
この連載をやってきて、社会人として働いている方々はいろいろなストレスや悩みを抱えていることをあらためて実感しています。最近の僕の悩みといえば【35歳にもなって平気で10時間寝ちゃうこと】くらいです。結構早い段階で人として成長することをやめたのかもしれません。お笑いがあって本当によかったです。
今回は番外編ということで、編集の方からいただいた「働いていてツッコミたくなる“あるある”シチュエーション」をお題として、どんなツッコミができるか回答する形でやってみようと思います。たっぷり寝たので今の僕なら何個でも答えられる気がします。
お題①「いま抱えている仕事で手いっぱいなのに、さらに無茶な業務を振られた。角を立てずに『無理です』と伝えたい」
まずは本当にお疲れ様ですと言わせてください。眠りに眠ってる自分がとても恥ずかしいです。こういった無茶な要求も真面目で優しい人は断れずに身を削ってがんばってしまいますし、それを知らない上司が「なんだ、やれんじゃん」と勘違いしてさらに仕事を増やされそうでたしかに怖いですよね。
こういうときは「一応お伝えしておくんですけど、今ぼくポケモンだったら“ひんし”です」なんて、どうでしょうか。相手がポケモンを知らない世代だったら「ドラクエだったらもうすぐ棺おけ入ってます」だと通じるかもしれません。ゲーム喩えが全然伝わらない場合は、もうシンプルに「もしかして僕、体力無限だと思われてます?」でもいいです。「あなたのことが嫌だとか能力的にできないわけじゃなくて、これ以上は体力的にピンチです」ということをユーモアを交えて伝えられると、角が立たない気がします。
引用----
■ツッコミ例
「ポケモンだったらもうすぐ”ひんし”です」
「僕、体力無限だと思われてます?」
■ツッコミ名称
無茶振り回避ツッコミ
■解説
仕事が忙しいのに、さらなる業務を振られたときに角を立てずに「無理です!」と伝えるツッコミ。内容や相手云々ではなく、体力の問題だと示すのがポイント。
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ちなみに社会人の方とは違いますが、お笑いの世界にも「無茶振り」が存在します。バラエティでもよく使われる言い方なので、ご存じの方も多いですよね。芸人は基本的に無茶振りされたら文句を言いながらも応じます。だからこそ絶対にやってはいけないマナー違反が、無茶振りをした側が頑張ってくれた相手に対してひとつもフォローしないことです。テレビではあまり見ないかもしれませんが、ライブでは悲しいかな頻発します。
無茶振りするだけだったら誰でもできます。振るんだったら何があってもフォローするとか、自分だけは確実に笑うとか、そういう覚悟を持って振らなければなりません。無茶振りをするということは、振った側自身に対する無茶振りでもあるんです。
万が一自分のフォローがウケなかったとしても、一緒にスベってくれたという事実は相手の信頼に変わります。しかし、ウケるにこしたことはありません。だから僕はプロの芸人として、最後に自分がケツを拭けば100%笑いを取れるという確信がある時にしか無茶振りしないと決めています。なので今まで誰かに無茶振りをしたことはありません。そうです、僕にはまだ実力が伴っていないのです。
■朝令暮改を連発する人にどうツッコむか
悲しい事実が浮き彫りになったところで次のお題にいきましょう。
お題②「言っていることがコロコロ変わる人と仕事をするのがストレス」
これもなかなか大変そうです。相手が上司だったりしたら「おっしゃっていることがこの前と違いますよ」とは言えないものなんでしょうね。
お笑いで考えると、強いポリシーを込めたようなボケをした後に「いや、でもこうじゃない?」と軽く反論されて「たしかにそうだね」と1ターンで論破されるみたいなパターンが近いかもしれませんね。そういうときは「すぐ意見変えるじゃん。世間?」というツッコミが使えそうです。相手のキャラクター的に大丈夫そうなら「世論ぐらい意見変わりますね」ぐらい言ってしまってはどうでしょう。
もしくは、ちょっと嫌味っぽくなってしまいますが「考え方のバリエーションが豊富ですね」という方向もありそうです。「あっ、今日はそういう考えなんですね」と含みを持たせるような言い方もできます。どちらにせよ、意見を変えた側が「たしかにさっきと言ってること違うね」とその事実を認めることによってその人のかわいげもだいぶ増しますし、その場の空気も穏やかになります。プライドが邪魔して跳ね除けてしまわないように誘導するのもツッコミの役割なのかもしれませんね。
引用----
■ツッコミ例
「世論ぐらい意見変わりますね」
■ツッコミ名称
朝令暮改はだめツッコミ
■解説
言うことがコロコロ変わる人に対して、それを指摘するツッコミ。これをきっかけに相手がその事実を認めてくれれば大成功。
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このお題をもらったとき、あえて「どういうきっかけでこのアイデアが振ってきたんですか?」と質問して相手が気持ちよくしゃべってくれたら、前に言っていたことを自ら否定していく流れになって逆に面白くなるのでは? と思ったのですが、担当編集の方から「取り返しがつかなくなるだけだと思います」と言われました。ついつい根のMCが出てしまいました。
■ツッコんでいると相手には気付かせないステルスなやり方
お題③「知ったかぶりしがちな人に、気を悪くされない程度にツッコミたい」
仕事に限らず発生しそうなシチュエーションですね。知ったかぶり自体はそこまで悪いことではないと思います。成敗しなきゃいけないほどではないけど、そのままスルーするとちょっとモヤモヤするところはありますよね。なので、「毎度ご存知ですよねぇ」「博識さんだなぁ」みたいに、褒めているトーンだけど自分の中ではいじっているようなスタンスでいくのがいいんじゃないでしょうか。
あまりにもしつこく知ったかぶりしてくる場合は、いっそボケてる感じで「知ってますねー。"知る人"と書いて“知人”ですね」くらいまで踏み込んでもいいかもしれません。その後も知ったかぶられたら「“知人”っすねぇ」と追い討ちをかけましょう。そうやって状況ごと楽しめるといいですね。本人にはツッコミだと思わせないけど、自分の中ではツッコんでるからモヤモヤは晴れるというステルスツッコミです。
引用----
■ツッコミ例
「博識さんだなぁ」
「”知る人”と書いて”知人”ですよ、もう」
■ツッコミ名称
ステルスツッコミ
■解説
知ったかぶりをしがちな人に対して、本人にはバレないように軽くいじりつつツッコむときなどに有効。
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■自分の価値観を押し付けるツッコミはリスクが高い
お題④「初対面の人との会話にいつも困る。ツッコミによって『話しやすい人』と思ってもらうことは可能?」
これは大事なことですが、ツッコミは万能ではありません。僕も日常生活ではよっぽどツッコまなきゃいけない状況以外はツッコみません。特によく知らない相手に対してむやみにツッコむと、どんどん人が離れていきます。言えることがあるとすれば「できるだけ自分の価値観を押し付けないツッコミを心がける」ということでしょうか。ツッコミはそもそも役割として訂正や否定を担う部分が大きいので、どうしても上から目線に思われてしまうリスクがあります。
たとえば初対面の人と趣味の話になって「いろんな製造年の10円玉を集めるのが趣味です」と言われたとき、「変な趣味だな!」というツッコミは自分の価値観に基づいています。「変」だというジャッジが入っているので、関係性のない人に言われたら嫌な気持ちになる可能性がありますよね。その代わり「珍しっ!」や「稀有ですねー」だったら、だいぶ印象が変わってきます。いろんな製造年の10円玉を集めるという趣味は、客観的な事実として珍しくはあるはず。その話を広げるために価値観を付け加えるなら「こんな珍しい趣味の人に会えるなんて、ギザ10見つけた時くらいワクワクします!」くらいポジティブにして、向こうに気持ちよく話してもらいましょう。
引用----
■ツッコミ例
「10円玉集めが趣味なんですか?珍しっ!」
■ツッコミ名称
ノーリスクツッコミ
■解説
自分の価値観を排して、客観的な事実に基づいてツッコむ手法。相手の話に対するジャッジの意図を含まないので、不快な思いをさせるリスクが減少する。
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これまでと形式を変えてみましたが、いかがでしたでしょうか。日常生活や仕事の場で使ってみて、うまくいったものがあったらぜひ教えてください。もちろん、うまくいかなくてもぜひ教えてください。しれっとこのエッセイから削除させていただきます。
(取材・文/斎藤岬)

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