知人女性に性的暴行をした疑いで、鹿児島県警の捜査2課長の男性警視(28)が書類送検された。

報道によると、男性警視は2023年に警察庁から鹿児島県警に出向。女性が今年1月、警察庁のセクシュアル・ハラスメント相談窓口に「昨年11月、(男性警視から)不同意性交の被害を受けた」と連絡したことで発覚したという。

男性警視が被疑事実を認めているかなどの詳細は現段階で不明だが、鹿児島県警では近年、盗撮などの疑いで現職の警察官が複数逮捕されており、今回の男性警視の書類送検についてネット上では「なぜ逮捕されないのか?」と疑問が上がっている。

その背景には、警察が市民を逮捕する権限を持つ一方、捜査過程は外部に閉ざされており警察が身内への強制捜査を恣意的に避けているのではないかという疑念がありそうだ。

一般的にどういった場合に逮捕されるのか?また、捜査機関の関係者は逮捕されにくいといった事情はあるのか?元検察官の荒木樹弁護士に聞いた。

●逮捕は捜査手続きの一つ「有罪判決を得る見込みは必要ない」

逮捕には、現行犯逮捕・緊急逮捕・通常逮捕の3種類があります。

現行犯逮捕や緊急逮捕は、犯罪発生直後に、一定の要件で令状なしで行われる逮捕です。

それと異なり、通常逮捕の場合には、裁判官が発する逮捕状が必要です。

逮捕状を発するためには、(1)被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる理由と(2)逮捕の必要性が要件とされ、逮捕の必要性とは罪証隠滅や逃亡のおそれがあることが要件とされています。

逮捕状請求にあたっては、捜査機関は、逮捕状請求に必要な証拠書類一式を、逮捕状請求書と合わせて裁判所に持参します。

事案によっては数百枚以上の記録になることもありますが、裁判官はこれらの記録を検討して、逮捕状発行の要件を検討します。

逮捕はあくまで捜査手続きの一環であり、検察官の起訴とは別であって、有罪判決を得る見込みまでは必要はありません。

●「捜査機関の人間だから逮捕されない」はありえない

捜査機関の人間であるという理由で逮捕されないということは、ありえないと断言していいと思います。

実際、大阪地検の元検事正が逮捕された例は記憶に新しいところです。

本件の鹿児島県警の幹部は、警視と言ってもまだ20代の若者に過ぎません。警察・検察の内部事情で逮捕を躊躇するような人物像だとは全く想像できません。

都道府県警のキャリア官僚は、確かに全国転勤の警察組織の幹部ではあるものの、個別の事件捜査に関与することは多くなく、日頃、検察官が事件捜査で接することもほぼありません。

まして、キャリア官僚以上に各地を転勤する検察官が他官庁のキャリア官僚に遠慮するようなことは自分の経験からも全くありませんし、考えられません。

すべての刑事事件は、検察庁に送致する必要がある関係上、現職警察官の刑事事件は検察庁に事前協議することが大半で、本件でも事前に鹿児島地検と事件協議をしていると思われます。

逮捕しないという判断についても、地検と事前協議の上で了承済みと思われます。

ただ、警察や検察が捜査過程を外部に開示しないため、捜査機関の関係者が逮捕されにくいという疑念が生じがちであることは分かります

特に性犯罪の場合、被害者のプライバシー事情から事案の詳細が公表されないため、外部からはますますわかりにくくなっています。

確かに、不同意性交という重大犯罪が逮捕されないのはやや奇異に見えてもやむを得ませんが、被害者との示談成立の見込みがあったり、被害者供述の信用性に疑問がある場合には、逮捕に踏み切らない判断も十分あり得ます。

【取材協力弁護士】
荒木 樹(あらき・たつる)弁護士
釧路弁護士会所属。1999年検事任官、東京地検、札幌地検等の勤務を経て、2010年退官。出身地である北海道帯広市で荒木法律事務所を開設し、民事・刑事を問わず、地元の事件を中心に取り扱っている。
事務所名:荒木法律事務所
事務所URL:http://obihiro-law.jimdo.com

鹿児島県警が性的暴行疑いの捜査2課長を書類送検、ネット上で「なぜ逮捕されない?」の声 元検察官の見解は