1970年代後半、ホンダヤマハの間で熾烈なバイク販売競争が勃発。双方とも多いときで毎週新型バイクをリリースするなど、ホンダヤマハともに気を抜くことができなかった時代ですが、そこで生まれたのがフォーゲルポッケでした。

モンキー&ゴリラの対抗馬として開発された「よく似た2台」

 1970年代後半、バイク市場を巡ってホンダヤマハの間で熾烈な争いが起こりました。いわゆる「HY戦争」というもので、沈静化する1983(昭和58)年頃までの間に、各社とも多いときで毎週新型バイクをリリース。ホンダヤマハ双方とも気を抜くことができなかった時代です。

 このシェア争いのせいで、コンセプトやモデルごとの念入りな差別化を図ることなく、生まれては消えていったバイクも少なくありません。そのうちの2台が、1980(昭和55)年リリースのヤマハフォーゲル」と「ポッケ」でした。

 フォーゲルポッケとも1980(昭和55)年のほぼ同時期に発売されたわけですが、この2台、いずれも2ストローク車で共通部品も多く、遠目にはデザイン的にもよく似ています。ヤマハはどうして、このような「外観がよく似た2台」を同時期に発売したのでしょうか。

 あくまでも筆者(松田義人:ライター・編集者)個人の憶測に過ぎませんが、当時のヤマハにとっての天敵であるホンダのレジャーバイクには、「モンキー」と「ゴリラ」という2モデルがあり、双方とも支持がありました。そこでヤマハも「モンキーゴリラのような2つのレジャーバイクが必要だ」と考え、慌ててフォーゲルポッケという2台を開発するに至ったのではないかと思います。

 フォーゲルモンキー同様の折りたたみハンドル仕様で、ガソリンタンクキャップ漏れ防止コックも搭載し、車載を意識したモデルでした。それでいて、ガソリンタンクゴリラの9リットルを凌駕する10リットル容量を実現。

 車名はドイツ語で「鳥」を意味します。当時のリリースによれば「鳥のもつ、自由、行動的、活動的、冒険……などワイルドなイメージを表現し、草原や山道などを自由に走るジープ感覚でお乗りいただこうと命名しました」とあります。フォーゲルは、ホンダモンキーゴリラよりも、ワイルドなレジャーバイクだったというわけです。

念入りな設計を感じない一方、愛らしい色褪せない特別な魅力も

 一方のポッケ。遠目に見ればフォーゲルに似た外観ですが、よく見るとタイヤがかなり小さいのです。原付最小となる6インチタイヤで、その全長も同クラス最短の1280mm。ホイールベースが短いため、走行の安定性は劣る一方、同時代のモンキーが失った初期レジャーバイクのような手軽さ、かわいさを追求したバイクでした。

 しかし、1980年代以降のレジャーバイクブーム終焉、あるいは「HY戦争」の収束からフォーゲルポッケとも1983(昭和58)年で生産終了。ユニークな「外観がよく似た2台」は、そのまま3年で姿を消すに至りました。

 フォーゲルポッケとも全体的なバランスは少し変わっていて、2ストロークということもあり、急激にスロットルを上げるとどちらもすぐに前輪が浮いたウイリー状態になってしまうという難点がありました。

 このことからも「念入りな設計の末に開発された2台」とは思えないわけですが、しかし、それでもなお、フォーゲルポッケとも一定数のマニアがおり、現在も中古車市場でちらほら販売されています。ちなみにフォーゲルよりポッケのほうがやや高めで、走行距離数が短い個体のポッケはなんと50万円超えも。

 いずれにしてもフォーゲルポッケは生産終了から40年以上経った今も色褪せることのない特別なレジャーバイクです。モンキーゴリラほどの知名度がないところもマニア心をくすぐります。

1980年代にヤマハから登場したフォーゲル(画像:ホンダ)。