
2025年2月15日、日産自動車がタイの第1工場を閉鎖するという決断は、タイの自動車産業界に大きな衝撃を与えている。長年、タイ経済を牽引してきた日産の決定は、タイ政府によるEV車振興政策と相まって、タイの自動車産業が大きな変革期を迎えていることを象徴する事案として受け止められている。
日産は2025年度第1四半期(4月~6月)までにタイの第1工場を閉鎖する。これまで長きにわたり、タイで自動車生産を行ってきた日産にとって、タイは東南アジアにおける自動車生産の重要拠点であり、重要な市場と位置づけてきた。
しかし近年、日産はタイ国内での販売台数が伸び悩み、生産能力が過剰になっていた。2022年の日産車のタイにおける販売台数は22,521台で、市場シェアは2.7%にとどまっている。これは、競合他社と比較して低い水準であり、販売不振が深刻化していることを示している。そんな折、中国メーカーが低価格で高品質なEVを投入し、競争が激化していた。例えば、中国のBYDは、タイでEVの販売台数を急速に伸ばしており、日産のシェアを脅かしている。また、世界的なEVシフトの加速に対応するため、生産体制の見直しが急務となっていた。加えて、以前には提携関係にあったルノーとの関係が悪化、さらにホンダとの経営統合交渉が決裂したことも、日産の経営判断に影響を与えたと考えられる。
この決定によるタイ経済へのマイナスの影響も少なくないとみられている。雇用問題だけをみても関連産業も含めるとその規模も深刻さの度合いも大きい。ロイター報道によると、日産自動車は東南アジア最大の生産・輸出拠点であるタイで、2025年秋までに約1,000人の人員削減と配置転換を実施する方針を固めたという。しかし、同時に、タイの自動車産業には新たな変化をもたらすきっかけとなるかもしれない。中国メーカーのシェア拡大やEV市場の成長など、産業界全体で見ると、新たなビジネスチャンスとなる可能性ともなり得るからだ。
折りしも、EV車への転換については以前ほどの勢いがなくなっており、まだまだ課題が大きいことが浮き彫りになっている。タイでのEV車普及にも慎重な姿勢を崩さない客層も多く、充電スタンドの拡大や充電時間、走行距離などの課題は、ガソリン車からの移行を阻んでいる。タイ政府はEV普及に向けて様々な政策を打ち出しているが、充電インフラの整備はまだ十分とは言えない状況である。
スバルやスズキなどすでに撤退を表明したメーカーもあるが、ビジネス界のことわりにあるとおり、ピンチはチャンスと成せるか。日本企業全体にとっても正念場となるのかも知れない。

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