
ひとときの安定を見せる中古EV価格
ここ数年の間、中古EV市場はジェットコースターのような展開を見せてきた。
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新型コロナのパンデミックとそれに続く半導体不足により新車の供給が制限された結果、一部の中古EVは当初の定価よりも高値で取引されるようになった。
しかし、EVの販売車種が増え、供給が安定し、EVに対する不安が広がるにつれ、価格は大幅に下落した。実際、市場アナリストのCap HPIが発表したデータによると、英国では2024年9月までに、3年落ちのEVは、同等の年式・走行距離のガソリン車よりも8.5%ほど安価に購入できるようになった。
ところが、この傾向は今また変化してきている。2024年後半には英国の中古EVの価値は安定しており、実際、中古エンジン車の価値が下落する中で、わずかながら上昇した。
また、英国自動車製造販売者協会(SMMT)の記録によると、2024年第3四半期には5万3400台以上の中古EVが販売され、2023年の同時期と比較して57%増加した。したがって、価格の下落が需要を牽引していることは間違いない。
もちろん、これは販売する側か購入する側かによって、悪いニュースにも良いニュースにもなる。ただ、このように不安定な市場ではあるものの、これほど多種多様な中古EVがこれほど低価格で販売された例はかつてなく、価格がさらに上昇する前に購入するには今が絶好のタイミングである。
バッテリーの健康状態について
中古EVを購入する際の黄金律は、中古のエンジン車の場合とほぼ同じである。事故の形跡がないか、すべてのパネルの隙間が均一であるか、塗装が一致しているかを確認し、これまでの車検履歴をチェックし、金融、盗難、その他の軽犯罪の履歴についてしっかり調べる。これらは今でも効果的である。
さて、次に重要なのはバッテリーだ。大半の購入者にとっては最大の懸念事項であろう。バッテリーが時間経過と使用により劣化することは周知の事実だが、ダッシュボードにバッテリーの健康状態を表示するEVはほとんどない。
バッテリーの状態を明確に表示することはメーカーにとって非常に簡単なことであり、購入者の信頼を高めるために義務化すべきであると、我々は声を大にして言いたい。
EVのバッテリー寿命をチェックすることが、携帯電話のバッテリー寿命をチェックするのと同じくらい簡単でない理由などないはずだ。しかし、残念ながら現実はそうではない。そして、それが中古EVの購入に人々が不安を抱く理由であることは理解できる。
覚えておくべきことは、EVのバッテリー寿命は最近では非常に長いということだ。目安としては、正極材の種類(ニッケル・マンガン・コバルトまたはリン酸鉄リチウムなど)に関わらず、毎年およそ1.6%から2.0%の容量が失われると想定すべきである。
EVに差し込んでバッテリーの健康状態を読み取れるOBDポートリーダーを購入することもできるが、読み取り時のバッテリーの温度や、テスト前の充電サイクル、OBDデバイスの不確実性などの影響を受けるため、必ずしも正確というわけではない。
それでも、購入を検討しているクルマのバッテリーの状態を確かめるために、OBDデバイスを携帯する自信があるなら、やってみる価値は十分にある。ベターなアドバイスとしては、バッテリーの状態に関する詳細なレポートを見せてくれる、信頼できるディーラーから購入することだ。
走行距離が多くても無視しない
バッテリーの健康状態と航続距離の大まかな目安として、もちろんクルマのダッシュボードに表示される航続可能距離の数値を参考にすることもできる。ただし、その数値はそれまでの運転方法によって影響を受けること、また、フル充電時の航続可能距離がやや楽観的に表示されるモデルもあることを念頭に置いてほしい(初期のステランティス製EVは特にこの傾向が強い)。
クルマの長期的な電費を考慮し、そこから航続可能距離を計算すると、より現実的な平均航続距離を割り出しやすい。また、実際の使用環境における航続距離に関する情報を求めるなら、オーナーズクラブが最適な場である。
バッテリーの健康状態が心配な場合は、急速充電をあまり頻繁に行っていない低走行のEVが最良の選択肢となるだろうが、走行距離の多い車両も除外すべきではない。なぜなら、走行距離の多いEVでも、バッテリーの健康状態や航続距離が驚くほど良好である可能性があるからだ。
実際、筆者は9年前に製造された走行距離42万kmのテスラ・モデルSを試乗したが、スーパーチャージャーで充電されていたにもかかわらず、バッテリーの容量は84%も残っていた。(AUTOCAR JAPAN、2024年12月15日掲載:【走行距離41万km超えの実力は? 「9年落ちの」テスラ・モデルS 90Dへ試乗 印象的な耐久性!】を参照)
だから、走行距離の少ないものや年式の新しいものにこだわる必要はない。自分のライフスタイルに合った、現実的な航続距離のクルマを探せばよいのだ。
エアコンやサスペンションも要チェック
英サリー州の専門ディーラーEV Expertsのマーティン・ミラー氏は、中古EVでは暖房システムもチェックすべきだと指摘する。
「エアコンと暖房システムは400Vなので、EVに新しいエアコンポンプを取り付けるには1000ポンド(約20万円)かかります。当店では最近、ジャガーIペイスのヒーターエレメントに2200ポンド(約40万円)支払いました。ここは非常にお金がかかる分野です」
サスペンションの摩耗も、特に走行距離の多い車両では注意すべき点である。
「EVもクルマですから、走行距離は重要です。エンジンとトランスミッションが距離に応じて摩耗するエンジン車とは異なりますが、それでもサスペンションとブレーキシステムの摩耗には注意が必要です」
サスペンションから聞こえてくるガタガタ音やきしみ音には注意して欲しい。特に、EVは同等のエンジン車よりも重量があるため、サスペンション部品が多少早く摩耗する可能性がある。
回生ブレーキシステムがあるため、EVのブレーキパッドはエンジン車よりもはるかに長持ちするが、パッドの残量は年式、走行距離、パワートレインに関わらず、中古車を購入する際には必ず点検すべきである。もちろん、タイヤも同様だ。
結論、中古のEVを探す人にとって、選択肢はこれまで以上に充実している。EVに詳しく、バッテリーの健康状態についてレポートを出してくれるような信頼できるディーラーから購入するようにしよう。
日常的に必要とする走行距離よりも、少なくとも10~15%長い実走行距離を持つEVを探そう。中古のEVは、必ずしも恐れる必要はない。
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