読売テレビの報道(3月7日)によると、大阪府高槻市の路上で、男性が突然背後から跳び蹴りを受け、転倒している間に鞄を奪われる事件が発生しました。その後、被疑者は親族に付き添われて警察署に出頭したとのことです。

強盗致傷罪が成立すると思われる本件ですが、警察署に出頭したことで「自首」は成立するのでしょうか。簡単に解説してみます。

●強盗致傷罪が成立すると思われる

逮捕容疑は強盗致傷罪(刑法240条、236条1項。無期又は6年以上の懲役)のようです。

強盗罪は「暴行または脅迫」を用いて財物を奪う罪ですが、この暴行にあたるというためには「相手方の反抗を抑圧するに足りる程度」である必要があります。

簡単にいえば、相手を抵抗できなくするほどのかなり強い暴行である必要があります。

報道された防犯カメラの映像を見たところ、蹴りは一発だけですが、加害者は被害男性の背後から数メートルダッシュして近づき、加害者の足が無防備な被害者の首の後ろ付近に直撃しています。被害者は吹き飛んで転倒し、動けなくなっているようです。

地面もアスファルトのように見えますし、蹴りの威力や転倒の仕方から、大怪我を負う危険性が高い危険な行為と思われます。

実際に、被害者は頭や腰の骨を折る全治一カ月の大怪我を負っているとのことです。

これらの事情を考慮すれば、今回のケースでは、加害者の跳び蹴りは、反抗を抑圧するに足りるといえるでしょう。

なお、加害者はいったんその場を立ち去っているように見えますが、1分40秒ほどで戻ってきて動けない被害者から鞄を奪っているようですので、強盗罪の成否には影響ないと考えられます。

以上より、強盗致傷罪が成立しそうです。

●強盗殺人未遂罪の成立は難しい

ネット上では、映像の悪質さから「強盗殺人未遂罪にするべき」という声も多いようです。

しかし、強盗殺人未遂罪に問うためには、殺意が必要になります。

ここはややこしいところです。 たしかに、殺意がなく死亡結果を発生させた場合にも、強盗致死罪は成立します。 しかし、殺意がない場合で、死亡結果が発生していないと結局強盗致傷罪になってしまいます。

つまり、強盗殺人未遂罪が成立する場合というのは、「殺意があって強盗を行ったが、死亡結果が発生しなかった」場合となります。

今回のケースで、加害者に殺意まで認めることは難しいと思われます。

●自首が成立する可能性

報道によると、親族とともに容疑者が警察署に出頭してきた、とのことです。

警察はこの容疑者の認否を明らかにしていないようですが、もしこの容疑者が実際に犯人であって、犯行を認めて出頭してきた場合、「自首」(刑法42条)が成立すると思われます。

「自首」とは、犯罪事実または犯人が捜査機関に発覚する前に、犯人自ら捜査機関に対して犯罪事実を申告し、その処分に服するという意思を表示することです。

たとえば、犯人がまだ見つかっていない段階で、「犯人は私です。処分してください」と捜査機関に申告すれば、自首が成立し、裁判所は「刑を減軽することができる」とされています(刑法42条1項)。

●自首の効果

自首減軽、というのは、刑法上は「法律上の減軽」とされています。これが認められると、「刑が半分になる」とイメージするとわかりやすいと思います。

たとえば強盗致傷罪であれば、本来は短期6年以上の懲役であるところ、「3年以上の懲役」まで減軽できることになります。(刑法68条参照)

「懲役3年」であれば執行猶予がつけられるため(刑法25条1項)、この減軽が認められることは非常に大きいです。(もちろん、自首が認められれば必ず懲役3年になるわけではありませんし、執行猶予がつくわけでもありません。)

●自首が認められなくても、出頭することには大きな意味がある

ただし、捜査機関がすでに犯人を特定していたのであれば、自首は成立しません。

また、自首が成立したとしても、刑を減軽することが「できる」だけなので、必ず減軽されるというわけでもありません。

この場合、出頭しても罪は軽くならない?とも思えますが、そんなことはありません。

自ら出頭したという事情は、情状の一事情としては考慮されます。少なくとも量刑上は有利に働くでしょう。ただし自首減軽が認められなければ、(他の減軽事由もなければ)短期でも6年以上の懲役になります。

映像をみる限り、かなり悪質な攻撃に思えるため、「罪が軽くなるのは納得できない」という方もいらっしゃるでしょうが、犯人が自ら出頭したことで、犯罪の全容が明らかになったり、少しでも犯人からの謝罪や被害の賠償が進んだりすることも期待できます。 (弁護士ドットコムニュース編集部・弁護士/小倉匡洋)

背後から跳び蹴り、強盗致傷事件で警察署に出頭 「自首」とはどう違う?