
東京大学の研究チームによって、分厚いチキンステーキにぴったりな培養鶏肉が開発されたそうだ。
3Dプリンターで作られた培養装置は、まるで血管のような構造を利用して、お肉の内部にまで栄養を与え、「内部まで生きたまま!」の培養肉に仕上げることができる。味も食感も本物そっくりだという。
なんだかお肉が食べたくなってくるこのニュース、ひとまず近未来の食材を想像しながら読み進めてみてほしい。
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本研究は『Trends in Biotechnology[https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S016777992500085X]』(2025年4月16日付)に掲載されたものだ。
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これまでの培養肉の弱点
お肉の醍醐味といえば、分厚くてかみごたえのある肉塊にかぶりつくことではなかろうか?
霜降り肉の溶けていくような上品な美味しさもまたいいが、ワイルドに食いちぎれば、普段は忘れている野生の本能まで刺激され、満足感は格別なものとなる。
マンモス肉からペットフードまで、今後の人類の食糧供給を担うべく研究開発が進められる培養肉だが、実はまだ、これができていなかった。
培養肉は細胞を培養液に浸した状態で育てていく。ところが困ったことに、お肉がだんだんと育ち数mm以上の厚さになると、内部に栄養や酸素が染み渡らなくなってしまうのだ。
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するとお肉の内側にある細胞が壊死して、筋線維が形成不全を引き起こす。風味は低下し、食感にもばらつきが出る。だから、これまでの培養肉は薄っぺらい状態で我慢するしかなかった。
「内部まで生きたまま!」の分厚い培養鶏肉
そこで東京大学大学院情報理工学系研究科の竹内昌治教授らが考案したのが、まるで血管のような構造を利用したバイオリアクター(培養装置)だ。
3Dプリンターで作られたというこのバイオリアクターには、内部が空洞になった糸(中空糸)が張られている。
中空糸はただ空洞というだけでなく、半透過性の膜でできているために、内部を流れる培養液が外へと滲み出す。
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すなわち、ちょうど血管のように機能して、培養中の組織の内部にまで栄養や酸素を届けてくれるのだ。

そのおかげで実現したのが、これまでは難しかった分厚い培養肉だ。
中まで十分栄養と酸素が届いているので、細胞の壊死は起きていない。内部まできちんと生きているのだ。
今回の研究では、この内部灌流型のバイオリアクターを利用することで、内側の細胞にまで栄養が供給されることが確認されている。
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完成した11gの培養チキンは、噛みごたえのあるお肉らしい食感がアップしており、なおかつ中まで風味豊かであったという。
この成果は、薄っぺらい肉しか作れなかった培養肉の技術をさらに一歩進めてくれると期待されている。

だが分厚い肉を作れるバイオリアクター技術は、培養肉の分野だけでなく、人工臓器やバイオハイブリッドロボットの開発、さらには創薬や再生医療といった分野での応用も考えられるとのことだ。
References: U-tokyo.ac.jp[https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/press/z0114_00062.html] / Sciencedirect[https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S016777992500085X]
本記事は、海外で報じられた情報を基に、日本の読者に理解しやすい形で編集・解説しています。

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