
年金受取額は毎年改定となり、4月からは引き上げとなります。しかし物価高を超える増額とはならず、実質減額。年金が頼りという高齢者の生活は厳しさを増しています。
夫を亡くした妻。保護猫2匹との生活
健康のために毎日7,000歩ほど歩くのが日課だという藤田幸子さん(仮名・77歳)。休憩のためベンチに座りながら、自宅で握ってきたおにぎりをほおばります。
――具!? 何も入れていないわよ、もったいない(笑)
朝5時に起床。毎日10~14時は近所を散歩し、途中、公園のベンチで昼食(この日はおにぎり)。17時には夕食をとり、20時には就寝。これが毎日のルーティンだといいます。
――寝るのが早い? 年寄りなんてこんなものよ。起きていても電気代がかかるだけよ
10年前に夫を亡くし、以来、ひとり暮らしの幸子さん。そのようななか、一緒に暮らす猫が2匹。どちらも保護猫であり大切な家族です。「猫たちがいなかったら、私の生活はもっと寂しいものになっていたわ」と幸子さんはいいます。
夫婦のためにとコツコツと貯めてきた貯蓄は、夫の病気の治療で多くを使ってしまい、ほぼ底をついてしまったとか。現在、拠り所となるのは自身の年金月7万5,000円のみ。それで自分と猫2匹の食事をまかなっています。
【65歳以上の単身高齢者の1ヵ月の平均支出】
■消費支出…15万4,601円
(内訳)
食料:4万2,973円
住居:1万3,677円
光熱・水道:1万4,528円
家具・家事用品:6,735円
被服及び履物:3,656円
交通・通信:1万5,984円
教育:12円
教養娯楽:1万6,311円
その他の消費支出:3万1,624円
出所:総務省『家計調査 家計収支編(2024年平均)』
家計はしっかり家計簿で管理しているという幸子さん。食費をみていくと、1ヵ月5,000円ほど。1日150円ほどになるよう抑えているといいます。対して猫の餌代は月8,000円ほど。
――猫より劣っているのね、私の生活(笑)
持ち家のため毎月の家賃は発生せず。光熱費・水道費も、日中はできるだけ外で過ごすようにして、極力節約をしています。節約に節約を重ねて、年金だけで生活できるよう工夫をしています。
明るい見通しゼロ、限界に近づく「高齢者の生活」
来月4月から年金額は老齢基礎年金が満額の場合は月6万9,308円。令和6年度6万8,000円から1,308円プラスとなります。また厚生年金はモデル夫婦で月23万2,784円。令和6年度22万8,372円から4,412円アップとなりました。
【令和7年年金受取額例】
●厚生年金期間中心(20年以上)男性
…17万3,457円(+3,234円)
●国民年金(第1号被保険者)期間中心(20年以上)の男性
●厚生年金期間中心(20年以上)の女性
…13万2,117円(+2,463円)
●国民年金 (第1号被保険者)期間中心(20 年以上)の女性
…6万0,636円(+1,127円)
●国民年金(第3号被保険者期間)中心(20年以上)の女性
出所:厚生労働省ニュースリリース
年金の引き上げは3年連続であるものの、将来の年金の給付水準を確保するための「マクロ経済スライド」により、引き上げ率は賃金の伸びより0.4%低く抑えられ、実質的には目減り。
――年金額が増えると思っていたのに……少し生活が楽になると思っていたけど、そうではないのね
農林水産省の調査によると、3月3日週のコメの平均小売価格は、5キログラム入りが4,077円。10週連続の値上がりで、調査開始以来4,000円を超えました。備蓄米の放出で小売価格の下落が期待されていますが、思うようには下がらないというのが大方の見方です。
――お米の値上がりは痛いわね。3食、ご飯さえ食べられたら生きていける。でも、そのお米が高くなっちゃうとね……
日本銀行『生活意識に関するアンケート調査』の最新となる昨年12月調査によると、「景気がよくなった」から「景気が悪くなった」を引いた景況感D.Iは、マイナス55.9。3ヵ月ごとの調査では、マイナス36.9→マイナス49.8→マイナス48.2→マイナス55.9と推移し、厳しい状況が続いています。特に高齢者は「収入は公的年金だけ」というケースが多く、その年金が実質減額となるわけですから、かなりひっ迫していることは明らかです。
――最近は本当に何もかもが高い。食料品も日用品も。生活費を抑えるのに毎日必死です。1個80円ほどの羊羹。あれが私の唯一の贅沢。以前は毎週食べることができたけど、最近はそれさえも躊躇してしまいます
「もう限界と叫んだところで、誰かが助けてくれるわけではない」とため息をつく幸子さん。できる限りの節約を続けるだけだといいます。
[参考資料]
日本銀行『生活意識に関するアンケート調査(第100回<2024年12月調査>)』

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