
松坂桃李が日曜劇場の初主演を務める『御上先生』(TBS系/毎週日曜21時)第1話が、19日に放送された。いわゆる学園ドラマの枠に留まらない、鋭い切れ味とドラマチックな展開を予感させるスタートだった。「本当の闇を見たいか?」。松坂演じる、辞令により私立高校3年の担任教師となった文部省のエリート官僚、御上孝(みかみ・たかし)が、私たちに“いま”を突き付ける。
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■官僚兼教師の主人公だからこそ、見つめられる物語
第1話は、国家公務員採用試験会場での殺人事件から幕を開けた。
事件同日。天下り斡旋の濡れ衣を着せられた御上が、新たに設けられた官僚派遣制度により私立高校・隣徳学院へとやってくる。官僚兼教師として。「体のいい左遷だよ」と口にしつつ、その実「いまの日本の教育を変えてみせる」と心に誓いながら。
物語は、文科省同期の槙野(岡田将生)や上司の塚田(及川光博)が登場する「パンドラの箱」と称された“官僚”パートと、御上が受け持つ3年2組の生徒たちや、副担任の是枝(吉岡里帆)とのやりとり、そして文科省にしっぽを振って御上を受け入れた学校側を描く“教師”パートが絡み合いながら、進んでいくようだ。
是枝は生真面目で、生徒からの評価も高い。しかしそれは授業中に自由に内職(受験勉強)できるからにも見え、優秀さが空回りしている。御上が来たことで担任から副担任になっただけでなく、御上の生徒たちへの姿勢にも納得できない。だが御上が廊下に迷い込んだ蝶を優しく逃がす姿に、「敵なのか見方なのか」と迷い始めた。スローロリスに例えられた是枝は、御上をラーテルだと言ったが、本当の御上は、心優しい人物なのではないだろうか。御上の自宅にあった置物の、草食恐竜・ステゴサウルスのように。
■散りばめられる謎 御上の過去パートも気になる
御上を演じる松坂は、デビュー作の『侍戦隊シンケンジャー』にはじまり、映画『ツナグ』『娼年』『孤狼の血』シリーズ、『新聞記者』、ドラマ『今ここにある危機とぼくの好感度について』『VIVANT』、さらに舞台と、いわゆる王道エンタメからR18指定作品、社会派まで、高い演技力を見せてきた。本作ではその立ち姿だけでも、期待にたがわぬ圧倒的な存在感で引き付ける。同時に御上の内面はまだ霧に包まれており、是枝や生徒たちとのやりとり、彼らの視線によって、御上像が浮かび上がる。
御上自身の内面に迫るキーは、たびたび現れる幻影だ。過去の映像から、彼の兄なのかと想像させるが、その謎の青年の瞳自体、学生時代のまっすぐさと、幻影で現れる際の冷たさにギャップがある。最初に御上が言った「愛と憎しみはとても近くにあると、あなたに教えられた」の言葉も気になる。そして高校時代の御上は、“AI御上”と呼ばれるような佇まいとは、まるで異なるキャラクターに見える。彼らの過去については、ONE OK ROCKによる主題歌が流れるエンディング映像もヒントになっていそうだ。
■御上と生徒たちの“大逆転”教育再生ストーリーに期待
オリジナル脚本を手掛けるのは、松坂とは映画『新聞記者』(2019)でも組んだ詩森ろば。主に演劇界で活躍しており、社会へメッセージを送り続けている。
報道部の神崎(奥平大兼)のエピソードが中心となった第1話でも、御上は生徒を前に、「考えて」「どう思う」と問いかけた。「試験会場での殺人事件」と「教師の不倫記事」は全話を通じて描かれるのではなく、こうしたいくつかの問題を切り取り、本質に迫りながら、強いメッセージ性を放つ「個人的なことは政治的なこと」、さらには「バタフライエフェクト」といった大きな投げかけをしていくのかもしれない。
官僚かつ教師の主人公によって、生徒たちだけでなく、ドラマを見る私たちへ「考える」ことを提示する本作。教師と生徒、みんなで立ち向かっていく、“大逆転”教育再生ストーリーと、最初から銘打っているのも、ポジティブなラストを期待させて刺激する。(文:望月ふみ)

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