
年金改定により、今年4月からの年金受給額が決まりました。3年連続の増額改定となりましたが、一方で、昨今の物価上昇幅を超えることなく、実質、年金減額。「年金を頼りに生きています」という高齢者は多く、悲観する空気が漂っています。
3年連続「公的年金増額改定」も年金生活者は落胆の色を隠せない
公的年金の支給額は、物価と賃金の変動に応じて毎年度改定されます。今年4月からは老齢基礎年金は満額受給で6万9,308円。前年から1,308円増えました。またモデル夫婦*の老齢年金は、基礎年金と厚生年金合わせて23万2,784円。前年から4,412円増えました。
*平均年収で40年就業した夫と、専業主婦の妻の2人世帯
さらに家族の形態が多様化していることをうけ、今年度からはさまざまなパターンのモデル年金額を発表しています。まず厚生年金中心(20年以上)という男性の場合、月17万3,457円。国民年金(第1号被保険者)期間中心(20年以上)の男性は月6万2,344円。厚生年金中心(20年以上)という女性の場合、月13万2,117円。国民年金(第1号被保険者)期間中心(20年以上)の女性は月6万0,636円。国民年金(第3号被保険者)期間中心(20年以上)の女性は月7万6,810円。それぞれ前年より3,234円、1,156円、2,463円、1,127円、1,431円の増額となりました。
「年金増額!」と思いきや、むしろ減額。今回の改定で公的年金の支給額は3年連続で引き上げ改定。足元の物価や賃金の上昇に対応して1.9%ほど増えたものの、支給額の伸びを抑える「マクロ経済スライド」が3年連続で発動。引き上げ率は賃金などの上昇幅より0.3%分目減り。結果、年金増額分が物価増額分を上回ることはできず、実質年金減額となったのです。
厚生労働省『2023年 国民生活基礎調査』によると、公的年金を受給している高齢者世帯における公的年金の総所得に占める割合は、「年金が100%」という世帯が41.7%。「年金が80~100%」の世帯が17.9%、「年金60~80%」の世帯が13.9%。7割以上が「収入のほとんどが公的年金」という状況。そのようななか、4月から実質年金減額のニュースは、年金生活者を大いにがっかりさせました。
コメ価格1年で180%上昇…年金に頼る高齢者の絶望
そもそも、年金支給額を調整する「マクロ経済スライド」とは?
マクロ経済スライドは、日本の公的年金制度において、少子高齢化や経済状況の変化に対応するために年金の給付額を調整する仕組みです。2004年の年金制度改正で導入され、年金財政を長期的に安定させることを目的としています。
マクロ経済スライドでは、物価や賃金の上昇に応じて年金額を増やす「名目上の改定率」に対して、「調整率」(マクロ経済スライド率)を差し引いて年金額を調整。具体的には「被保険者数の減少率」や「平均余命の伸び率」が影響します。
通常、年金額は物価や賃金の変動に応じて増減しますが、たとえば「物価上昇率1.0%」マクロ経済スライド調整率0.5%」とすると、物価が1.0%上昇しても、実際の年金額の改定率は「1.0%-0.5%=0.5%」となり、年金額の増加幅が抑えられます。
マクロ経済スライドは年金財政を長期的に安定させる効果があり、給付と負担のバランスを調整することで、現役世代への負担増を抑えることができます。
一方で今回の改定のように、調整率の影響で、年金受給者が受け取る年金額が物価上昇に追いつかず、実質的に生活が苦しくなる可能性があります。また物価上昇が激しい場合、生活費が増える中で年金額が追いつかないため、特に低所得の高齢者への影響が深刻です。
2020年代に入り、高齢化の進展や労働人口の減少が進んでいるため、マクロ経済スライドの適用が継続されています。しかし、物価上昇が続いている中で年金受給額の抑制が進むことで、年金受給者の生活困窮が社会問題となっています。
スーパーに並ぶ、さまざまなコメ袋。それを前にため息をもらす高齢者が昨今、目につきます。
――コメ5キロ/4,051円
現役世代も「えっ、コメ、高っ!」と驚くような価格です。昨年の夏のコメ騒動以来、コメ価格は上昇の一途を辿り、東京都区部の小売価格は4,000円を突破。備蓄米の放出とニュースをにぎわせていますが、その効果は不透明です。「コメさえあれば何とかなる」という人が多い日本人。そのコメが1年で180%、およそ2倍にも値上げとなり、多くの家計が困窮。特に脆弱な家計の年金生活者は「どう生きていけというのだ……」と絶望感を覚えるしかありません。
【コメの「東京都区部小売価格」の推移】
2024年1月…2,283円
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2024年6月…2,483円
2024年7月…2,602円
2024年8月…2,772円
2024年9月…3,152円
2024年10月…3,792円
2024年11月…3,843円
2024年12月…3,868円
2025年1月…4,051円
※出所:総務省統計局『小売物価統計調査』
※数値は、国内産/精米/単一原料米(産地/品種及び産年が同一のもの/袋入り5kg入り/コシヒカリを除く
内閣府が昨年8月に行った『国民生活に関する世論調査』によると、「去年と比べて生活は向上している」と回答した人は、60代が3.2%、70代以上が0.7%。全世代平均5.4%を大きく下回りました。同じように「今後、生活はよくなっていく」と回答した人は、60代が2.9%、70代が1.8%。こちらも全世代7.1%を大きく下回りました。
絶望的な状況に追い打ちをかける年金実質減額。高齢者の受難は終わりがみえません。
[参考資料]

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