夫との喧嘩がきっかけで、義実家から暴言を吐かれているという女性から、弁護士ドットコムに相談が寄せられています。

女性によると、夫の母が亡くなり、遠く離れた地方にある夫の実家に葬儀のため帰省するかどうかでもめたといいます。夫は女性と一緒に帰省したいと言いましたが、乳幼児の子どもがいるため、女性は断りました。

結局、夫は一人で帰省しましたが、電話で再び口論となり、売り言葉に買い言葉で夫が「俺なんてもういらないね」と言ったそうです。離れている夫を心配した女性は夫の実家近くの警察署に電話しました。

女性か警察署からの指示に従い、葬儀がおこなわれている斎場に電話して安否確認をしたところ、タイミングが悪く、読経中だったとのことです。

夫の無事を確認できて、夫とも仲直りできた女性ですが、女性が葬儀に参列しなかったことや、女性が葬儀の「邪魔」をしたことに怒った夫の親族が、LINEで暴言を吐くようになったといいます。親族は、女性に対し、「刑法188条第2項で訴える!」とまで言ってきたそうです。

女性は、葬儀中の電話によって罪に問われてしまうのか悩んでいるそうです。女性は本当に罪に問われてしまうのでしょうか。寺林智栄弁護士に聞きました。

●女性が訴えると言われた「説教等妨害罪」とは?

——そもそも「刑法188条2項」とはどのような罪なのでしょうか。

刑法188条2項は説教等妨害罪と呼ばれているもので、説教・礼拝・葬式を妨害した者を1年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金に処する内容となっています。

過去の判例として残っているのは、とても古いもので、葬式妨害罪が1件、礼拝妨害罪が1件あります。

葬式妨害罪の例は、境界線を越えて墓穴を埋めた行為について該当性が肯定されたものです。また、礼拝妨害罪の例は、仏壇に置かれた法名を持ち去った行為の該当性が肯定されました。

説教(僧侶による読経など)妨害罪については、判例上記録が残っているものは、私が調べた限りはありませんでした。

●女性が罪に問われることはない

——では、女性が刑法188条第2項に問われる可能性はないということですね。

ありません。

先の葬式妨害罪や礼拝妨害罪の例は有形力が行使されたケースです。これを見てもわかるとおり、故意を持って、ある程度の有形力が行使されたり、威迫や脅迫、詐欺的な行為がなければ、188条2項で処罰されることはないでしょう。

相談者は、警察からの指示で夫に電話したところ、たまたま読経中だったというだけで、犯罪を行う故意もなければ、有形力の行使も威迫・脅迫・詐欺的な行為もありません。

188条2項の該当性は全くないといえます。

●女性が夫の親族に慰謝料請求できる

——女性について、犯罪者であるかのように暴言を送ってくる夫の親族に対し、女性は慰謝料請求することは可能でしょうか。

可能です。

犯罪者扱いをして、告訴・告発をするかのように告知することは脅迫に該当します。脅迫行為に基づいて精神的苦痛を被っているのですから、不法行為(民法709条)に基づく慰謝料請求が可能です。

ただ、他の暴言内容や暴言を吐かれた回数によっては、慰謝料の金額は低額であると考えられます。

葬儀は親戚にとっては、故人とお別れする特別な場であるため、電話でその雰囲気を妨害されたような気になってしまったのかもしれませんが、夫婦の関係に任せるべき問題に立ち入って、暴言を吐くのは感心しません。

親族が相手だと慰謝料請求するのもはばかられることがあるかもしれませんが、場合によっては弁護士などに相談して、これ以上の暴言を止めるような措置を検討した方が良いかもしれません。

【取材協力弁護士】
寺林 智栄(てらばやしともえ)弁護士
2007年弁護士登録。札幌弁護士会所属。法テラス愛知法律事務所、法テラス東京法律事務所、琥珀法律事務所(東京都渋谷区恵比寿)、ともえ法律事務所(東京都中央区日本橋箱崎町)、弁護士法人北千住パブリック法律事務所(東京都足立区千住)を経て、2022年11月より、NTS総合弁護士法人札幌事務所。離婚事件、相続事件などを得意としています。
事務所名:NTS総合弁護士法人札幌事務所
事務所URL:http://nts-law.jp

義母の葬儀中に電話したら「説教等妨害罪だ!」 義実家から「犯罪者扱い」された女性は反撃できる?