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 ポルトガルの汚染された工業地帯で、「有機フッ素化合物(PFAS)」を分解する細菌が発見されたそうだ。

 PFASはきわめて分解されにくいことから「永遠の化学物質」と呼ばれる厄介なものだ。だが「Labrys portucalensis F11(F11株)」は、そのガッチリとした化学結合を切断し、副産物の一部を分解する。

 PFASは、長年にわたって撥水性の高さから様々な用途に使用されていたが、いつまでも残り環境を汚染し、食物、水道水、さらには人間の体内にも広く検出されるようになっている。もしかしたらその除去にF11株が一役買ってくれるかもしれない。

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永遠の化学物質「PFAS」を切断、分解するバクテリア

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 「有機フッ素化合物(PFAS)」は、水や油をはじき、化学的に安定していることから、防水スプレーやテフロン加工のフライパン、消火剤、あるいは紙製のストローなど、さまざまな用途に使用されてきた化学物質だ。

 しかし、炭素とフッ素原子の結合がきわめて強力なため、自然界ではほとんど分解されず、環境に長く残留し、生物の体内に蓄積されることから、「永遠の化学物質」と呼ばれている。

 それは使いやすさにつながる性質であるが、1万種類以上あるPFASの中には有害なものもあるため、現在は使用規制が世界的に進められている。

 そんな中、ニューヨーク州立大学バッファロー校のニュースリリース[https://www.buffalo.edu/news/releases/2025/01/bacteria-found-to-eat-forever-chemicals.html]によると、「Labrys portucalensis F11(F11株)」がこの強固な結合を切断して分解し、炭素を食べてエネルギーにできることを発見したという。

自然界のほとんどの微生物はPFASを分解することができなかったが、F11株は分解することが可能なことがわかった Photo: Meredith Forrest Kulwicki/University at Buffalo

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PFASのみならず、代謝物も細かく分解

 この細菌は、ポルトガルの汚染された工業地帯の土壌から特定されたもので、研究では、F11株をPFAS以外に炭素源を持たない環境で培養し、その切断、分解能力を検証した。

 実験の結果、F11株が実際に3種類のPFASを分解することを確認している。

  • PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸):100日間で90%以上の結合を切断・分解
  • 5:3フルオロテロメルカルボン酸:100日間で58%の結合を切断・分解
  • 6:2フルオロテロメルスルホン酸:100日間で21%の結合を切断・分解

 だがF11株がすごいのはそれだけではない。細菌が何かを分解する際、その代謝物ができるが、F11株はその代謝物にいたるまでフッ素を除去するか、検出不能なレベルまで細かく分解していたのだ。

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 これまでの研究では、細菌の代謝物までは分析されないことが多かった。その点、F11株は最後の最後まで永遠の化学物質を処理してくれる頼れる奴であることがしっかり確認されたのだ。

F11株が代謝した結果を分析したところ、PFASの90%が分解されていることが確認された/Photo: Meredith Forrest Kulwicki/University at Buffalo

化学物質に汚染された過酷な環境を生きるための進化

 だがなぜF11株はそんなすごい力を手に入れたのだろう?

 ニューヨーク州立大学バッファロー校のダイアナ・アガ氏の解説[https://www.buffalo.edu/news/releases/2025/01/bacteria-found-to-eat-forever-chemicals.html]によれば、汚染された環境で生きるために適応した結果であるという。

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細菌が過酷な汚染された環境で生きられるのは、周囲の化学汚染物質をエサとして利用できるよう適応したからにほかなりません(ダイアナ・アガ氏)

 F11株が発見されたのは、化学物質による汚染が進んだポルトガルの工業地帯だ。PFASは決して美味しい食べ物ではなかったかもしれないが、F11株は生きるためにこれを分解して、その炭素をエネルギーにする方法を獲得した。

 じつは、F11株が医薬品のフッ素を除去できることは、これまでも知られていたのだという。

F11株はもともとポルトガルの汚染された工業地帯で発見された/Photo: Meredith Forrest Kulwicki/University at Buffalo

最大の課題はPFASをご馳走にすること

 F11株は、永遠の化学物資の掃除屋としてきわめて有望だ。だがその一方で、課題がないわけでもない。

 はたして現実の環境でF11株を使用した際、本当にPFASを分解してくれるのだろうか?

 今回の実験では、F11株はPFASのみが与えられた。だが実際の環境には炭素がいたるところにある。

 あえて頑丈なPFASを分解せずとも炭素を利用できるのだ。ならば、わざわざPFASの化学結合を切断するなんて大変なことをしないで、楽に手に入る炭素を選ぶのではないだろうか?

 実用化されればF11株は、下水処理場の活性汚泥内で増殖させてから汚染地帯に投入されるか、直接汚染された土壌や地下水に注入されるだろうという。

 だが、その際にいかにしてPFASを食べてもらうのか?

 テーブルの上に柔らかくて美味しいお肉があるのに、お客にはあえて筋っぽくて噛みきれないお肉を食べてもらう…研究チームは今後、そんな方法を考案しなければならない。

 この研究は『Science of the Total Environment[https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0048969724085061]』(2025年1月10日付)に掲載された。

References: Bacteria found to eat forever chemicals — and even some of their toxic byproducts - University at Buffalo[https://www.buffalo.edu/news/releases/2025/01/bacteria-found-to-eat-forever-chemicals.html]

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