数あるタスクをこなしていくために、時間のコントロールは必須です。日々時間に追われながらも億を稼ぐ富裕層は、1人1人時間の使い方を工夫しているものです。「緊急性」と「重要性」を軸にタスクを分類することによって戦略的な時間の使い方を実現しています。本記事では、田中渓氏の著書『億までの人 億からの人 ゴールドマンサックス勤続17年の投資家が明かす「兆人」のマインド』(徳間書店)より一部抜粋・再編集し、富裕層に学ぶ上手な時間の使い方と時間を捻出するコツについて詳しく解説します。

「緊急性が低くて重要性が高いこと」に時間をかける

富裕層は、自分のために使う時間のコントロールも上手です。「戦略的な時間の使い方」を正しく理解して、着実に実践しているからです。「戦略」を時間を含めた有限の資源の分配法と定義するなら、数あるToDoのなかから適切な時間配分をするための優先順位付けをしなければなりません。

緊急性と重要性のマトリックスで整理する方法はよく使われますが、富裕層の思考でToDoを分類すると、こんなふうになります。

まず、「緊急性(低)×重要性(低)」(浪費・過剰の領域)は論外。やらなくていいことです。逆に、クライアントからのクレーム対応や締め切りが迫っている仕事など「緊急性(高)×重要性(高)」(必須の領域)は、直ちにとりかかる必要があるので後回しにはしません。

「緊急性(高)×重要性(低)」(錯覚の領域)がポイントで、急な飲みの誘いや、たいして内容のない同僚からのSNSやチャットアプリの通知への対応など、一見対応に瞬発力が求められるかのように思えるため、錯覚の領域とも呼ばれます。短期的に期限があったりしますし、マインドシェアをとられがちなのですが、この優先順位を下げて時間を削ることがいちばん効果が大きいです。

優先順位が高いものに割く時間を戦略的に増やす

この時間を次の「緊急性(低)×重要性(高)」に振り向けることが非常に大切です。そして、「緊急性(高)×重要性(高)」と同じくらい、もしくはそれ以上に優先する必要があるのは、「緊急性(低)×重要性(高)」(効果性の領域)のタスクです。金融リテラシーを身につける勉強や語学学習、起業に向けた準備、人生を豊かにするためのコツコツした努力の積み重ね、といった中長期的なものです。

仕事の枠を超え、人生のなかで重要性の高いことを見極め、計画を立てて着実に遂行していくことこそ自身の成長や自己実現のためには大事なことです。ここをきちんとコントロールできるようになると、自分自身の成長によりパフォーマンスが向上し、結果として、「緊急性(高)×重要性(高)」の処理が速くなり、さらに時間が捻出できる、などの副次効果もあります。

脳機能を超えて「緊急性(高)×重要性(高)」を行う工夫

Reticular Activating System(脳幹網様体賦活系)という脳機能があります。世の中には五感に訴えかける情報の量が凄まじく、それをすべて受け止めていたら、あっという間に脳がキャパシティオーバーしてしまうため、それを制御するためのフィルターのようなシステムです。このシステムは、自分の興味や関心のある情報だけを無意識に取捨選択し、インプットする能力、ともいえます。

無意識にフィルターで落とされてしまう事柄に対して、このシステムを有効化させるためには、第三者である他人から意識にあげてもらうことと、自分自身がそのことを重要だと脳に刷り込ませること、の2つがあります。だからこそ自分にとっての、緊急性(低)×重要度(高)にあたるものが何なのか、しっかり整理をしたうえで、自分の意識に入るようにしておく必要があります。

また、他者の力を借りるために、共通の目的を持つもの同士でつながったり、SNSアプリのコミュニティ機能を利用したりして、お互いに影響を及ぼし合うことが大切なのです。

「緊急性(低)×重要性(高)」にどれだけ時間を割けるかによって、人生の豊かさが変わってくると思います。

「時間がない」をやめられるコツ

「時間がない」をやめるコツとして、効果を実感しやすいのは次の2つです。

ひとつは、「引越し」です。出社が必要な会社員なら会社の近くに引越してはいかがでしょう。「家賃が高くなる」「生活費の負担が増える」と思うかもしれませんが、お金で買えない時間を確保する方法としては効果が大きく、重要ではないでしょうか。

通勤に片道1時間かかる場合、その時間を有意義に使うことができればそれもいいかもしれません。2時間×週5日×年間52週間=520時間という莫大な時間を捻出できるからです。ただ電車のダイヤや天候に左右されマインドシェアをとられたり、乗り換えなどの手間暇を考えたりすると、意外と有効に使えていないものです。

もしその年間520時間の通勤時間を漫然とネットサーフィンをしていたりマンガやゲームをしていたりするだけなら、引越しすることで自分の時間をつくり出すことができるはずです。2年で1,000時間以上の時間になるので、それなりの難易度の資格試験をとるにも、新しい分野の勉強や技術習得をするにも十分な時間です。

月額10万円家賃がアップして年間120万円の家計負担になったとしても、その時間を学習に充てると決めて実行できれば、年収を120万円以上アップさせることはそんなに難しいことだとは思いません。

「交友関係の見極め」で時間を捻出する

もうひとつは、「どこまで付き合いに乗るかを線引きする」ということです。僕自身は「飲みに行っても一次会で帰る」と決めていますが、このルールを自分のなかで決める前は、誘われれば何次会まででも参加していました。最後まで残るのがマナーであり、美徳だとすら思っていました。

20代はそれもありだったかもしれません。どんなときでも必ず付き合うことで得られる信頼、人脈があることも否定はしません。ですが、飲みに行くたびに壊れたレコードのように、結局いつものメンバーでいつも同じ話をするだけのルーティン飲みは、それが一時的に楽しかった、という感情以外に有意義だったと感じられなければ時間とお金と体力を無駄に使っているだけのイベントです。

そこで、一次会で帰るようにしたところ、そのことで責められることもなければ、失うものも何ひとつありませんでした。そもそも僕の場合、どんなに遅くまで飲んでいたとしても朝は3:45に起床すると決めているので、一次会だけで帰宅するほうが翌朝も体が楽、ということもあります。

とにかく今まで二次会以降の付き合いに費やしてきた時間をすべて自分のために使えることになったのは、大きな収穫でした。「時間がない」をやめるなら、何かひとつ時間を捻出するための決めごとをつくるのもいいかもしれません。

田中 渓 投資家

(※写真はイメージです/PIXTA)