神に願う気持ちで聞いていましたーー。

生まれた際に他の赤ちゃんと取り違えられた東京都足立区の江蔵智(えぐら・さとし)さん(67)が、生みの親に関する調査を東京都に求めた裁判で、東京地裁は4月21日、都に対して調査を実施し結果を江蔵さんに報告するよう命じる判決を下した。

判決言い渡し直後、江蔵さんは、裁判官に向かって深々と一礼。記者会見で「東京都には1日も早く調査してほしい」と話した。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)

●46歳で両親とのDNA不一致が判明

訴状などによると、江蔵さんは1958年4月10日ごろ、東京都墨田区にあった都立墨田産院で生まれたとされる。

両親と弟との4人家族で育ったが、46歳となった2004年、体調不良で病院にかかったことをきっかけにDNA鑑定を実施したところ、父と母の両方とも一致しなかった。

そこで江蔵さんは2004年10月、出生時に別の親の元に生まれた新生児と取り違えられたことについて、東京都を相手取り損害賠償を求めて提訴。

東京地裁、東京高裁ともに取り違えがあった事実が認定されたが、生みの親に関する情報を得られることはなかった。

そのため、2021年11月、東京都に対して生みの親について調査する義務があることや慰謝料等に基づく1650万円の損害賠償などを求めて東京地裁に提訴していた。

●「分娩助産契約」に調査義務が含まれる

東京地裁(裁判長:平井直也、裁判官:行川雄一郎、北澤陸)はこの日、江蔵さんの生みの親が締結した「分娩助産契約」には、新生児の取り違えが発生した場合に出産医療機関が調査を尽くす義務が含まれると判断。

そして、「時間の経過によって債務者が生物学上の親を記録等に基づいて容易に知ることができなくなった段階においても、生物学上の親を発見するための合理的な方法による調査を尽くすべき義務として存続する」と指摘した。

損害賠償については、過去の裁判が「判決確定以降も精神的苦痛の発生が継続することを見越して、慰謝料算定の根拠としていた」などとして退けた。

●江蔵さん「母も時間がない」

判決が言い渡された直後、代理人が「やったよ」と笑顔を見せて江蔵さんと固い握手を交わした。

その後、司法記者クラブで記者会見を開いた江蔵さんは「真の両親の顔が見たい、兄弟がいるなら会いたいと思ってきました。控訴されたらまた時間が経つ。もう母も時間がありません。すぐにでも東京都には調査をお願いしたいです」とうったえた。

●代理人弁護士「東京都は控訴しないで」

この日の判決について、代理人をつとめる小川隆太郎弁護士は次のように話した。

「江蔵さんを救わないといけないという思いでやってきたが、その思いに裁判所が答えてくれた。

(赤ちゃんの取り違えは)ゼロではなく、特に江蔵さんの世代は当時かなりあった。江蔵さんのケースにとどまらない救済が必要だと思います」

もう一人の代理人、海渡雄一弁護士は「東京都には、控訴しないでこの判決に基づいて調査してくださいと、申し出に行きたいと思います」と強調した。

67年前の「赤ちゃん」取り違え、東京都に調査命じる判決 原告「真の両親の顔が見たい」「1日も早くお願いしたい」 東京地裁