もうコアな「アメ車ファン」を追いかけるブランドじゃない! キャデラックの「右ハン+BEV」は日本での勝機が見える戦略だった

この記事をまとめると

キャデラックがBEVである「リリック」の日本導入と販売開始を発表した

リリックは全車が右ハンドル仕様で日本に導入される

キャデラックは「オプティック」と「ヴィスティック」という2台のBEVを日本導入予定だ

キャデラックのEVは右ハンドルで日本導入

 アメリカのGM(ゼネラルモーターズ)の日本法人となるGMジャパンは、2025年3月7日(金)、都内において日本国内におけるBEV(バッテリー電気自動車)の導入計画及び、キャデラックブランド初のBEVとなるキャデラックリリックCADILLAC LYRIQ)を日本初公開し、翌3月8日(土)より販売開始することを発表した。

キャデラック・リリックの右ハンドルを見て感じた高級ブランド車が生き残る道

 リリックは2021年4月22日にアメリカにおいて世界初公開したものの、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響もあり、2023年に正式発売となっている。正式発売直後のタイミングで開催された、2023年9月のデトロイトショー(北米国際自動車ショー)会場にもリリックが展示されていたが、アメリカ自動車産業の中心ともいえるミシガン州デトロイトということもあったのか、多くの地元アメリカ人が展示車を熱心に見ていたことをいまも覚えている。そのリリックがアメリカで正式発売されてから2年ほどして日本市場にも上陸したのである。

 日本初お披露目の会場に展示されていたリリックを見たとき、それが右ハンドルということに驚かされた。ちなみに、ほぼ同じタイミングでオーストラリアニュージーランドなど左側通行で右ハンドル車となる地域でもリリックが発表されたとのことであった。

キャデラック・リリックの右ハンドルを見て感じた高級ブランド車が生き残る道

 発表時に、日本におけるいままでのキャデラックブランドのことをニッチラグジュアリーといったような表現を用いて紹介していた。メルセデスベンツBMWアウディなどが高級輸入車の定番となっているが、それらとは違った高級輸入車に乗りたいという、まさにニッチ(隙間)なニーズに対応するブランドというものだという説明だと筆者は感じ取った。

 現状、日本国内に輸入されているキャデラックのICE(内燃機関)車はすべて左ハンドル車のみとなっている。JAIA(日本自動車輸入組合)統計によると、2024暦年(1月から12月)締めでのキャデラックブランドの日本国内での年間販売台数は449台。左ハンドル車しかなく、そして年間449台という販売台数だけをピックアップすれば、「左ハンドルしかないからその程度しか売れないのだ」ともいいたくなるが、そこが欧州車アメリカ車の大きく異なるところでもあり、アメリカ車においてはいままででは、必ずしも右ハンドル車を増やせば販売台数も増えるということはまずありえないのである。

 コアなアメリカ車ファンは、アメリカ車を単にクルマと捉えるのではなく、そこに自分が憧れるアメリカ文化を体験しようとしてくる。つまり、左ハンドルであってもそれほど抵抗はなく、正規輸入車であってもどこまでアメリカで販売されている同型車との共通部分が失われていないのかにこだわるとも聞いている。日本国内で販売されているキャデラッククロスオーバーSUVとなるXT4は、2リッター直4ターボエンジンとなり、ボディサイズもそれほど大きくないので日本市場でも好まれそうなのだが、コアなファンは「キャデラックなのに直4」というものに抵抗を示したりもするのである。

キャデラック・リリックの右ハンドルを見て感じた高級ブランド車が生き残る道

 コアなアメリカ車ファンは少数であるし、アメリカからアメリカで販売されているアメリカ仕様車を個人輸入して乗るというひとも珍しくない。日本国内仕様のシボレー・コルベットの正規販売車は右ハンドルなのだが、以前に左ハンドルのアメリカ仕様を街なかで見かけたことがある。正規輸入販売されていない、ダッジチャージャーチャレンジャーなど、V8マッスル系モデルも意外なほど街で出会うことができる。

 ジープブランドは唯一無二ともいえるブランドステイタスもあり、そこに注目しアメリカンブランドを意識しないひとも多く乗りたがるので右ハンドルでも違和感を覚えないし、確実にニーズがあるからこそ右ハンドル車となっているものと考えている。

「キャデラック120年の歴史の重さ」は日本では軽い

 ここでリリックに話を戻すと、GMなりの事情はさまざまなものがあるだろうが、あえて日本国内であっても右ハンドル車のみとしたことの意味は大きいものと感じている。

 発表会では「キャデラック120年の歴史」といったことが繰り返し発言された。しかし、大変残念な話なのだが、日本国内ではその「120年の重み」を受け止められる消費者はかなり少数といっていいだろう。しかし、これが日本市場ではBEVの登場とともに幸いしているものと考えている。

キャデラック・リリックの右ハンドルを見て感じた高級ブランド車が生き残る道

 つまり、BEVというものは確かにICE車同様にタイヤ4本を履いた自動車であるが、ICE車とはまったく異なる存在ではないかと筆者は考える。そして、ICE車とは異なり、俗っぽいいい方をすれば油臭さなども感じないので、女性ウケがいいともいわれている。つまり、右ハンドルのBEVということになれば、いままでにない新たなキャデラックユーザーの開拓にはぴったりであり、キャデラックという存在を知らなかった層からは新たなBEVのスタートアップブランドのようなものと思われれば、日本国内においてはキャデラックブランド自体のリボーン生まれ変わり)にもつながるのではないかと考えている。

 発表会では、2026年にさらにリリックよりはコンパクトな「オプティック」とミニエスカレードiQ(エスカレードのBEVがエスカレードiQ)ともいえる「ヴィスティック」という2台のBEVが日本国内に導入予定とも発表している。

キャデラック・リリックの右ハンドルを見て感じた高級ブランド車が生き残る道

 気がつくと、ICE車ではすでにセダンはなくSUVのみとなっているキャデラック。今後はBEVの販売状況次第ではフルサイズアメリカンSUVとなる「エスカレード」だけを残し、BEV専門ブランドとなるかもしれない。

 世界的には日本車のお家芸であるHEV(ハイブリッド車)が脚光を浴びているが、これは量販車を中心としたものとなっている。高級ブランド車に限って見れば日本国内でもBEV普及率は新車販売全体の1割を超えているともいわれている。ヨーロッパやカリフォルニアのように、「すべてをBEVに」というのはまだまだ荒唐無稽に近い話なのかもしれないが、いまもなおラインアップ充実のための新型車開発は積極的に続いているのである。

キャデラック・リリックの右ハンドルを見て感じた高級ブランド車が生き残る道

 日本市場も高級BEVにさらにフォーカスすれば、すでに有望市場になりつつあるのかもしれない。

キャデラック・リリックの右ハンドルを見て感じた高級ブランド車が生き残る道

キャデラック・リリックの右ハンドルを見て感じた高級ブランド車が生き残る道

キャデラック・リリックの右ハンドルを見て感じた高級ブランド車が生き残る道

キャデラック・リリックの右ハンドルを見て感じた高級ブランド車が生き残る道

キャデラック・リリックの右ハンドルを見て感じた高級ブランド車が生き残る道

キャデラック・リリックの右ハンドルを見て感じた高級ブランド車が生き残る道

もうコアな「アメ車ファン」を追いかけるブランドじゃない! キャデラックの「右ハン+BEV」は日本での勝機が見える戦略だった