
―[シリーズ・駅]―
千葉県・房総半島の内陸部を走る、都心からもっとも近いJRのローカル線として知られる久留里線。そのうち久留里―上総亀山の末端区間は、営業係数13580(※100円の運賃収入を得るために1万3580円の経費がかかっている)と大赤字状態。昨年11月には、JR東日本千葉支社が「バス等を中心とした新たな交通体系へのモードチェンジを図ることが必要」と発表。近い将来の廃止は避けられない状況となっていることが明らかに。
久留里線は一度だけ乗車したことがあるが、その時は途中の久留里駅で下車。末端区間には行っていなかったため、この機会に訪れてみることにした。
◆距離は短いが、いろんな景色が楽しめる久留里線
久留里線は木更津―久留里間が1時間にほぼ1本なのに対し、久留里―上総亀山間は1日8.5往復とさらに少ない(※25年3月のダイヤ改正前時点)。しかも、列車は朝と夕方以降に集中しており、日中は1往復しか運行していない。そこで木更津市内のビジネスホテルに泊まり、翌朝の始発列車で木更津から上総亀山へ。
出発してしばらくは住宅地と田畑が混在する郊外の景色が広がり、途中からは沿線に小高い山々が見え、最後はここが山奥かと錯覚するように光景になっていく。全長32.2㎞と距離は短いが、景色が次々と変わるので外を眺めているだけでも飽きない。
◆終点の上総亀山駅は無人駅
木更津から70分ほどで終点の上総亀山駅に着いたが、ここはホーム1面1線の無人駅。しかも、久留里線は全区間Suica未対応で自動改札機もない。列車最前方の運転士にきっぷを渡して降りるが、駅周辺には小規模な集落があるだけ。5分ほど歩くと、紅葉の名所や釣りスポットとして知られる亀山湖があり、湖畔はハイキングコースとしても人気のようだ。
◆ローカル線なのにテロの標的になった駅も…
そんな上総亀山駅の次に向かったのは、隣の上総松丘駅。ここもホームは1面1線だが、かつては2面3線でその痕跡が今も残っている。
ログハウス風の駅舎が目を引くが、旧駅舎は1990年、なんとテロによって全焼。当時、天皇陛下の皇位継承の際に行われる大嘗祭に反対する過激派が時限発火装置を仕掛けたためだ。
目の前には比較的交通量の多い国道410号線が走り、集落もあるので秘境駅ではないが、テロの舞台になった場所とは思えないほどのどか。駅周辺にこれといった見所はなかったが、次の列車まで1時間近くあったので付近を散策。まだ朝だったから鳥のさえずりが聞こえ、心地よい気分になれた。
◆平山駅の“焼きそばの名店”はまさかの定休日
続いて訪れた平山駅は、列車でわずか4分。ホームにはボートをそのまま使った花壇が設置されているが、沿線の複数の駅でも同様のものを見かけた。久留里線の隠れた名物なのだろうか? それに駅を出てから気づいたが、駅舎よりも隣にある公衆トイレの建物のほうが大きい。
ちなみに駅前には遠方から食べに訪れる人も多い焼きそばの名店『志保沢商店』があったが、当日は生憎の定休日。しかも、次の列車までは5時間半以上もある。調べたところ、隣の久留里駅までは徒歩で1時間程度だったため、ここからは歩いて行くことに。
◆沿線の中心地・久留里に到着
ただし、久留里駅の周辺は観光名所が多く、駅に向かう途中には戦国時代に房総半島を治めた里見氏の居城、久留里城があり、せっかくなので立ち寄ってみた。
現在の城は復元されたものだが、山城のうえ、道中の坂道は思った以上に勾配がキツい。メタボな筆者には少々ハードだったが、山頂付近からの眺めは抜群だ。
◆名水・銘酒の里で見所も豊富
その後、麓にある久留里神社を参拝し、駅のある市街地へ移動。久留里は古くから名水の里として知られ、現在も至るところに水汲み場があった。クセがなくて飲みやすく、人気があるのもうなずける。それだけで酒造りも盛んで、酒蔵巡りに訪れる観光客も多いそうだ。
以上、廃止が噂される久留里線の末端区間を巡ってみたが、首都圏でありながらここまでローカル線の旅が満喫できる路線は貴重。関東圏に住んでいる方なら日帰り旅も可能。沿線には桜や菜の花が咲き乱れる場所もあるため、これからの季節にはオススメだ。
<TEXT/高島昌俊>
【高島昌俊】
フリーライター。鉄道や飛行機をはじめ、旅モノ全般に広く精通。3度の世界一周経験を持ち、これまで訪問した国は50か国以上。現在は東京と北海道で二拠点生活を送る。
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