近年、日本各地で深刻な社会問題となっている空き家総務省統計局の2023年「住宅・土地調査」によると、日本の空き家は386万戸に達し、総住戸数6,505万戸の5.9%、実に17戸に1戸が空き家という状況です。一方で、これから家を建てる消費者側にとっては、「どんな家を建てれば後悔しないだろうか?」「本当に価値のある家とは?」……こうした疑問が浮かぶかもしれません。本記事では平松建築株式会社・代表取締役の平松明展氏の著書『住んでよかった家 理想の暮らしがずっと続く15の空間』(KADOKAWA)より、同氏の家の事例とともに後悔しない家選びについて解説します。

人生を豊かにするために家がある

家を建てたお客さまから「住み心地がとてもいい」といわれるとホッとします。また、「貯金ができるようになった」といわれるとさらにうれしくなります。家をつくる人の目的はそれぞれです。その家で充実した人生を送りたいという気持ちは共通しているでしょう。ところが、家を建ててローン返済や修繕費のために働くような気持ちになる人もいるようです。せっかく目的の家を手に入れたのに、残念だと思いませんか? 私は“家がその人の足(人生)を引っ張ってはいけない”と思っています

高性能住宅では安心と快適性を得られます。それは子どもや地域の未来にまで続くものです。その家で暮らす人が人生の目的を果たしていく。これこそが価値ある家だと思います。これを実現するためには、ライフプランをより具体的にすることです。ライフプランはそれぞれ違うものなので、当然、家の設計図も異なります。だからこそ、自分(家族)だけの家ができあがるのです

事務所兼自宅で家族が再出発

私が営む事業を成功させる拠点、家族を養う拠点として建てたのが、我が家です。住み始めて10年ほど経ちますが、安心して快適に暮らせています。私個人としては事業展開を続けられており、家族それぞれが人生の目的を果たしながら成長していることに充実を感じます。この家はWB工法太陽光発電という、現在の平松建築が手がける家のベースともいえます。一見、平屋のようですが、これは太陽光発電の設置で片流れの大きな屋根にしているからです。反対側に空間ができ、そこが2階になっています。

※壁の中に空気を通すことで室内の空気を循環させ、夏は涼しく冬や冷え込みを抑え、快適な住環境を実現する工法のこと

もちろん、「こうしておけばよかった」という点はいくつかあります。この家を建ててから約10年の期間で、工法、建材、設備など家に関するさまざまなことが発展していますから。ただ、WB工法と太陽光発電の恩恵は日々感じています。この組み合わせは、きちんと施工さえすれば失敗はないと確信できました。家族と一緒にいられる時間を楽しめる、なにものにも代えがたいです。

1. リビングを広げる南側の大きな窓

リビングに大開口の窓を設置。窓を開放すれば、ウッドデッキと庭の空間が広がり、大きなリビングと化す。ウッドデッキでお茶、ハンモックでお昼寝、庭で子どもや愛犬が遊ぶ。

2. 大きなひさしで日射遮蔽と風雨を防止

太陽光発電を設置した大屋根は、ひさしを大きくし、ウッドデッキや外壁を風雨から守る。夏場は日射調整にもなり、断熱にも有効。安定感のある外観も生み出している。

3. 家族が顔を合わせる間取り

リビングに階段を設置していることで、家族の行き来を確認できる。キッチンからダイニングとリビングが見渡せるので、家事をしながら家族の様子を見ることができる。

4. 断熱性と日射を考慮した窓の数と大きさ

断熱性を高めるために窓数や大きさを調整した設計に。小窓の配置は外観デザインにつながり、夜は外構の灯りとともに昼とは違う表情を見せる。

建てるべきではない家

私は日本家屋が好きです。天然木の風合いはもちろん、家の寿命を延ばすための設計と、それを実現するための職人技術を感じられるからです。100年以上もつ家ですが、冬場は寒いという特性もあります。この懸念点を払拭するために、新たな工法や建材を使った家づくりを進めているわけです。

日本には家が余っているといわれていますが、長く住み続けられる高性能の家はまだ不足しているといえるでしょう。将来に家の価値が残っていることは、例えば5000万円で建てた家が4500万円で売れるともいえます。35年の住宅ローンを払ったら価値が残っていない家は、建てるべきではないと思います。また、35年後のトータルコストは、高性能住宅であれば、低性能住宅よりかなり抑えられています(図表参照)。

そういった意味で資産形成はとても重要です。賃貸と違うのは、住宅ローンを返済したら、維持管理費と固定資産税、各種保険の支払いだけになること。高性能であれば光熱費も抑えられたままです。老後の生活が豊かになると思いませんか? 家づくりは投資価値の高いものだといえますよね。

住宅ローンを支払っている期間の生活、その後の生活で快適な暮らしができることは、お金では表せないことです。それは、人生を後押ししてくれているともいえるでしょう。家づくりの動機はそれぞれあってよいと思います。「子どもが生まれたのを機に広い住まいにしたい」「自宅で仕事ができるようにしたい」「二世帯生活をしたい」……。こうした動機に資産形成を取り込んでください。夢や目的をより実現しやすくしてくれると思います。

家づくりのプロだが「自分の家」に後悔も

古いものから学び、新しいものを生み出す「温故知新」という言葉。100年前の家から学べることもありますが、十数年前の家から学べることもあります。我が家で暮らして学べたことがたくさんあるからです。どんなに緻密にライフプランを作成しても、少し時間が経って変わることはあるものです。もちろん「そこは想定できたはず」ということは避けたいです。家族で暮らす場合、家の価値は家族それぞれで違ってくるものです。妻にも「ここが不便」と感じていることがあるようです。

例えば、洗濯物の動線。1階で洗濯したものを2階のフリースペースやバルコニーに持ち運んで干す手間です。家を建てた当初は、1階のウッドデッキや庭で干していましたが、犬を飼うことになり、干す場所を変更せざるを得なくなったからです。また、1階に設置した薪ストーブは、薪や火の管理が面倒であることがネックになっています。エアコンによる暖房よりも部屋は温もりますが、毎日の作業となると億劫になってしまうこともあるのです。

私の気づきとしては、水回りの建材の選択ミスです。天然木が好きなのでキッチンや脱衣室の床を全面板貼りにしましたが、キッチンでは汚れ、脱衣室では水の染みが出て、それを取り除くことは困難です。ここは、部分的にでもフロアタイルにしておけばよかったと思っています。

家事動線は想定外だったとしても、薪ストーブや水回りの天然木の使用は、私の趣味趣向を優先したことによる反省点です。家づくりは「最終的になにを優先するか」という判断の繰り返しでできあがっていきます。優先順位自体に間違いはなかったと思っていますが、デメリットを深く理解しておけば、別の対応策もあったと思います。よく同業者と「家づくりは本当に難しいですよね」という会話をします。お客さんによって答えがそれぞれあり、そこから学ぶことばかりです。

もちろん、私は我が家を「建ててよかった」と思っています。それは高性能がもたらす快適性や利便性という側面もありますが、やはり「考えてつくった」という過程があるからです。また、家をつくったらゴールではなく、私が人生づくりの道中に家族と一緒にいるからだと思います。「住んでよかった」と心から感じています。

平松 明展

平松建築株式会社

代表取締役

(※写真はイメージです/PIXTA)