先日のこと。Twitterを眺めていたら、あるゲームディレクターさんがこんなことをつぶやいていた。

「最近のゲームはボリュームがあるから遊びきれないのではありません。消費要求最低時間があまりに乱暴だから遊べないだけです」

消費要求最低時間? なんだか面白そうな言葉だ。詳しく聞かせてもらうと、つまりこういうことらしい。以下は僕の解釈。

ゲームで遊ぶには「空き時間」が必要。じゃあどれくらいの時間があったらゲームは楽しめるだろう? アクションゲームだったら15分くらい? RPGだったら、セーブして終わるまでに最低30分くらいは欲しい。長くなればなるほど、気合いを入れて時間を捻出しないと遊べないということになる。「遊びきれないゲーム」の多くは、これが長すぎるのが問題なのだ――。

なるほど、言われてみればそのとおりかもしれない。で、そのときふっと思いだしたのが、いま大ブーム中の「おさわり探偵 なめこ栽培キットのことだった。

なめこ栽培キット」は、ビーワークスがiPhone / Android向けに配信している、なめこ育成ゲーム。ノーマルの「なめこ栽培キット」と、冬バージョンにあたる「なめこ栽培キットSeasons:雪」の2種類があって、どちらも無料。なぜか女子高生の間で大人気となり、12月末までで累計ダウンロード数は330万に達したという。もともとは「おさわり探偵 小沢里奈」というゲームのスピンオフだったのだが、今では本家をさしおいて「なめこぱらだいす」という公式ポータルサイトまで作られてしまった。

遊び方は簡単だ。なめこは原木に「なめこフード」をふりかけ、しばらく待っているとニョキニョキ生えてくる。と言っても、生えるまでじーっと見ていてもヒマなだけなので、なめこのことは一旦忘れてアプリを中断してしまおう。
で、忘れたころに(30分くらい?)もう一度アプリを立ち上げてみる。するとさっきの原木に、みっしりとなめこたちが繁っているはず。さっそくタッチしてなめこを収穫しよう。もぎゅっ、と伸びたなめこスポンッ! と抜け、収穫ボックスへ飛び込んでいく。まとめて指でなぞると、モモモモモモギュッ、スポポポポポポンッ! って感じになって気持ちいい。収穫したなめこはお金に変換され、設備をグレードアップするのに使ったりできる。たったこれだけのゲーム。

収穫するときの「モギュッ、スポンッ!」の気持ちよさ。「白なめこ」や「長なめこ」など、ときおり生える「レアなめこ」の収集要素。うつろな目でこちらを見つめる、なめこたちのかわいらしさ――。
たしかにウケそうな要素はたくさんある。難しい操作やテクニックがいらないのも、女子高生には好まれそうだ。

だけどそれ以上に「すげえ!」と思ったことがあった。ここでようやく、さっきの「消費要求最低時間」のハナシにつながるのである。このアプリ、消費要求最低時間がものすっっっっっっごく短いのだ。

普段の僕のプレイ内容を、時系列で書き出してみた。

1:アプリを立ち上げる(1秒)
2:なめこを収穫(3秒)
3:新しいなめこフードを補充する(3秒)
4:終了(1秒)

たったこれだけ。立ち上げから終了までたったの8秒! 8秒あれば遊べちゃうゲーム。これはもう早いなんてもんじゃない。ソーシャルゲームが「消費要求最低時間を短くする」ことで、今までのゲームを遊びきれなかったユーザーを獲得してきたのだとしたら、なめこはその究極型だ。ぜひ「消費要求最低時間の短いゲーム」部門でギネス・ワールド・レコーズに申請してみてほしい。

1回8秒の快感。それが終わってしまっても、なめこフードを補充しておけば30分後にまた同じ快感がやってくる。待つことが楽しい。小さな誕生日が、1日のうちに何度もやってくるような感覚。ある人は「鼻の角栓抜くときの快感に似ている」と言っていた。溜めて溜めて一気に引き抜いた方が気持ちいいあたりも含めると、そっちの方が感触としては近いかもしれない。30分おきにどっさり角栓が抜ける気持ち良さを想像すれば、このアプリの楽しさがなんとなく伝わるはずだ。
かくいう僕も、最近はすっかり積みゲーが増えつつあるにもかかわらず、なめこだけは毎日のように立ち上げて遊んでいる。コアなゲーマーから見ればとるに足らないレベルの快感かもしれない。でも、日常にささやかな楽しみをプラスしてくれたこのアプリを、僕はもっと高く評価してもいいと思う。

――と、ここまで書いてレビューを終わろうとしたら、エキレビ! ライターの米光一成さんから「『ゆけ!勇者』も10秒で遊べるよ!」というメッセージが飛んできた(米光さんの「ゆけ!勇者」レビューはこちら)。

なにー! 思わぬところで「なめこ栽培キット」VS.「ゆけ!勇者」のバトル勃発。そうだった、「ゆけ!勇者」も勇者を送り出したらあとは待つだけのアプリ。ならば実際に測ってみるしかない、と久々に「ゆけ!勇者」を立ち上げてみる。クエスト出発を選んで、武器防具を装備、ダンジョンを選んで、「ゆけ!」。うおお、たしかに10秒で遊べる! でもあんまり深く考えないで出発させちゃったから、ちゃんと遊ぶならシンキングタイムがあと10秒くらいは欲しい。その点、ノーシンキングで収穫するだけのなめこは早い。

そんなことを考えながら「ゆけ!勇者」レビューを読み返してみたら、米光さんも「何しろ1回のプレイで、自分がやるのは、えーと、30秒ぐらい」って書いてた。ほらやっぱりー!(笑) わははは、墓穴を掘ったな、ということで今回はなめこの判定勝ち!(ってことにしちゃう)

そんなわけで、「ゆけ!勇者」よりもさらに短時間で遊べちゃう「なめこ栽培キット」、最近積みゲーが増えがちな諸兄姉にぜひオススメしたい一本です。
んふんふ(「ゆけ!勇者」もおもしろいよ)。
(池谷勇人)

みっしりと生えたら刈り入れどき。収穫し終えたら、なめこフードをふりかけてまた生えるのを待とう。1回のプレイはたったの8秒! (C)2011 Beeworks / SUCCES