牛丼チェーン「すき家」で、女性客が麦茶の入ったピッチャー(水差し)を直飲みする様子を撮った動画がSNS上で拡散されている。

拡散されている動画には、黒い服を着た女性客が、ピッチャーに直接口を付けて一気飲みするところが映っている。さらに撮影者と思われる人のコールの声も入っている。

すき家の広報担当者によると、2月4日に管轄の警察署に被害届を提出したという。発生日時・店舗も把握しているが、従業員等への影響も懸念して公表していない。

近年、こうした迷惑・いたずら動画の投稿は繰り返されており、回転寿司チェーンでの動画が裁判沙汰に発展したことは記憶に新しい。

今回のような行為は法的にどのような問題があるのだろうか。今井俊裕弁護士に聞いた。

●器物損害罪や業務妨害罪が成立する可能性

今回もまた世間を騒がせることになるでしょうね。

別人による似たような行為が過去に回転寿司店などでありましたが、それと本質的に変わらない「違法行為」であると思います。

仮に、この動画に撮影されている人が20歳未満ならば「少年事件」として扱われますが、牛丼店側はこのピッチャーを廃棄処分せざるえないでしょうから、まず器物損壊罪に該当します。

さらにこの店がこの行為を認識した時点以降から、他のピッチャーの取り替えやその他の備品の確認や廃棄、従業員への特別な指示等といった通常とは異なる作業を強いられるでしょうから、業務妨害罪に該当する可能性もあります。

業務妨害罪には、偽計を手段として用いて業務を妨害する行為と、威力を手段として用いて業務を妨害する行為の2種類が刑法で定められています。両者の区別は実は法律を勉強した人でも該当性判断が難しい事案も多く、一概にいずれに該当する、と言い切れない事案も多いです。

偽計とは一般的には、「人を欺いたり人の錯誤や無知を利用しておこなう行為」とされますが、過去の裁判例では、たとえば、3カ月間に970回の無言電話を飲食店にかける行為は偽計にあたる、とされたものがあります。

また、威力とは一般的には、「人の意思を制圧するに足りる勢力を示す行為」とされますが、過去の裁判例では、たとえば、弁護士の対応に憤慨してその弁護士の訴訟記録等が入った業務用鞄を奪って隠す行為は威力にあたる、とされています。あるいは、猫の死がいを人の事務机の引き出しに入れておいて、その人に発見させる行為は威力にあたる、とされたものがあります。

店のピッチャーに直接口を付けて飲む行為について、偽計業務妨害あるいは威力業務妨害、いずれの考えも成り立ちうると思います。

●損害賠償請求されるおそれも

以上は刑事事件としてですが、それとは別に民事事件としての問題もあります。店の備品等の廃棄や清掃、顧客への信頼回復作業のために特別に要した費用が損害となります。

これに加えて、その店の売上や同一企業が運営する他の店舗の売上まで下がった場合、その減益分を損害として賠償請求される可能性もあります。

ただし、仮に訴訟になった場合において、その因果関係の証明がどこまでできるか次第であると思います。

【取材協力弁護士】
今井 俊裕(いまい・としひろ)弁護士
1999年弁護士登録。労働(使用者側)、会社法、不動産関連事件の取扱い多数。具体的かつ戦略的な方針提示がモットー。行政における、開発審査会の委員、感染症診査協議会の委員を歴任。
事務所名:今井法律事務所
事務所URL:http://www.imai-lawoffice.jp/index.html

「すき家」でピッチャー直飲み、SNSで「外食テロ」動画拡散…法的には?