
2年の歳月をかけて納車! これからのカスタムが楽しみ
レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之氏が、いま気になる「key word」から徒然なるままに語る「Key’s note」。今回のキーワードは「スズキ ジムニー」です。本屋さんで手に取ったジムニー雑誌との出会いをきっかけにスズキ販売店に駆け込み注文をしていたようです。
ジムニーの購入は恋に落ちたような感覚だった
あれは、春の名残を惜しむような、なんとも間延びした日曜日のことであった。
僕はと言えば、暇をもてあまし、近所の本屋をぶらぶらしていた。休日の常として、なにかしら心にひっかかる活字との出会いを求めていたのである。
その日、ふと手に取ったのが「ジムニースタイル」という雑誌だった。ページをめくった刹那、僕はもう、その誌面に魂を吸い取られていた。吸血鬼が夜毎の生贄を求めるように、ページを繰る手が止まらない。いや、あれは“読む”というより“憑かれた”に近い。
ジムニーのような小さな車体に施された数々のカスタム。まるで昔話に登場する鍛冶屋が、自分の鍬に魔法をかけてゆくような情熱がそこにあった。誌面は光り、エンジン音が聞こえ、泥まみれの冒険譚が、静かな書店で幕を開けていた。
読了もせぬうちに、僕はスズキの販売店に駆け込んでいた。気がつけばジムニー シエラの注文書にサインをしていた。これはもう、衝動買いというより、恋に落ちたようなものである。
納車までは2年。長い、実に長い恋の逢瀬であった。だがその間、僕はひたすら妄想を育てた。カスタムという名の愛の育成である。納車された暁には、寸分違わぬ姿に仕上げるべく、頭の中で何度も、何度もシミュレーションを繰り返した。思うに、ジムニーおよびジムニー シエラとは、「手を加えられること」を運命づけられた存在なのだろう。
開発者が仕掛けた“未完成の完成形”に手を加えたくなる
カップホルダーのひとつとっても、ユーザーの創意工夫を歓迎する構造になっている。いや、それどころか、最初から「さあ、ここに何かつけなさい」とでも言わんばかりにネジ穴が空いている始末。開発者がそこかしこに仕掛けた“未完成の完成形”である。
この確信犯的余白に応じるように、アフターパーツメーカーたちは腕まくりして乗り込んでくる。そうしてクルマは、人の手を借りて、完成に近づいていく。これはもう、“クルマ”という機械の話ではない。“文化”の話なのだ。
スズキとアフターパーツ業界。この共犯関係は、パリューチェーンと呼ばれる。“共に育て、共に潤う”という、美しき共栄の思想である。
かくしてジムニーの世界は広がる。カスタムされ、語られ、愛される。シエラ、ノマド、そして幾多のジムニーたち。三兄弟は、それぞれの人生を生きながら、ユーザーとともに物語を紡いでいるのだ。
そう、僕がこのクルマを手に入れたのは、ただの偶然ではない。いや、たしかに衝動ではあった。しかしその衝動の底には、カスタムの旅という、新たな幕開けの予感があったのだ。
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