読みたい本があっても、忙しくて読む時間がない人はどうすればいいのか。年間3000冊以上を読破する企業コンサルタントの渡邊康弘さんは「カリフォルニア大学の研究によれば、コンピューターの一画面に注意している時間は平均47秒しかない。この短い集中力を駆使して本の内容を理解する読書法がある」という――。

※本稿は、渡邊康弘『没入読書』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。

■「昔は読めたのに」と嘆く現代人の実態

「昔は読めていたのに、働きはじめて読めなくなった」

学生時代には本を読めたけれど、働きはじめて本が読めなくなったという人も多いと聞きます。

三宅香帆さんの『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』という本もベストセラーとなり、いかにそう考えている人が多いのかがわかります。

この本での著者の主張は、「週5日ほぼ出社して、残りの時間を生活や人間関係にさいていたら、本を読む時間がないというのは当然。本を読む余裕のない社会っておかしくない?」ということ。

たしかに一理ありますよね。解決方法として、「自分と趣味の合う読書アカウントをSNSでフォローする」「iPadを買う」「帰宅途中のカフェ読書を習慣にする」「書店へ行く」「いままで読まなかったジャンルに手を出す」などが上がっていました。

ですが……仕事をしていて本を読む余裕が本当にないのだとしたら、こちらだけでは解決しないという人もいるかもしれません。

■デジタル社会が奪った私たちの集中力

私なりに「なぜ働きはじめると本が読めなくなるのか?」を考えると、生活や人間関係に時間がさかれるだけでなく、「集中」が原因のひとつではと思案しています。

事実、私たちの集中時間はますます短くなる一方。

アメリカのカリフォルニア大学アーバイン校の総長特任教授グロリア・マークによれば、コンピューターの一画面に注意している時間は2004年に平均150秒でした。それが、2012年には75秒となり、さらに2016~2021年は、44秒~50秒(平均すると47秒)とどんどん短くなっています。

それに加え、ひとつの仕事領域に集中できる平均持続時間も10分29秒となっています。

社会に出ると、私たちは意識を切り替えることが多くなります。電話、メール、メッセンジャーなどのコミュニケーションツール、SNS、ウェブ検索、会議、同僚との会話、書類作成……意識を切り替えざるを得ないことが年々増えてきています。

■だから「働きはじめると本が読めなくなる」

この意識の切り替えで、元の作業に戻るまで平均25分26秒の時間がかかることがわかってきています。

ADHD(注意欠陥多動性障害)を中心に、過去20年間研究してきたアメリカのボストン大学チョバニアン&アヴェディシアン医学部精神医学臨床教授のポール・ハマーネスは、デジタル社会の情報過多による刺激は、脳に注意散漫をもたらし、集中力不足をもたらしていると述べています。

また、睡眠時間も集中力に大きな影響を与えています。総務省が5年ごとに実施している「社会生活基本調査」によれば、調査が開始された1976年の平均睡眠時間は、男性8時間15分、女性7時間56分。2016年は男性7時間45分、女性7時間35分。

40年間で、男性は30分、女性は21分、睡眠時間が減少しているのです。

このように年々、私たち現代人の集中力は落ちています。

これらが、私の考える「働きはじめると本を読めなくなる理由」です。

■「本を読んだ」とはどういう状態なのか

そもそもあなたにとって、本を読むとはどんなことでしょうか?

「はじめのページの一行目の1文字目から始め、直線的に一字一句精確に、最終ページの最終行まで読んでいくもの」と、答える人も多いかもしれません。

たしかに、読むというのは「文字を見て、その意味や内容を考える」行為なので、これは間違いではありません。

それでは、「本を読んだ状態」とはどのような状態を指しますか?

「著者の意見を理解して、内容を誰かに伝えられる」
「ストーリーを簡潔に要約して話すことができる」
「本の中から、日常生活に活かすためのヒントが得られている」
「悩んでいることを本から学び、その答えを知る」

このようにさまざまな答えが返ってきます。

統一された答えではない理由は、私たちが小学生の頃に文字の読み方や音の出し方、文字の意味、文章の読み方は習ったものの、その後も、本とどのように付き合っていいのかは習ってこなかったから。

最近ようやく「学習指導要領改訂」にて、「生涯にわたって読書に親しみ自己を向上させる」ことや、「本にはさまざまな立場や考え方が書かれていることを知り、自分の考えを広げたり深めたりする」ということが記載されるようになりました。

■まずは「47秒」から本と向き合ってみる

私にとって読書とは、「心に響く一文に出合えるかどうか」です。

「この本を読めてよかった」というのは、心に響く一文によって生まれます。

その一文に出合えば、もうほとんど読んだ状態になる本もあります。そこから、この本を深めたい、もっと内容を知りたいと時間を費やしていきます。

そのためにも、大事なのは、いまよりも少しだけ本とのかかわりを増やすこと。

スマホやディスプレイの画面への集中力でさえも、約47秒しかもちません。まずは、この47秒間から本と付き合いはじめましょう。47秒間とは、ゆったりとした呼吸「5秒間で口から息を吐き、5秒間で鼻から吸う」を5回したくらいの時間。

①ゆったりとした呼吸を繰り返す
②①をしながら、本をパラパラとして、好きなところをパカッと開く
③47秒間で、開いたページの目に飛び込んだ文章から読みはじめる

本との付き合いをこの47秒で始め、次は本を読むことは楽しいと体感させましょう。

■スマホ時代だからこそ必要な読書法とは

スマホが本格的に普及しはじめる2010年頃まで、会社や家族、友だちなどのコミュニティと私たちはまだ切り離されていました。

よくも悪くもスマホの便利なアプリが、常に会社や家族、友だちなどのコミュニティに接続されている状態を作り出し、私たちの集中力を削っているのです。だからといって、「スマホを切りましょう」「スマホを捨てましょう」では本末転倒

こういう時代だからこその読書法があります。

そのカギは、ひとつの仕事領域に集中できる「10分29秒」という仕事への平均持続時間。この「10分29秒」の間に、本を読むことは楽しい、本を読むことには「価値」があると、体に覚えさせることです。

そこで、約10分で実践できる「指速読」という方法をご紹介しましょう。

そもそも読書が遅い人というのは、読み返しが頻繁に起きています。読み返しの現象が起きると、読書を静止する回数が多くなって、読むのが遅くなってしまうのです。

反対に、読書が速い人ほど、読み返しや静止時間も少なく、一度に読む量も多いのです。その結果、効率よく本を読むことができます。

■「指速読」で10分間に一冊を読み切る

毎分1000文字を読むことができれば、読書スピードは全体の上位5%に入れるといいます。平均的な本が一行40文字と考えると、毎分25行進んでいきます。

一冊の本は、8万字から12万字で作られていることが多いので、80分~120分ぐらいで読める人は読書が得意といってよさそうです。

それでは、この読書が得意な上位5%に入るには何をしたらいいでしょうか?

その答えは、「指」という視線を導く「ガイド」を使うことです。

ガイドを使うと、無駄なく、スムーズに目を動かしやすくなります。私たちの目は、古代から「動き」を追うようにできているからです。

まずは、人指し指を本の上に置いて本のページを指でただなぞっていきましょう。開いた本に指をあてて、ただスピーディーに動かす。本のページの行の半分ぐらいに、人指し指を置いて、すべらせ、ページをめくっていきます。これだけでも、断片的に情報が入ってきます。

縦書き本なら、左手の人指し指で、見開き右ページから左ページへと指を動かし、めくっていきます。横書き本なら、右手の人指し指で、S字を描くように見開き左ページの上から下、右ページの上へと上がって、右ページ下へと動かして、ページをめくっていきます。

■これで上位5%の読書スピードが手に入る

この方法をするときに大事なのは、この速いスピードでどういうキーワードが自分の中に引っかかってくるかということです。

引っかかったキーワードを頭の中で結びつけながら読んでいきます。

この指を使った読書を「指速読」や「エクストリームリーディング」と呼びます。この手法に慣れると、毎秒1ページほどのスピードで本を読むことができます。一般のビジネス書や実用書などは、200ページから250ページほどのものが多いので、200秒から250秒、5分もあれば一冊読むことができます。

図表のように、この指速読には、情報を得たいスピードや気持ちに合わせて、人指し指の動かし方が3つあります。

①指速読――新幹線スピード
先ほどお話ししたように高速に、毎秒1ページほどでページを横切っていくものです。図表の①です。新幹線に乗っているような感覚で、残像をつかんでいきます。このとき大事なのは、目的と目標です。

「なんのために読むのか」「自分のなんの役に立つのか」を頭に残して、そこに引っかかってくるものを追っていきます。

②指速読――普通列車スピード
新幹線の速いスピードより、少しスピードを落として読みたいと思ったら普通列車3種類の「指速読」に乗り換えます。図表の②。普通列車のスピードは、1秒一段落の段落単位で、上下に指を動かしていきます。

■コツは、ざっと見てから「気になる駅」で下車する

③指速読――自転車、徒歩スピード
もっとじっくり、ゆっくり読みたいという場合には、気になる駅で降りて歩いたり、自転車に乗ったりして探索することもできます。

図表の③です。自転車、徒歩スピードは、1秒一行の行単位で、上下に指を動かしていきます。目的に合った自分自身に役立つ内容が見つかったら、ゆっくりと読んでいきます。

おすすめは、一度先に新幹線スピードで、できるだけ速く最初のページから最終ページまでめくってしまうこと。

だいたい5分程度で終わるので、さらに5分をかけて、興味を引かれた内容が書かれた箇所で下車し(新幹線スピードをやめ)、ゆっくりと読んでいくのがおすすめ。

もちろん、これらの指速読は慣れるまで、それなりの訓練が必要になってきます。

また、キーワードをつなげた内容を、あとで論理的かつ理性的に検証することも大事です。

ただ、慣れてしまえば、毎秒1ページのスピードで読めてしまいます。一冊のビジネス書や実用書を、ものの数分から10分少々で読めてしまいます。

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渡邊 康弘(わたなべ・やすひろ)
企業コンサルタント
年間3000冊以上読破する読書家。青山学院大学経済学部卒。幼少期より読書が大の苦手だったが、20歳のときに一冊の本に出合い、本が読めるようになることで人生が激変。ベンチャー企業の立ち上げなどを経験後、独立。その後、最新の脳科学行動経済学、認知心理学をもとにした独自の読書法「レゾナンスリーディング」を生み出す。企業コンサルタントや、読書のコミュニティのオンラインサロン運営、読書イベント、海外著者との交流会を催すなど、読書文化を広げる活動を行っている。著書に『言葉の力を高めると、夢はかなう』『ものの見方が変わるシン・読書術』(ともにサンマーク出版)。翻訳協力に『ビジネスモデルYOU』(翔泳社)、『イルミネート:道を照らせ。』(ビー・エヌ・エヌ新社)がある。レゾナンスリーディングHP https://www.resonancereading.com

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kriangsak Koopattanakij