい」という思いがあっても、守秘義務との板挟み状態となった可能性はあります。実際、中居さんは、1月9日に「事実と異なる報道もあり」としながら、守秘義務があるので、何が具体的に違うのかなど事実関係については「発信を控えていた」としています。

特に芸能人が示談する場合には、報道やSNSで事実と異なる情報が拡散した際には守秘義務が解除されるケースがあるという一文を示談書にも記載するべきではないかと考えています。そうすれば、異なる情報が拡散した際、示談の効力を維持したまま守秘義務のみ外すということが可能になります。

今回は芸能人の問題ではありますが、SNS時代ですので、一般人が当事者になることも考えられます。今後は口外禁止条項が解除されるケースがあることを盛り込み、必要に応じて事実関係の訂正などはできることを合意した上で示談する必要があります。

●第三者委員会で証言する?

——今後、フジテレビ側が設置する「第三者委員会」が中居さんに証言を求める可能性はあるのでしょうか。

中居さんに対する第三者委員会の調査は現実的にいくつかハードルがあると考えられます。

第三者委員会の調査に対して中居さんへの強制力はありません。引退した以上、より一層、中居さんにとって調査に応じるメリットはないかもしれません。また、中居さんが応じたいとしても、先ほど指摘したように相手女性との間の示談で結んだ守秘義務もあります。

中居さんが女性サイドから、「第三者委員会の調査であっても、個人の特定につながる可能性が少しでも上がるなら応じないで欲しい」と言われた際に、中居さんには女性とトラブルになるリスクをとってまで調査に応じるメリットはないと判断する可能性は十分にあり得ます。

その結果、第三者委員会の調査報告書は、「中居氏への聴き取り調査を依頼したが、応じることができないという返答となり、全く話を聞くことができなかった」となる可能性は十分にあり得ます。

【取材協力弁護士】
河西 邦剛(かさい・くにたか)弁護士
「レイ法律事務所」、芸能・エンターテイメント分野の統括パートナー。多数の芸能トラブル案件を扱うとともに著作権、商標権等の知的財産分野に詳しい。日本エンターテイナーライツ協会(ERA)共同代表理事。「清く楽しく美しい推し活〜推しから愛される術(東京法令出版)」著者。
事務所名:レイ法律事務所
事務所URL:https://rei-law.com/

中居正広さん、なぜ引退を回避できなかった?…「守秘義務」条項の影響は 弁護士が解説