
「スーツ姿の男性が、抱っこひもで赤ちゃんを前に抱えながら、クロスバイクに乗っていた」——こんな目撃情報が、弁護士ドットコムニュース編集部に寄せられました。
目撃者は、自転車で神奈川県内の交通量の多い道路の交差点にさしかかったところでした。赤信号に変わるところだったので、目撃者が停車したところ、その男性は子どもを抱えたままで後ろから目撃者を追い抜き、そのまま信号を突っ切って爆走していたといいます。
抱っこひもで抱えられた赤ちゃんは当然のことながら、ヘルメットもしておらず、目撃した男性は「男性はヘルメットをかぶっているのに、赤ちゃんは無防備だったので、あんなにスピードを出して大丈夫なのか心配になりました」と話します。
「クロスバイク」はスポーツタイプの自転車の一種です。ママチャリやシティサイクルよりずっとスピードが出ます。危険では?と思えますが、道路交通法上問題はないのでしょうか。
●抱っこひもでおんぶは適法だが、抱っこは違法自転車の二人乗りに関する規定として、道路交通法57条2項は、「公安委員会は、道路における危険を防止し、その他交通の安全を図るため必要があると認めるときは、軽車両の乗車人員又は積載重量等の制限について定めることができる。」としています。
この「公安委員会‥が定め」るものとして、各都道府県の「公安委員会規則」があります。
都道府県による差はありますが、たとえば東京都公安委員会規則では、
・原則として、運転者以外の者を乗車させない(同規則10条⑴ア)
・16歳以上の運転者が幼児(6歳未満の者をいう。)1人を子守バンド等で確実に背負つている場合の当該幼児は、‥中略‥当該16歳以上の運転者の一部とみなす(同規則10条⑴ウ)。
としています。 (幼児用座席を用いる場合も規定されていますが、本稿と関係が薄いので省略します)
簡単にいえば、16歳以上の運転者が、6歳未満の幼児を「子守バンド等で」「確実に」「背負って」いる場合には適法、ということになります。
つまり、「抱っこひもで確実におんぶしている場合には適法」ですが、「抱っこひもで抱っこするのは違法」となります。
違法となる場合、2万円以下の罰金または科料となります(道交法121条2項1号)。
●抱っこひもでの自転車運転は絶対にやめるべき子どもの世話をしなければならない事情はあるのでしょうが、このような乗り方は非常に危険です。
仮に事故を起こさなくても、不安定な状態で子どもが揺らされることにより、脳などに傷害を負う可能性があります(※これを示唆する裁判例としては大阪地判令和2年12月4日など)。
また、仮に事故を起こした場合、違法で不安定な状態で自転車に乗っていたことは、過失の認定にあたり不利に働くでしょう。
くれぐれもこういった運転を行わないように注意しましょう。

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