
人当たりがよく善良な人物に見えても、その本性は真逆だったということもあるようだが、仮に上司がそんな人物だった場合、部下はどう立ち振る舞えばよいものか……。
長井宏明さん(仮名・38歳)は、以前IT系のベンチャー企業に勤めていた際、腹黒い上司に遭遇したことがあるという。
◆まっさらな状態での新規プロジェクトで試行錯誤
「新しく立ち上げたサービスを拡販するプロジェクトに参加した時のことです。社長の肝煎りで始まったサービスだったのでプレッシャーがきついし、社内にノウハウがない業界へ向けたサービスだったため、かなり苦しい思いをしていました」
プロジェクトを管理していたマネージャーは、大手企業から転職してきて日が浅い人物だった。
「部下を詰めるタイプの人間ではなく、親身に話を聞いてくれるタイプだったので、当初は良い上司にあたったと思っていました。ただ、新規開拓の経験は乏しく、成果につながるマネジメントをしてくれるわけではありませんでした。それでも愚痴を聞いてくれたり、フレキシブルな働き方を認めてくれたりして助かっていたんです」
成果を出すために、長井さんら営業部隊は試行錯誤を繰り返すことになった。
「日夜、他のメンバーと夜遅くまで頭を絞ってどうやったら拡販できるか、営業手法を考えました。そうして少しずつ成果が出るようになり、1年半ほどかかって蓄積したノウハウをもとに外部へのアライアンスを展開したところ、大きな成果が出るようになったんです」
◆“A評価”を期待していたのに、まさかの…
成果が出るようになったことは、社長も素直によろこんでくれたという。
「これまで社長に褒められたことがなかったんですが、この時ばかりは手放しで絶賛してくれて。打ち上げもものすごく盛り上がりました」
だが、その後、想像していたのとは異なる事態に……。
「その年の評価はどう考えても納得いかないものだったんです。簡単に言えば、5段階で一番良い評価がAだとして、間違いなくAを取れるものと思っていたのに、B評価だったんです。自分だけではなく、そのプロジェクトのメンバーのほとんどがBかCで、数人だけAという評価でした。評価されたメンバーと自分の成果に差があるわけでもなく、自分よりも成果が出ていないのに、A評価されている例もあり、納得がいかないものでした」
高い評価を受けた人物の中には意外な人物も含まれていた。
「マネージャーがプロジェクトの成功を評価され、取締役に就任するとの話が聞こえて来たんです。驚きましたよ。成果を出すために努力したのは自分たちです。自分たちを含めて全員が評価されるのならまだわかりますが、数人だけが評価され、しかもマネージャーが一番良い評価をされるというのはどう考えてもおかしいと思いました」
◆不満を持った社員が役員を直撃したら…
なかには長井さん以上に不満を持つメンバーもいた。
「相当溜め込んでいたようで、いつもは不満を口にしないメンバーが、いきなり役員に退職を申し出たんです。その同僚が自分たちで手法を編み出して成果を出したのに評価されないのはおかしいと話したところ、役員に驚かれたそうでした」
役員が驚いたのは、上層部で共有されていた話と違っていたからだった。
「それで、自分たちが評価されなかった理由が判明したんです。マネージャーは自分と数人の営業メンバーで営業手法を考案して他のメンバーに展開したと社長に話していたんです。そのメンバーというのもすぐに不満を口にするタイプだったので、文句を言われないための人選だったようでした。それがマネージャーを含めた数人のメンバーだけが評価された理由だったんです」
手柄を横取りしたマネージャーの悪事は社長の耳にも入ることになった。
「社長は派手にブチギレたらしく、マネージャーは評価を大きく下げることになりました。営業部付けの部下のいないマネージャーになり、事実上の降格扱いでした。社内の誰もが手柄の横取りを知っている状態になって、相当に居づらかったようで、その後マネージャーは退職していきました」
同僚が退職を言い出さなければマネージャーはのうのうと昇進していたかと思うと、いまだに怒りが湧いてくるという。
<TEXT/和泉太郎>
【和泉太郎】
込み入った話や怖い体験談を収集しているサラリーマンライター。趣味はドキュメンタリー番組を観ることと仏像フィギュア集め

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