
毎朝の通勤。特に都会では、長い時間、満員電車に揺られ、会社に着くころには満身創痍……ということも珍しくありません。こうして辿り着いた会社で、いつも通り仕事が始まることは、実は幸せなことかもしれません。
サラリーマン、マイホーム実現で通勤時間が倍に
村上直樹さん(仮名・42歳)。勤務先は東京都心。5年前に都内のマンションから戸建てを購入し、神奈川県に家族4人で引越し。通勤時間はドアツードアで片道40分から倍の80分に延びました。
――コロナ禍は電車も比較的すいていましたが、最近は満員電車が復活して、会社に到着するころにはヘトヘトになっていました
2021年に行われた『社会生活基本調査』によると、サラリーマン(従業上の地位:雇用されている人、雇用形態:正規の職員・従業員)の通勤時間は全国平均51分。都道府県別にみていくと、最も長いのは「兵庫県」で62分。60分で「埼玉県」「神奈川県」「大阪府」が続きます。ちなみに47都道府県でサラリーマンの通勤時間が最も短いのは「山形県」で平均35分です。
【47都道府県「サラリーマンの通勤時間」上位10】
1位「兵庫県」62分
2位「埼玉県」60分
2位「神奈川県」60分
2位「大阪府」60分
5位「千葉県」58分
6位「京都府」56分
6位「奈良県 56分
8位「茨城県」55分
9位「東京都」54分
10位「愛知県」52分
また働いている人(有業者/雇用されている従業員)の年収別に通勤時間をみていくと、年収600万~800万円は通勤1時間越え。このあたりの年収帯はマイホーム購入層。会社近くの都心からは離れ、郊外を選択するケースが多くなるため、自ずと通勤時間も増えるのでしょうか。また年収1,000万円を越えると、再び通勤時間が1時間を越える傾向にあります。毎日出社する必要のない高給取りは、都心の喧騒を離れ郊外へ……マイホーム購入者層とは違う理由が考えられます。
月収40万円、年収で700万円ほどだという村上さん。マイホーム実現によって、平均以上の通勤時間を日々耐えていました。
8時45分、いつも通り会社に到着すると…
出社時間は、毎日8時45分。ボロボロになりつつも、気持ちを切り替えるために元気よく挨拶するのが村上さんのモットー。しかし、その日の朝は騒々しい社内に挨拶をすることを忘れてしまったといいます。
どうも様子がおかしい……近くにいた同僚に話しかけると、動揺した様子で「会社が倒産したらしい」とポツリ。「何かの間違いでは?」と思い、オフィスに入ると物が散乱し、空き巣でも入ったよう。ほかの同僚がいうには、重要な書類のファイルがいくつか消えているといいます。騒然とするなか、村上さん、「うっ、嘘だろ……」というのが精いっぱいだったといいます
その直後に行われた朝礼で、会社が倒産したこと、全員解雇となることが告げられました。「なぜ倒産したのか」「これからどうすればいいのか」「給料は支払われるのか」……社員から次々と質問が飛び交いますが、経営陣の姿はなく、現時点、自身も倒産の事実しか知らされていないと繰り返す上司の姿がありました。その後、資金繰りの悪化による倒産であることが判明。経営陣は最後まで姿をみせなかったといいます。
労働基準法第20条によると、会社は労働者を解雇する場合、30日以上前に予告をしなければなりません。また、労働者に対する未払給料の支払いは取引先など他の債権者への支払いより優先されるべきとされています。しかし実際には、会社の財産状況によっては、全額支払われないこともあるようです。
突然、職を失い、騒然とする従業員たち。もちろん村上さんも同様です。
――ローンは残っているし、これから子どもの教育費もかかってくる……まさに青天の霹靂です。ただ途方に暮れている暇なんてありません。とりあえず、新しい仕事を探そうと、その日のうちに転職サイトに登録して、仕事探しを始めました
幸い、村上さんは転職活動1ヵ月半ほどで、新しい仕事を見つけることができたそう。ただ年収は10%ほどダウンしてしまったとか。
――無理してローンを組んでいたら、もっと窮地に追い込まれていたでしょうね。とにかく、あの慌ただしい日々を振り返ると、経営陣には怒りしかありません
帝国データバンクによると、2024年の企業倒産件数は9,901件に達し、そのうち破産は9,271件。9,000件を上回るのは11年ぶりだといいます。2025年も緩やかに倒産件数は増加する見込みだとか。
村上さん、今回の倒産騒動で、毎朝の通勤地獄という当たり前が幸せなことだったと痛感したとのこと。唯一、転職により通勤時間が80分から65分と15分ほど短縮したことはよかったと、笑顔で話してくれました。
[参考資料]

コメント