
退職金制度のある会社はおよそ7割強。そのうち一時金で受け取れる会社が9割です。つまりサラリーマンの6割強が、定年退職とともに今まで見たこともない大金を受け取れる(可能性がある)というわけです。しかし、世の中に「絶対」ということはありません。
高卒で就職した会社で40年。今は退職金だけが楽しみ
高校を卒業してすぐに地元の中小の食品会社に就職。それから40年間、真面目に一生懸命働いてきたという後藤誠さん(仮名・58歳)。
現在の月収は40万円。年収は550万円ほど。これで家族5人を養うのははっきりいって厳しく、「夫婦共働きだから生活できている」といいます。これまで大変なサラリーマン人生だったものの、最近は、定年後のセカンドライフを夢見て、毎日仕事にも精を出していました。
――うちの会社は60歳で定年ですが勤務延長制度があって70歳まで働くことができます。ただ60歳で退職金を受け取ることができ、今はそれが働くうえでの原動力になっています
退職金の算出方法は成果報酬型やポイント制退職金制度などがあり、また支給方法には退職一時金制度と企業年金制度があり、会社によってさまざま。厚生労働省『令和5年就労条件総合調査』によると、退職給付(一時金・年金)制度がある企業は全体の74.9%。そのうち退職一時金制度のみが69.0%、退職年金制度のみが9.6%、両制度併用が21.4%。つまり7割弱の企業で、退職をもってドンっと退職金を受け取ることができるというわけです。
【学歴・企業規模別「サラリーマンの平均定年退職金」】
■大卒
従業員1,000人以上…2,191万円
従業員300~999人…1,662万円
従業員30~99人…1,282万円
■高卒
従業員1,000人以上…2,103万円
従業員300~999人…1,389万円
従業員30~99人…803万円
先輩社員の話から皮算用した退職金は1,400万円ほど。これが高卒以来、40年近くも頑張ってきたサラリーマン人生に対して妥当な額なのかわかりませんが、一度にそのような大金を手にする機会なんてそうあるわけがないので、本当に楽しみにしていたといいます。
ある朝、出社して覚えた違和感。部長のひとりが血相を変えてやってきて…
しかし、退職金制度があったからといって、絶対に保証されたものではありません。後藤さんにも、そんな悲劇が降りかかります。
その朝、後藤さんはいつも通り出勤しましたが、会社の雰囲気は明らかに異なっていました。いつもの活気はなく、社員たちはみな、どこか落ち着かない様子でひそひそと何かを話していました。後藤さんが自分のデスクに着くと、隣の席の同僚が「後藤さん、何か変ですよね』と声をかけてきます。そして普段は顔を見せる経営陣の姿が見当たらないことに気づいたといいます。
――一体、何が起こっているんだ?
そのとき部長のひとりが慌ただしく駆け寄り、「みんな集まってくれ!」と声をかけます。部長は、会議室に社員たちを集め、震える声で「会社は、資金繰りが限界に達した。申し訳ないが、今日をもって……」。言葉を続けることができず、部長は顔を覆ったといいます。そしてその日の午後、会社は突然、弁護士を伴い、倒産手続きに入ったことを発表しました。社員たちは、突然の事態に言葉を失い、なかには泣き出すものも。後藤さんは「現実味がなくて……」とただ呆然。退職金1,400万円は一体どうなるのか。「人生、もう終わった」と絶望感に打ちひしがれていました。
勤め先が倒産した場合、賃金や退職金がゼロになる、というわけではありません。賃金・退職金を含む勤め先が負うすべての債務の弁済は、それぞれの法律に定められたそれぞれの債権の優先順位や手続きに従って行われます。また法律上の倒産手続きにおいては、賃金等の労働債権については、一定の範囲について優先権が与えられています。ただし、会社等に残された財産の状況によっては、賃金の支払いが遅れたり、カットされたりする可能性もあります。ちなみに中小企業退職金共済制度を利用している場合は、会社が倒産しても退職金の支払いに影響はありません。
また倒産した会社から退職金を受け取れない場合に救済を求めることもできる未払賃金立替払制度も。この制度は全国の労働基準監督署、および独立行政法人労働者健康安全機構で実施するもので、労働者が請求することによって、初めて立替払いが行えます。ただし、利用には一定の条件があり、全員が対象となるわけではありません。まずは労働基準監督署や弁護士などの専門家に相談し、自身の状況を確認する必要があります。
勤めている会社が倒産……そんなこと、起きるわけがないと考えがちですが、昨年1年間で約1万件もの倒産がありました。決して他人事ではありません。万一の場合に備えて、退職金に頼らない資産運用が必須といえるでしょう。
[参考資料]

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