
昭和といえば高度経済成長やバブル経済、東京ディズニーランドのオープン、ポータブルカセットプレーヤーの流行などあらゆるジャンルが生まれては消えていった激動の時代。文化や芸術が混沌とした時代に生まれた音楽や本、映画には、洗練された令和の世のそれとは違う味わいがある。挑戦的で粗削りだが一部においては突出するクオリティの演出、いまでは考えられないビッグネームのそろい踏み、昭和という時代を感じさせるノスタルジックな風景…。そんな昭和映画の代表ともいえる隠れた名作「だいじょうぶマイ・フレンド」の、いまでは考えられない作品性を深掘りしていく。
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■村上龍が原作から監督・脚本まで手がけた映画「だいじょうぶマイ・フレンド」
1983年4月に公開された映画「だいじょうぶマイ・フレンド」は、「限りなく透明に近いブルー」「コインロッカー・ベイビーズ」などの著作で知られる村上龍が手がけた作品だ。第75回芥川賞を受賞した「限りなく透明に近いブルー」も映画化し、自らメガホンを取っている村上。本作は原作、脚本、監督としての二作目に当たる。
同作のあらすじは世界的な組織から追われているゴンジーという宇宙人が少年少女三人組と出会い、さまざまなトラブルに巻き込まれる…というもの。弱点を持つ空飛ぶ宇宙人と青年たちの友情、世界的組織との攻防という、さまざまな人気映画のいいとこどりをしたような設定がすでにカオスで面白い。
だが同作の注目すべき点は、目まいがするようなキャストとスタッフ陣の豪華さにある。ゴンジー役には映画「イージー・ライダー」で知られるピーター・フォンダを据え、彼を手助けする少女ミミミを務めるのは広田レオナ(旧芸名:広田玲央名)、さらに少年ハチを渡辺裕之、モニカを乃生佳之が演じる。
さらに根津甚八、タモリ、研ナオコ、岸部一徳、武田鉄矢、小松政夫など、いまではとてもそろわないビッグネームが出演する同作。しかも楽曲面ではアカデミー作曲賞を受賞し数々の名曲を世に輩出した坂本龍一、幅広い年代から親しまれているサザンオールスターズの桑田佳祐、「セーラー服と機関銃」「セカンド・ラブ」などのスタンダード・ナンバーを作曲した来生たかおと、こちらも豪華絢爛というほかない。
■「超豪華メンバーが集まって作り上げたコメディ」という贅沢さ
表から裏まできらびやかな面々で作り上げた同作だが、ジャンルはファンタスティック・コメディともいうべき方向性。力を失って飛べなくなった超人を3人の少年少女がかくまい、悪の組織と戦う…というとスタンダードなファンタジー路線を想像するかもしれないが、実態はよりコミカルな作品だ。
たとえば超人的なパワーを持つゴンジーだが、トマトが弱点。近づくだけで弱りはて、悪の組織に手も足も出せなくなってしまう。しかしトマト嫌いはある過去のトラウマが関係しており、終盤にはそれを利用した驚きのシーンが存在する。これをレジェンド的ハリウッドスターのピーター・フォンダに演じさせたところもまた、同作の痛快な点といえるだろう。
物語の足組はスタンダードながら、村上の挑戦とユーモアあふれる発想が生んだ奇跡の快作。令和の世では作れないかもしれない…という意味でも、一度は目にしておきたいタイトルだ。
配信サイトなどでもなかなか取り上げられない同作だが、CS放送「衛星劇場」が2月13日(木)夜6時45分ほかに放送。同局では「令和によみがえる。懐かしのちょいレア劇場」と題してさまざまな作品を放送しており、他にも2014年に逝去した伊藤猛が主演を務める「心臓抜き」(2月14日[金]朝8時30分ほか放送)なども放送される。
「心臓抜き」はフリー記者の青年・名雪和史(伊藤)がある日、行き倒れのように死んだ男に遭遇する。しかし間借りしている家主の友人から紹介された婚約者は、死んだはずの男に酷似していた。事件の臭いを感じた名雪は死んだはずの男を調査するのだが、不思議な出来事に巻き込まれていく…。
キャストに園子温、石丸謙二郎など、意外な面々も登場する同作は2月14日(金)朝8時30分ほかに放送。52歳という若さで亡くなった伊藤の演技が見られる貴重な作品となっている。
映画は公開された時代の空気を色濃く感じられるメディアだ。当時の芸能界を席捲した新しい表現の渇望、伝統と革新への挑戦、新しい価値観を待望する空気感。忙しい現代だからこそ、激動の時代に相応しいカットや演出に思いを馳せながら映画を味わうという贅沢な時間を過ごしてみたい。

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