
横浜市の法律事務所で働いていた女性事務員(40代)が、上司にあたる男性弁護士(80代)からげんこつで殴られるなどのパワハラやセクハラを受け、事務所を解雇されたのは不当だとして、男性弁護士らに地位確認と損害賠償をもとめていた訴訟の判決が3月25日、横浜地裁であった。
眞鍋美穂子裁判長は、この男性弁護士のみに約960万円の支払いを命じる判決を言い渡した。
すでに被告の男性弁護士から原告女性に500万円が支払われており、実際に認容されたのは計約1460万円となる。判決では、パワハラやセクハラのほかに解雇無効も認められた。
判決後に横浜市内で記者会見を開いた原告の女性は涙を流した。「結果が出るまで怖かったです。裁判所に主張が認めてもらえて感謝の気持ちでいっぱいです」と体を震わせて語った。
法律事務所を舞台とした使用者(弁護士)による雇用者(事務員)へのハラスメントを認めた判決について、原告代理人の嶋﨑量弁護士は「多くの法律事務所の弁護士は少人数で、その職場において強い力を持つと思われる。弁護士と事務員さんとの関係において、彼女だけではなく、いろんな被害がありうる。業界として、こういうことがないようにしなければいけない」と指摘した。
●労災申請→休業→労災認定前に解雇→提訴2010年に法律事務所で働き出した女性は、上司にあたる男性弁護士によって殴られるなどのパワハラ被害を受け、2019年3月に病院でうつ病と診断され、同年10月から休職していた。
女性が複数回にわたって、弁護士からげんこつで殴られるという身体的攻撃を受けたことなどから、2019年3月に精神疾患を発症したことが業務に起因するものだとして、労基署は2021年3月、労災を認めた。
労災認定される前の2020年7月、女性は解雇された。この解雇は無効だとして、男性弁護士とその共同経営者である弁護士を相手取り、地位確認と休業損害や慰謝料などの請求を求めて提訴していた(提訴は2022年2月7日付。請求額は最終的に約1738万円)。
●裁判所はセクハラと解雇無効も認めた判決文によると、裁判所は男性による女性への暴行・暴言によるハラスメントと、セクハラとして、次のような事実などを認定した。
「男性弁護士は、女性に対し、業務上のミスを受けて、事務所の自席に呼び出し、頭を出せと述べて、げんこつで、痛みを感じさせる程度の強さで、その頭頂部を殴打するということを継続的に行っていた」
「継続的に、異性として好意を持っていることを示すとともに、『40歳前後の女性は一番性欲が強くなる。そういう時はどうするんだ』などと女性が不快感を覚える性的言辞を述べるなどしていた」
横浜地裁は、これらの行為は、原告の人格権を侵害する不法行為にあたるとした。
また、原告のうつ病の発症は、使用者である男性弁護士のハラスメントによる不法行為と因果関係があり、労働基準法19条の「業務上」の「疾病」にあたり、うつ病の療養のための休業期間中の解雇は同条に反するものとして無効だとした。
原告側は、安全配慮義務違反も主張していたが、横浜地裁は、男性弁護士と、共同経営者であったもう1人の弁護士の安全配慮義務違反について認めなかった。
なお、判決によると、男性弁護士がげんこつで殴打した理由としては、女性がパソコンで原稿を入力した際に、「下記のように」と書くべきところ、「悪鬼のように」と誤変換したことに立腹したとしている。
●「生きるのを諦めようとしたことも」原告代理人の嶋﨑弁護士や佐々木亮弁護士が引き受けるまで、女性は相談した4〜5人の弁護士から受任を断られたという。
「何度も何度も生きるのを諦めようと試みましたが、その都度、そういうことはやっちゃいけないと主治医や嶋崎先生から怒られました。長い3年間でした」
弁護士ドットコムニュースは、被告の男性弁護士に判決の受け止めや控訴について、代理人を通じてコメントを求めている。
また、共同経営者である弁護士の代理人は「判決内容をまだ精査していないため、現時点ではコメントできない」としながらも、「安全配慮義務違反は認められず、(共同経営者の弁護士に対する)損害賠償は認められなかったので、その点は適切な判断がなされたかと思う」とした。

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