タトゥーが刻まれた1200年前のチャンカイ族の手のミイラ image credit:Michael Pittman and Thomas G Kaye[https://www.eurekalert.org/multimedia/1055408]

ペルーで見つかったミイラに刻まれた細かく精巧なタトゥーが息をのむほど見事で、当時のタトゥー職人のスキルの高さが浮き彫りになった。

この見事なタトゥーを入れていたのは、およそ1200年前に現在のペルー沿岸に住んでいたチャンカイ族だ。

 チャンカイ文化は織物の大量生産で知られるが、ボディアートにも力を入れていたようだ。

 研究者たちは、恐竜の研究に用いられる「レーザー刺激蛍光法(LSF)」という技術を応用し、タトゥーの痕跡を完全につかむことができた。

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タトゥーの文化的重要性

 タトゥーのもっとも古い例は5000年以上前にさかのぼるが、人体の軟組織はすぐに分解してしまうため、現代においてその痕跡を見つけるのは容易ではない。

 遺体がミイラ化して残っている場合、皮膚は黒ずんで革のようになり、タトゥーに使われたインクは薄くなり周囲の組織ににじんで見えにくくなってしまうことが多い。

チャンカイ族の手の指に施された道化の衣装のような菱形模様。白色光(左)で見るとはっきりしないが、レーザー刺激蛍光法:LSF(右)で見た場合には模様がはっきりとわかる。Kaye et al.、PNAS[https://www.pnas.org/cgi/doi/10.1073/pnas.2421517122]、2025

恐竜に用いられる技術を応用

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 米国科学振興財団の古生物学者トーマス・ケイ氏と香港中文大学の古生物学者マイケル・ピットマン氏は、レーザー刺激蛍光法(LSF)を使って、恐竜の軟組織に隠された詳細情報を明らかにしてきた。

 これを応用して、チャンカイ族のミイラタトゥーをすばらしさを明らかにしたのだ。

 LSF技術がミイラの研究に使われたのは今回が初めてだが、まさに驚異的な結果が得られた。

 100体以上のチャンカイ族のミイラを調べたところ、タトゥーを入れているミイラの皮膚はレーザーを当てると明るい蛍光色を発したが、タトゥー部分では発しなかった。

タトゥーが入ったチャンカイ族の手のミイラ。左は白熱光、右はLSFにさらしたもの Kaye et al.、PNAS[https://www.pnas.org/cgi/doi/10.1073/pnas.2421517122]、2025

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チャンカイ族はどのように繊細なタトゥーを彫ったのか?

 LSFによってインクのにじみの影響をほぼ排除した高コントラストの画像ができ、非常に細かい見事なタトゥーがはっきり見えてきた。

 だが、どうやってこれだけ細かいタトゥーを入れたのか、その制作方法を特定することは至難の業だ。

 0.1~0.2mmという繊細な幅の線から、これまでの古代タトゥーの例のように、皮膚を切開して染料を塗り込むのではなく、一本の針で刺していくやり方であることがわかる。

 これは有名な5300年前のアイスマン、エッツィのタトゥーが、先端が尖った錐(きり)のような道具を使って手で彫られたことを発見した最近の実験研究の結果と一致している。

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チャンカイ族のタトゥーが実際どのように彫られたのかは、正確にはわかりませんが、現代の12番タトゥー針よりも先端が細い針(0.35mmに対して0.1~0.2mm)が使われたと思われます

これは切開して染料を埋め込むというやり方ではなく、先の尖った道具を使った伝統的なタトゥー技術を使ったことを示しています

当時のチャンカイ族が利用できたものから推測すると、それはサボテンの棘か、先端を尖らせた動物の骨ではないかと思われます(ピットマン氏)

チャンカイ族のミイラの腕に入れられた鱗模様のタトゥー。上は白色光、下はLSFにさらしたもの。LSF下では鱗模様を描いている線の細かさがより鮮明にわかる。Kaye et al.、PNAS[https://www.pnas.org/cgi/doi/10.1073/pnas.2421517122]、2025

タトゥーはチャンカイ文化の芸術的生活の重要な一部

 チャンカイ文化は、西暦1000~1470年頃に現在のペルー中部沿岸で栄えた文化で、独自の芸術様式を持ち、儀式や日常生活で用いられる工芸品が多く見つかっている。

 当時のタトゥー道具が発見されない限り、確かなことはわからないが、タトゥーの細かさからチャンカイ文化について見えてくることがある。

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 これほどのタトゥーを完成させるのに時間と労力がかなりかかったはずだ。つまり、タトゥーを入れた人にとって、これは大きな意味を持っていたことを示している。

 タトゥーのデザインは、チャンカイ文化が誇る織物や陶器の模様と一致する点が多く、タトゥー芸術的生活の重要な一部だったことを示している。

(A) ミイラの遺体に似たタトゥーが描かれた陶器の人物像の絵。(B) チャンカイ文化織物の柄の例。(C) ペルー沿岸の現代のチャンカイの場所  Kaye et al.、PNAS[https://www.pnas.org/cgi/doi/10.1073/pnas.2421517122]、2025

 また、タトゥーの複雑さや質にはばらつきがあるため、これらを制作したアーティストたちのレベルがさまざまだったことを示している。

 現代のタトゥーアーティストに例えると、一部の模様は見習いレベルのアーティスト、より複雑なデザインは経験を積んだ熟練アーティストによって作られたのかもしれない。

何世紀も前に生きていた古代の達人たちは、それから何世紀も後の私たちの技術に情報を与えてくれるかもしれない。

古代のタトゥーの線がこれほど細く繊細だとはいまだに信じられないくらいです

現代の標準的な12番のタトゥー針ではこんな細かいデザインは描けないという事実は、1000年以上前の初期のタトゥーから学ぶことはまだまだたくさんあるということを私たちにおしえてくれます(ピットマン氏)

 これは、古代のタトゥー習慣と技術の研究における新境地なので、研究者たちはさらに研究を進めたいと考えている。

 世界中のミイラを調べ、先祖が体に印をつけたさまざまな方法とその理由を解明していく予定だ。

タトゥーには、その文化やタトゥーを入れている者にとってなにが重要かなど非常に多くの情報が含まれている可能性があります

初期のタトゥーを研究することで、ほかの考古学的証拠からは得られないような方法でこの世界の側面を知る貴重な突破口が得られるでしょう。今回の繊細なタトゥーの発見がそれを示しているのです(ピットマン氏)

 この研究は 『Proceedings of the National Academy of Sciences[https://www.pnas.org/cgi/doi/10.1073/pnas.2421517122].』(2024年12月4日付)に掲載された。

References: Pnas.org[https://www.pnas.org/doi/full/10.1073/pnas.2421517122] / Breathtaking Tattoos Revealed on Peruvian Mummies From 1,200 Years Ago : ScienceAlert[https://www.sciencealert.com/breathtaking-tattoos-revealed-on-peruvian-mummies-from-1200-years-ago] / Intricate tattoos on 1,200-year-old mummy revealed by lasers | Popular Science[https://www.popsci.com/science/mummy-tattoos-laser/]

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