「退職して同業種で開業したら退職金を返還する」というルールに悩んでいる──。こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。

相談者は、退職後に同業種での開業も視野に入れているため、会社から求められた競業避止誓約書のサインを拒否しました。しかし、会社には「退職後1年以内に同業種で開業したら、退職金を返還する」という記載が就業規則にあり、頭を悩ませています。

相談者としては、まずは同業種ではない家業に従事する予定ですが、1年以内に同業種での開業をする可能性はあるようです。会社にルールを確認したところ、「その通りだ」と言われてしまいました。

もし就業規則に違反して開業した場合、退職金を返さなければならなくなるのでしょうか。山本幸司弁護士に聞きました。

●職業選択の自由に対する制約だが「必ずしも無効とは限らない」

相談のケースでは、就業規則に「退職後1年以内に同業種で開業したら、退職金を返還する」という競業を制限する規定があるとのことですが、このような規定は「合理的な労働条件」といえる場合に有効となります(労働契約法7条)。

退職後の競業制限は、労働者の職業選択の自由(憲法22条1項)に対する制約が強いため、在職中の競業制限よりも厳しく合理性が判断されます。

過去の裁判例をみると、合理性を判断する際には、次の点が検討される傾向があります。

(1)会社の利益
技術上・営業上の秘密の保護や、顧客の維持などの会社の利益が、退職者の競業制限を認めて保護すべきものであるといえるか

(2)退職者の従前の地位
会社の利益を保護する手段として退職者の競業を制限することが、当該退職者の従前の地位等を考慮して必要かつ合理的といえるか

(3)競業制限の範囲
会社の利益の確保のために、競業の範囲が期間、地域、業務内容・対象の点で合理的に限定されているか

(4)代償措置の有無・内容
退職者が在職中に受領した賃金、手当、退職金等が十分かなど

相談者の方についても、これらの観点を踏まえて、就業規則の適用の有無が判断されることになります。

なお、相談者の方が異なる業種の家業を営む場合、就業規則や会社との合意書等に特別な規定がない限り、会社に通知する必要はないと考えられます。

【取材協力弁護士】
山本 幸司(やまもとこうじ)弁護士
広島弁護士会所属。企業法務(上場企業、医療機関など)、相続、不動産、労働、離婚問題、刑事事件などの分野で経験を積み、広島市で独立開業。税理士と共同して、法務・税務の両面からトータルサポート。
事務所名:山本総合法律事務所
事務所URL:https://www.law-yamamoto.jp/

就業規則に「1年以内に開業したら退職金没収」 こんなルール、違法ではないの?