
東京にある3つの弁護士会(東京弁護士会、第一東京弁護士会、第二東京弁護士会)は、選択的夫婦別姓制度の法制化を後押しするべく、東京23区の議会に対し、制度導入を求める意見書を可決するよう訴えている。
23区のうち、すでに15の区議会が意見書を可決。東京の多摩地域(26市・3町・1村)では23市が可決し、東京都議会も2021年6月、国会での審議を求める意見書を全会一致で可決している。
東京三会は2025年1月、23区でまだ可決していない8区のうち、議案提出の動きがある品川区を除く千代田区・中央区・港区・目黒区・太田区・荒川区・足立区の7区に対し、意見書の可決を目指すよう陳情や請願を提出した。
東京弁護士会副会長の福崎聖子弁護士は2月3日、東京三会の副会長が揃っておこなわれた会見で、「選択的夫婦別姓が認められないことによる弊害で困っている方がたくさんいる」と指摘。「その声を吸い上げて政治にいかしていけるのは地方議会にほかならない。現場を変えていくために国への意見書を地方公共団体の立場から出していただければ」と活動の趣旨を説明した。
●全国の地方議会で意見書可決の動き地方議会は、自治体の公益に関する事件につき意見書を国会や関係行政庁に提出することができる(地方自治法99条)。
選択的夫婦別姓制度の導入に向けた動きは、東京以外にも各地で出ている。
当事者団体「一般社団法人あすには」によると、2024年12月の1カ月で意見書を可決した自治体は40議会にのぼり、その中には北海道札幌市や新潟県新潟市、神奈川県川崎市といった大規模な自治体も含まれている。
●「アイデンティティの問題は『旧姓の通称使用』で解決しない」第一東京弁護士会副会長の木野綾子弁護士は、「姓を変えたくないという理由で事実婚を選んでいる人は少なくない」と話す。
「仕事上の不便で困っているという声のほか、(姓を変更することで)自分が自分でなくなってしまうのではないかと考えている方が多いというのが実感です。
こういったアイデンティティの問題は、『旧姓の通称使用』拡大といった形では解決しませんので限界があると思います」(木野弁護士)
夫婦別姓に対する反対理由としてあげられる「家族の絆が弱まる」という点についても、「法律婚(夫婦同姓)でも今や3組に1組が離婚する時代。夫婦別姓と家族の絆とはまったく関係がないというのが実態では」と指摘する。
●旧姓の通称使用「女性が国際的な仕事をする上で非常に不便」海外業務を担当することが多いという第二東京弁護士会副会長の湯浅紀佳弁護士は、結婚時に仕事上は旧姓を使用する選択をしたが、「旧姓で日本での弁護士としての活動をしていると、(戸籍上の姓と異なるため)活動の証明が難しく、ビザをとるのに苦労する」と自身の体験を明かした。
「旧姓の通称使用では、日本の女性が国際的な仕事をする上で非常に不便、大きな障害になっていると身をもって感じています。また、仕事上使用する銀行口座は基本的に旧姓で維持しているので、まともに投資ができない状態にもなっています。経済活性化にも大きな障害になっているんじゃないかと思います。
今となっては結婚当時、仕事で使用する姓も戸籍姓に変えてしまえば良かったかなと思わないこともないくらい不便です。ただ、通称を含め、自分の姓をすべて戸籍姓に変えられるかというと、旧姓で頑張ってきた自分が全部なくなるようで選べないです」(湯浅弁護士)
福崎弁護士は、結婚当初は仕事上では旧姓を使用していたが、実生活上の不便さに挫折して、その後仕事上の氏も戸籍姓に変更したという。
●「子が親の結婚・離婚に振り回されない形を」また、自身の両親が離婚した際に姓の変更した経験があり、「私自身はかわいそうと思っていなかったのに、周囲からかわいそうと言われることがすごく嫌だった」と話す。
「結婚する時に姓を選べる、子どもの姓も選べるということであれば、両親が離婚しても(姓が変更されないので)周囲に知られることはない。子どもが親の結婚・離婚に振り回される形で姓を変える必要もない。子の立場からもそう伝えたいです」(福崎弁護士)
都内の自治体で意見書を可決することが選択的夫婦別姓制度実現にどの程度のインパクトを与えるかについて、福崎弁護士は、「弁護士として現場の声を吸い上げて、まずは地方の政策に反映していただく。国会議員の方に伝えるだけでなく、現場で草の根として活動していくことは非常に重要な意義があると感じる」と強調した。

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