
正式にアメリカの国鳥となった「ハクトウワシ」だが、人間による開発や狩猟、さらには殺虫剤として使われたDDTの影響で、20世紀にはアメリカの多くの地域で絶滅危惧種に指定されていた。
だが2025年1月6日、アメリカのニュージャージー州当局は、ついにこの日をもってハクトウワシを同州の絶滅危惧種リストから外すと発表した。
州政府や保護団体はもちろん、ニュージャージー州の住人たちにとっても、数十年前にはたった1組のペアしかいなかった同州のハクトウワシが、驚異的な復活を遂げた記念すべき日となったようだ。
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州の絶滅危惧種リストからハクトウワシが削除される
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これまでの保護活動が功を奏し、アメリカ連邦政府では、既に2007年、ハクトウワシを絶滅危惧種のリストから外している。
さらに多くの州で個体の増加が確認され、次々にリストからの除外を発表していたが、ニュージャージー州ではその生息環境への脅威がまだ失われていないとして、州の絶滅危惧種のままになっていた。

今回の発表によると、絶滅危惧種から外れることになったのは、ハクトウワシとタカの仲間、ミサゴの2種だ。
ニュージャージー州環境保護局(DEP)の局長、ショーン・M・ラトゥレット氏は、次のように述べている。
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今回の措置は、ニュージャージー州における絶滅危惧種の保護と回復の歴史において、まさに重要な節目であり、ニュージャージー州で絶滅の危機に瀕していた野生生物を復活させるために、過去40年以上にわたり、多くの人々が熱意と献身を持って取り組んできた結果です。
このように大きな成功を収めても、私たちはこれらの種がニュージャージー州で反映し続けるよう、監視と保護に引き続き細心の注意を払っていきます
同州ではこれまで、ハクトウワシの生息数を回復させるために、ありとあらゆる努力を重ねてきた。
個体数が安定しているカナダから連れてきたハクトウワシを再導入したり、営巣中の巣にある卵を人工卵と交換し、本物の卵を人の手で安全に孵化させてから巣に戻したりといった対策が、長い期間続けられてきた。

20世紀に深刻な絶滅の危機を迎える
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アメリカのハクトウワシは、20世紀には深刻な絶滅の危機に瀕していた。主な原因はDDT(ダイディクロロジニトロベンゼン)として知られる農薬の使用だった。
この薬剤のせいでハクトウワシの卵の殻は薄くなり、産卵が阻害されたり、孵化できなくなったりといった弊害をもたらしたのだ。
DDTは1940年代から1970年代初頭まで広く使用されており、その影響で多くの鳥類が絶滅の危機にさらされた。
特にハクトウワシは、繁殖に必要な卵が孵化しない事例が多発し、個体数が急激に減少したのである。
1963年には、ハクトウワシのつがいは全米で417組を数えるまでに激減。ニュージャージー州では1970~1980年代にかけて、わずか1組しか確認されていなかったという。
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保護活動の成果、21世紀になり個体数が増加
だが、1972年にDDTが禁止されたことが、ハクトウワシの復活への大きな一歩となった。
環境保護団体や政府の取り組みにより、彼らの生息地が保護されるとともに、食物連鎖の上位にいるハクトウワシの生存環境が整えられた。
これにより、ハクトウワシは再び繁殖を始め、個体数は驚異的な回復を見せた。アメリカ全土でのハクトウワシの個体数は、現在31万羽を超えると推定されている。
州の絶滅危惧種および非狩猟動物プログラムの責任者、キャシー・クラーク氏はこう語る。
ニュージャージー州のハクトウワシとミサゴの成功は、多くの献身的な個人やパートナーのおかげです。
これらの種は、脅威を理解し、わしとミサゴが繫栄し回復できる環境改善のための長年の努力がなければ、失われていたかもしれません。
これは州だけでなく、非営利団体の自然保護活動家や、非常に献身的なボランティアによる、長期的な取り組みでした。
DEPのハクトウワシ・プロジェクトは、現在150人以上が参加する巣の監視ボランティア・プログラムの恩恵を受けています。
だがその反面、ニュージャージー州の絶滅危惧リストには、新たに30種の生き物が追加されることとなった。クラーク氏はさらに続ける。
週の絶滅危惧種リストに、新たに30種が追加されたことからもわかる通り、私たちにはまだやるべきことがたくさんあり、課題に直面し続けています。
しかし、多くの献身的な人々と強力な法律の施行により、私たちは今後も野生生物の多様性を守り続けられると確信しています

アメリカ人の心に生きるハクトウワシ
ニュージャージー州にあるタートルバック動物園では、「フリーダム」という名のハクトウワシが飼育されている。
フリーダムはロープに絡まっているところを保護されたが、ケガがひどく、リハビリは続いているものの、野生に返せる状態にはない。
だが彼が回復していく過程は、動物園のスタッフにとっても大きな喜びだった。野生に戻ることこそできなかったが、フリーダムは動物園を訪れる人々に、ハクトウワシの魅力を伝える存在となっている。
正式にアメリカの国鳥として認められたハクトウワシだが、実は多くのアメリカ人は、直接ハクトウワシの姿を目にした経験がないんだそうだ。
とは言え、日本人が富士山を生で見るとなんだか興奮するように、ハクトウワシを見ると誰もがワクワクしたり、ハッピーな気分になるんだとか。
ハクトウワシの劇的な復活は、単なる野生動物保護の成功譚ではなく、アメリカ人のアイデンティティに触れる物語なのだ。
References: American bald eagles are having a moment, ecologically and culturally[https://whyy.org/articles/american-bald-eagles-endangered-new-jersey-philadelphia-super-bowl/]

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