
「不動産投資やられました」
タレントのしみけんさんが2月13日、自身のXで注意喚起を呼びかけた。しみけんさんの投稿は次のように続いていました。
「現状利回り13.5%の新潟の物件を売買契約。明日午前に1800万弱の決済。そんな前日の本日18時に『すみません。入居者がほぼ全員退去予定となりました。』と。利回り上げるためカモフラージュ要員を住まわせ売れたら退去か?」
不動産投資とは、マンションやアパート、オフィスビルなどをまるごと一棟購入し、投資家が賃貸収入を得たり、売却して利益を得たりするものです。しみけんさんはこれまでも、不動産投資をしており、今回の物件で5軒目だそうです。
しみけんさんの投稿によると、「入居者が全員退去」の連絡が来たのは「手付金解除の期日(2/7)が過ぎた時点」だったとのことです。しみけさんは、「数少ない部屋数で2/7-13でそんなドタバタ退去する?」と疑問を呈しています。
解約すれば違約金約360万円になるとのことで、しみけんさんは、弁護士らと対応しているそうです。
一体、しみけんさんに何が起きたのでしょうか。不動産投資のリスクについて、秋山直人弁護士に聞きました。
●「説明しなかったことは説明義務違反となる可能性が高い」――しみけんさんのケースでは、不動産投資で手付解除期日の後に「全員退去」という連絡が来たとのことですが、この時点での連絡に法的な問題はないのでしょうか?
しみけんさんのXの投稿によると、「現所有者が退去予告について、少なくとも1月中には把握していたことが判明しています。本件売買契約締結時に本件退去予告がなされていたにもかかわらず、退去がなく今後も賃借人が存在するかの如くレントロールを開示した上で、弊社に購入の意思決定をさせていたことになります。」とのことです。
仮に、上記投稿の内容が事実であり、売買契約締結の時点で既に賃借人から退去予告がされていたのであれば、退去予告の事実は売買に関する意思決定に影響を与える情報ですから、そのことを知っていた売主や仲介業者は、買主に対し、売買契約前の重要事項説明の一環として、当該退去予告がなされている事実を説明すべきであり、説明しなかったことは説明義務違反となる可能性が高いと思います。
●しみけんさんはどんな対応できるのか――しみけんさんは今後、どのように対応ができるのでしょうか?
しみけんさんの投稿した通りの事実関係であり、売主や仲介業者の説明義務違反が認められる場合には、売主に対する契約解除、損害賠償請求、仲介業者に対する損害賠償請求が考えられます。
契約解除については、損害賠償請求よりもハードルが高く、特に重大な事実の説明義務違反であることが必要です。賃借人が全部で何戸で、そのうち何戸から退去予告が来ていたかといった事実関係が重要になると思います。
なお、しみけんさんは、当初、Xに「利回り上げるためにカモフラージュ要員を住まわせ売れたら退去か?」と投稿しています。
この点については、退去した入居者に居住実態があったのか、どのくらいの期間居住していたのかといった事実関係が重要になると思います。売主に賃貸借契約書を開示させたり、入居者の住民票の異動履歴を調べたりといった調査が必要になるでしょう。
また、現時点でまだ入居している入居者がいるなら、了承を得て室内を確認させてもらい、居住実態を確認することも有効でしょう。
もし、しみけんさんの主張どおり、利回りを表面上良く見せるために、居住実態の乏しい人間をごく短期間寝泊まりさせていただけで、カモフラージュだったことが立証できた場合には、売買契約の詐欺による取消しや、不法行為による損害賠償請求も認められる可能性があります。場合によっては刑事事件に発展することもあり得ます。
●不動産投資のリスク、どう備える?――しみけんさんのようなトラブルにならないためにも、不動産投資のリスクをどうすれば回避できるのでしょうか?
自分が住んでいるところから遠く離れた場所の物件を買うというのは、当然のことながら、かなりリスクがあります。
都市部と地方とでは、賃貸需要や賃料相場も全く異なります。土地勘がない場所の物件について、適正賃料を把握することはなかなか難しいです。また、修繕やトラブルの対応も、遠隔地ではなかなか困難を伴います。
表面利回りの高さに釣られて、物件を良く調べずに契約してしまうことにもリスクがあります。
購入前に、きちんと物件を確認・分析し、物件の立地自体の価値や建物の状態を適正に評価できていれば、仮に一時的に空室が増えたとしても、新規賃料で募集して満室にすることはできるはずです。
やはり、表面的な利回りの数字に釣られるのではなく、立地、建物・設備の劣化状況など、物件自体の価値を良く吟味する必要があるように思います。
●中古アパート投資のありがちなリスクとは?――レントロール(家賃明細表)のウソに備える方法はありますか?
今回のように、開示されたレントロールの情報に問題があるような場合に備えて、売主に、売買契約締結時点で開示されたレントロールの情報が真実であることの表明・保証をしてもらう条項や、売買契約締結から決済までの間に賃借人から退去予告があった場合には直ちに買主に知らせる条項、この期間に売主が新規賃借人と契約するには買主の了承を必要とする条項などを売買契約書に盛り込む対策が考えられます。
その他、中古アパートへの投資案件でありがちなリスクとしては、購入後、思わぬ建物や設備等の不具合が発覚するリスクがあります。過去の漏水・雨漏りの被害歴や火災歴の事実、ベランダの腐食などが購入後に発覚するケースがあり、私の方でもこれまで多く相談を受けています。
中古アパートの売買では、売主の契約不適合責任を免責する条項が入ることがよくあります。そのような免責条項があると、原則として売主の契約不適合責任は免責され、例外的に、売主がその契約不適合について知っていたのに告知しなかったことを買主が立証できる場合に限り、免責の効力が否定されます(民法572条)。
一般的に、売主がその契約不適合について知っていたことを立証することは、買主にとってはかなりハードルが高いので、買主にとっては、売主の契約不適合責任を免責する条項は入れない方が有利です。
当該条項を入れざるを得ない場合には、基本的には売主の責任を追及することは困難になることを意識した上で、契約前にできるだけ物件について情報を集め、調査するべきだと思います。契約前に、インスペクション(住宅診断)業者に依頼して、建物のインスペクションを行わせてもらうことも有効だと思います。
【取材協力弁護士】
秋山 直人(あきやま・なおと)弁護士
東京大学法学部卒業。2001年に弁護士登録。所属事務所は四谷にあり、不動産関連トラブルに特化して業務を行っている。不動産鑑定士・宅地建物取引士・マンション管理士・賃貸不動産経営管理士の資格を保有。
事務所名:秋山法律事務所
事務所URL:http://fudosan-lawyer-akiyama.com/

コメント