
男性も「育児休暇」をとりやすい法制度がととのえられる中、SNSやネット掲示板では「育休とったのに育児しないパパたち」の存在が報告されています。
たとえば語学留学や資格試験の勉強に使ったり、旅行や長時間のゲームなど娯楽に費やしたりしているとのことです。中には、副業や飲み会にいそしんでいるという投稿もありました。
こうしたパパたちの育児休暇は「取るだけ育休」と言われています。女性からは「育休をとった夫が本当に何もしない。だったら仕事に行ってほしい」といった声も聞かれます。
会社や同僚としても、せっかく育児に集中できるよう送り出したにもかかわらず、本来の趣旨と異なる過ごし方をしていれば納得いかないでしょう。
もしも、育休中に育児をしていないことが判明した場合、会社はその人に対して、何らかのペナルティを科すことはできるのでしょうか。山田長正弁護士に聞きました。
●理論的には「無効」となる可能性もあるが・・・——育休中に、語学留学をしたり旅行をしたりしたのが判明した場合、会社側はその社員に何らかのペナルティを科すことは可能なのでしょうか。
育児介護休業法上の要件を満たしている以上、育児休業を取ること自体は法的に認められていますし、どのような方法で育児に参加するかまでは規制されていませんので、ペナルティを科すことは難しいでしょう。
ただし、当初より育児に参加するつもりがまったくないにもかかわらず、純然たる語学留学だけの目的で育児休業を取得し、育児にまったく参加しないことがありうるとすれば、育児休業の取得が権利濫用として無効となることも、理論的には考えられます。
この場合には、会社の業務に支障を生じさせたとして、ペナルティを科すことが不可能ではないかもしれません。また、このようなケースでは育児休業給付金の詐取といった問題も発生しえます。ただし、ここまでの話は普通ないでしょう。
●育休中の副業ビジネスは問題ないか——育休中に副業などのビジネスを始めるパパもいるそうですが、問題ないのでしょうか。もし副業が可能な場合、育児休業給付金をもらうことは可能でしょうか。
育休中に副業で収入を得ることは不可能ではありません。つまり、勤務先の会社が条件付きの場合も含めて副業を認めているか、就業規則を確認する必要があります。
近年、副業解禁が進んでいる傾向とはいえ、同業他社との副業を禁止しているところも多く、就業規則に違反する場合、思わぬ処分を受ける可能性もありますので、許可が必要なのかどうかも含め、必ずチェックしましょう。
副業が可能な場合、育休中に副業をした際でも、育児休業給付金を受け取れるケースもあります。
いずれにしても、育児休業給付金については支給条件が設定されており、別の会社に雇用されて働く場合、たとえば、基本的には育休中の1カ月間に10日を超えて働けば育児休業給付金が支給されません。
そのため、事前に育児休業給付金の支給条件を確認しておく必要もあります。
●育児に参加できるよう支援するには——会社側が、育休中の男性がきちんと育児に参加できるよう支援するとしたら、どんなことができますか。
この点、実際の事例として、総務省が発行している「男性育休の取得促進に関する事例集」では、各自治体がおこなっている取り組みを知ることができます。
たとえば、高知県での取り組みです。
職員から子どもが生まれる予定であるとの報告を受けた所属長などは、対象職員と面談を複数回おこないながら「男性職員の育休等取得支援プログラムシート」の作成や、バックアップ体制の構築などをおこないました。
それとともに、育児休業を取得するだけでなく育児に参画することが重要であるとの考えから、家族で家事や育児分担を話し合う際のツールとして、民間企業の取り組みを参考に作成した「家族ミーティングシート」を職員に提供しているようです。
この「家族ミーティングシート」は、具体的な育児への参加を促すツールとなっておりますので、会社側としても有効活用できると思います。
【取材協力弁護士】
山田 長正(やまだ・ながまさ)弁護士
山田総合法律事務所 パートナー弁護士
企業法務を中心に、使用者側労働事件(労働審判を含む)を特に専門として取り扱っており、労働トラブルに関する講演・執筆も多数行っている。
事務所名:山田総合法律事務所
事務所URL:https://www.yamadasogo.jp/

コメント