
北極海の氷の海を1頭のメスのホッキョクグマが9日間も泳ぎ続けた。このクマは687kmを泳ぎ切った後もさらに1,800km移動を続け、最終的に体重の20%を失うこととなった。
なぜこんな過酷な旅をしていたのか?
気候変動の影響で海氷が減少し、狩り場が失われているためだという。この映像は2011年に報じられたものだが、最近SNSで取り上げられ、再び注目を集めている。
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9日間、687kmを泳ぎ続けたホッキョクグマの物語
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このホッキョクグマ(シロクマ)の壮絶な旅は、アメリカ地質調査所(USGS)の科学者たちによる研究によって明らかになったものだ。
さかのぼること2008年、USGSの研究チームはホッキョクグマの行動を詳しく調査するために、対象となる個体に電波発信機付きの首輪を装着し、移動パターンを追跡した。
追跡データを収集していたところ、2011年、北極海の一部、アメリカ・アラスカ州に面したボーフォート海で、メスのホッキョクグマが9日間連続で687kmを泳ぎ続けたことが判明した。
さらに、彼女はその後も新たな氷を求めて1,800km以上の距離を移動し続けたことも分かった。
この研究結果は2011年に正式に発表された。
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なぜホッキョクグマはこんなにも長く泳ぎ続けたのか?
ホッキョクグマは通常、氷の上でアザラシを狩り、食事をし、休む生活を送る。彼らにとって海氷は、ただの足場ではなく、生きるために不可欠な「狩り場」なのだ。
しかし、近年の気候変動、地球温暖化によって海氷が急速に減少している。
そのため、ホッキョクグマは獲物を捕まえるために、次の狩り場を求めて長距離を移動しなければならなくなった。
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かつては氷の上を歩いて移動できたが、現在は氷が途切れてしまい、広大な海を泳ぐ以外に道がない状況になっているのだ。
このホッキョクグマも、新しい狩り場を探すために687kmの遠泳を余儀なくされた。そして、泳ぎ終えた後もさらに1,800km以上移動し、最終的に体重の20%を失ったことも確認された。
長距離を泳ぐ中で食事を取る機会はほとんどなく、蓄えた脂肪を大量に消費したと考えられている。
2025年3月17日、X(旧Twitter)にメスのホッキョクグマが泳いでいる映像が再び投稿されたところ、448万回以上も視聴された。
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「9日間も食べずに泳ぎ続けるなんて…」、「「脂肪の蓄えがあるとはいえ、これは過酷すぎる」などの声が上がった。
さらに、別の投稿では、細かく砕けた流氷の上を慎重に歩いているホッキョクグマを姿が映し出されていた。
また、母グマが氷の下を泳ぎながら、定期的に子グマの呼吸のために氷を割る映像もコメント欄に投稿されていた。
気候変動がホッキョクグマに与える影響
ホッキョクグマのこの過酷な旅は、生存能力の高さを象徴するものではない。気候変動が北極の生態系に与えている深刻な影響を反映したものだ。
USGSの研究では、ホッキョクグマが長距離を泳ぐリスクについても指摘されている。特に、若いクマや体力のない個体は、長距離を泳ぐことによって体力を消耗し、命を落とす可能性が高いという。
研究者たちは、「ホッキョクグマたちは、本来こんなに泳ぐ必要はなかった」と胸を痛めている。
専門家によると、北極の氷は急速に減少しており、ホッキョクグマは獲物を求めて長距離を移動しなければならなくなっている。
2024年の国際研究によると、北極海から氷がなくなる日が、7~20年後に訪れる可能性が高いという。
だがほんの一部のグループではあるが、本来生息できないはずの場所に適応しているホッキョクグマの存在も確認されている。
また、氷が減って獲物が少なくなり、内陸に後退したホッキョクグマが、北上したハイイログマと出会い、交雑種「ピズリー」が、続々と増えているという報告もある。
ホッキョクグマなりの気候変動に対する適応を見せているようだが、このまま絶滅するなんてことがないことを祈りたい。

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